11 雨の日(1)
その朝、亮太が学校の最寄駅のホームに足を下ろすと、少しだけさっぱりとした感覚がした。
サラサラとした雨の音。
それほど強い雨ではないけれど、ずっとしとしとと降る雨だ。
電車はたったの二駅と言えど、傘が充満した車内は些か息苦しい。
ホームに降り立ち少しだけさっぱりした、とは言っても、ジメジメとした湿気を感じるのには違いなかった。
亮太は、ただ無心になる。
こんな日は、じっとしているに限る。
手に持つ黒い傘、肩にかけた鞄、雨の日の革靴、首にかけたネクタイ。
そんな物の重さに気付くくらいなら、ただ無心に歩く方がいい。
前を行く大勢の学生達の後ろ姿を眺めながら、混んでいるところには潜り込みたくないと、少しだけ足を遅くする。
「みかみくん」
ふと、後ろから声をかけられ、振り向くと、そこには……。
そこには、黒いモジャモジャが居た。
制服の上に乗るモジャモジャ。
流石にこんなクリーチャーの知り合いは居ないと階段の方へ向き直ると、
「僕だよ……?」
と不安そうな声が追いかけてきた。
横に並んだ礼央は、おずおずと髪の間から瞳を覗かせた。
亮太が「ふはっ」と吹き出す。
「わかってるよ」
まじまじとその頭を見る。
湿気でボサボサになっているんだろうけど……?
元々、礼央は見た目にこだわる方じゃない。
ボタンはきっちり閉めて、ネクタイはちゃんと締めて、なんてところは几帳面そうだけれど。
髪がけっこう雑だったりするあたり、特に見た目にこだわる方じゃないのはなんとなく分かっていた。
けど。
「……すごい頭だな」
感心したように言うと、礼央が苦笑する。
「いつもはこんなに酷くないんだけど……。湿気と寝癖でなんかボサボサになっちゃって。水とかつけてみたんだけど、全然」
「なんか、スプレーとか持ってないの?えっと、整えるやつ」
実際のところ、亮太も特にそっち方面は詳しくはない。
「持ってない」
……だよな。
「サクならワックスとか持ってそうだけど」
「ああ、いつもキッチリしてるもんね」
「そう。あの短い髪をビッシィィィィィィって」
と言いながら、髪を靡かせつつサクのドヤ顔を真似ると、なかなかにウケた。
「ちょっ……!ははっ!!」
二人、黒い傘を差す。
傘を打つ雨の音が、ぱたぱたと傘の中でこだました。
「みかみくんは、髪の毛いつも通りだね」
「あー?うん。湿気で〜とかはないかな。寝癖はあるけど。まあ、お前よりは短いし」
亮太の髪は、サラサラなわけでもなく、比較的硬い髪なのだけれど、そのせいか、それほど湿気などで困るようなことはない。
「絶対それだけじゃないよ」
礼央の真剣な顔に、今度は亮太の方が笑った。
◇◇◇◇◇
れおくんは、おとなしそうですが、顔が可愛いし、話しかけると穏やかで笑顔も見せるので、周りの好感度は高いタイプです。
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