第52話 たとえばラストダンジョン後の――

「まぁ、こんなもんじゃろ」


 師匠はなんでもないように手をパンパンとはたく。


「なんなんですか、今の!?」

「何ってただの掌底じゃ」

「ただの掌底はそうはならんでしょ!?」


 詰め寄ると、師匠はいかにもそれが当たり前という顔をする。


 師匠の言ってることが理解できない。


 ただ掌底を繰り出しただけで、トカゲオオカミの何倍も強いモンスターたちが一掃されるとかバグでしょ。


 強い強いとは思っていたけど、いったい何者なんだよ。


「細かいことを気にするでない」

「細かくありませんよ!!」

「ほらっ、聞き込みにゆくぞ」

「あっ、待ってくださいよ」


 さっさと先に行こうとする師匠の後を慌てて追いかける。


 村が近づいてくると、その出入り口には門番が二人立っているのが見えてきた。


 二人とも瓜二つで、金剛力士像によく似た容姿に、色違いの中国の拳法家のような服を着ていた。


「「待たれよ!!」」


 二人は歌舞伎のように仰々しく手を突き出して俺たちを止める。


「お前たちは」

「いったい」

「「何者だ?」」


 交互に言う言葉を変え、息の合った連携で尋ねた。


「ワシはストラ。世界を放浪しておる武闘家じゃ。こやつはワシの弟子じゃ」

「トールと言います」


 師匠に促されて自己紹介をして頭を下げた。


「「ふむっ、どうしてここ、英雄が住む地『アヴァロン』にやって来たのだ?」」


 二人とも同じ仕草で顎に手を当てて俺たちを値踏みする。


 さっきからずっと寸分たがわぬタイミングで同じ動き、言葉を発している。完全にシンクロしていた。お互いの考えてることが分かるのかな。


 それにしても、アヴァロンだなんてどこかの理想郷みたいな名前だ。


「弟子の故郷の場所を尋ねにな。こことは別の場所から事故に巻き込まれて跳ばされてきたらしいのじゃが、故郷の名前は分かっても、ここからどの方角にあるのかも、距離も分からなくてのう。少しでも情報が欲しいのじゃ」

「「なるほど。そういうことか」」


 二人は手をポンと叩いた。


「それで? 村に入れてくれるのかのう?」

「「よかろう」」

「おおっ、そうか。それじゃあ――」

「「ただし!!」」


 師匠が村の中に入ろうとしたところで二人が立ち塞がった。


「「ここは実力こそが全て。入りたければ我らを倒してもらおう」」

「なるほど。分かりやすくてよいな」


 戦闘狂の師匠が手に拳をぶつけてやる気を漲らせている。


 師匠に任せておけば大丈夫だろう。


「「ちょっ!? ちょちょちょ、ちょっと待て。た、戦うのはストラ殿ではない。そこの小僧だ」」

「なんじゃと!?」

「え?」


 しかし、突然二人はしどろもどろになりながら俺を指名してきた。


 二人の言葉は寝耳に水だ。


 折角師匠がやる気になっていたから任せようと思っていたのに……それにしても、門番の二人のあの驚きよう……もしかして師匠の力量を察して戦うのを避けたか?


 さっき師匠から戦意が漏れていた。俺はそこまで感じなかったけど、門番は武術を使いそうだし、師匠の力を悟ったのかもしれない。


 武闘家として逃げたのと変わらない気もするけど、そこは俺が気にすることではないか。


「「聞きたいのは小僧の村の話だろう? 小僧自身が戦うのが筋ではないか?」」


 まぁ、二人の言うことも尤もだ。


「師匠、俺が戦ってもいいですか?」

「ふむっ。そうじゃな。仕方あるまい。ここはお主に任せよう」

「ありがとうございます」


 師匠も納得したのか戦意を抑えた。


 門番がホッと胸を撫でおろす。よっぽど師匠が怖かったらしい。


「制限はどうする? 掛けたままでよいのか?」

「はい。このままでやりたいと思います」

「そうか。お主がそういうのであれば、このまま戦ってもらおうかのう」


 走り込みの時は絶対解除してくれなかったのに、どういう吹き回しなのか。


 まぁ、ヤバくなったら制限を解いてもらえばいい。


 二人の前に立って顔を見上げた。


「「ほほうっ。アヴァロンの門番たる阿吽あうんの我らに挑むとは良い度胸だな、小僧」」


 俺が戦うと分かった途端、強気になる門番の二人。


「どこで戦うんですか?」

「「ここでよかろう。ルールは簡単だ。我らは攻撃はせん。小僧が我らを一歩でも後ろに下がらせれば勝ち。できなければ負け。これでどうだ?」」

「分かりました。それで大丈夫です」

「「では、かかって来い」」


 手をくいくいと動かして俺を挑発する。


 いいだろう。俺を舐めたことを後悔するといい。ほえ面をかかせてやる。


 身体に魔力を流せる量が制限されている。


 じゃあ、どうすればいいのか?


 簡単だ。流すのを魔力からハイ・エーテルに変えればいい。


 丹田で魔力を燃焼状態にすると、俺から燐光が散り始める。


「なんじゃ、その姿は……」


 後ろから師匠が何かを呟く声が聞こえた気がするけど、気にしてられない。今はそれよりも目の前の二人だ。


 腰ために構え、拳に全ハイ・エーテルを集める。


「じゃあ、いくよ?」


 完全に溜め終えたところで門番に声を掛けた。


「「いや、それは!? ちょっと待て!?」」

「待たない。はぁああああっ!! 蒼拳!!」


 焦る門番の言葉に耳を貸さず、俺は思い切り拳を突き出して二人にエネルギーを解き放った。


 二人に向かって青い閃光が突き進む。


「「うわぁああああああっ!!」」


 門番は動けずに閃光に包まれた。


「やれやれ……アヴァロンの門番の名が泣くぞ」


 門番とは別の声が聞こえたと同時に、俺の攻撃があっさり切り裂かれてしまった。


 そこには、真っ白な甲冑に身を包む人物が立っていた。

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