第04話 成長の兆し

「あう?」


 目を覚ますと、ママンとパパンが俺の顔を心配そうな顔で覗き込んでいた。


「トール!! 目を覚ましたのね!! あぁ〜、良かったわ」

「おおっ、目を覚ましたか!! 医者に行っても異常がないと言われてどうしたもんかと思ったが、目を覚ましてよかった」


 二人の表情が安堵へと変わり、ママンが俺を抱き上げてあやすように体を揺らす。


 まさかあんなことになるとは思わず、心配をかけてしまった。本当に申し訳ない。


 丹田の外側に繋がる道にある詰まりを貫通しようとしたら、我慢できないほどの痛みが襲ってきた。分かりやすく言えば、全身をメッタ刺しにされたような痛み。あれはどうしようもない。


 ただ、その甲斐あって鍛錬に進展があった。丹田から魔力が外に漏れ出している。魔力を感知できるようになった俺には分かる。


 それはつまり、俺の考えは間違っていなかったということだ。確実に魔法に近づいている。ただ、あの痛みはできれば二度と体験したくない。


 かといって、手をこまねいていては魔法を扱うことはできない。俺自身、今世は寿命を全うしたいし、愛情を注いでくれるママンとパパンも死なせたくない。


 一般人の俺でも魔法を使えるかもしれないのに諦めるわけにはいかない。タイミングを見てまた挑戦しよう。


 パパンが出かけていて、ママンが席を外した時を狙って試す。俺は淡い希望を胸に、魔力で詰まりを押して貫通できないか試すが、当然びくともしない。


 やっぱり思い切り貫くしかなさそうだ……。


 ――ゴクリ


 また、あの痛みを体験するかと思うと二の足を踏む。赤ん坊なのに脂汗をかいてるような気分になる。


 それでも意を決して、詰まっている部分に丹田の中で尖らせた魔力を叩きつけた。


「うぎゃああああっ!!」


 やはり今回も凄まじい痛みが襲ってくる。


 でも、前回よりは少しマシ。ほんの少しね。どうにか気を失わずに済んだし。


「トール!!」

「あぅ~?」


 別の部屋に行っていたママンが飛んできた。俺はそ知らぬふりをしてやり過ごす。


「あれ、おかしいわねぇ。確かに叫び声が聞こえた気がするんだけど……気のせいかしら。ママは少しやることがあるから大人しくしてるのよぉ?」

「あうあう」

「もしかしてもう言葉が分かってるのかしら。うちの子は賢いわぁ。それじゃあ、またあとでね」


 ママンが部屋を出ていくと、ホッと安堵の息を吐いた。


 二つ目の詰まりが解消され、丹田から漏れ出す魔力の量が増えている。魔力がゆっくりと体の中に広がっていくのを感じた。


 そのおかげ魔力の通り道がハッキリと分かる。


 詰まりかけていたり、やたらと細くなっていたりする場所があるけど、完全に塞がっているのは丹田から伸びている部分だけ。


 やがて魔力が全身に回り、皮膚から微量の魔力が漏れ出すようになった。


 これがママンやパパンと同じような状態だと思われる。俺は続けて次に詰まってる部分を魔力で突き刺した。


 へへへ、上等だ。


「ぐわぁああああっ!!」


 貫通すればするほど体内を流れる魔力の量が増える。


 それから目を盗んでは、何度も魔力の通り道の詰まりを貫き続けた。





 目を覚ましてから約四カ月経った頃。


「おおおおおっ!!」


 俺は丹田から繋がる魔力の通り道の詰まりを全て貫通させることができた。おかげで全身を巡る魔力量が驚くほど多くなっている。


 ただ、丹田から放出する魔力量が多くなったせいか、貫通するたびにしばらくの間、眠る回数が多くなった。


 元々一般人の俺は生来の魔力量が少なく、すぐ枯渇してしまうからだろう。しかし、その状態は時間が経つにつれて元に戻った。


 おそらく体が正常な状態にしようとして魔力量が増えたんだと思われる。


 だからといって今までと何かが変わった訳じゃない。ひとまず全身を魔力が流れるようになっただけだ。まだ、魔法が使えるようになったわけじゃない。


 流れをみると、ところどころ魔力の流れが詰まっていたり、流れが悪くなっていたり、より細い通り道にまで魔力が行き渡っていないことに気づく。


 まだまだ詰まっている部分が残っているみたいだ。俺は丹田にある魔力を意識的に穴に向かって多めに流し込む。


「ぐがっ」


 許容量を超えた魔力が流れ込んだおかげで、細くなっていた部分が広がり、栓がされていた場所が次々開通していく。もちろんその度に痛みが襲ってきた。


 でも、丹田からそれぞれの穴の詰まりを開通される時に比べれば、我慢できないほどじゃない。


 太い動脈のような魔力の通り道はもちろんのこと、毛細血管のように細い通り道まで全て貫通させ、俺は全身どこでも魔力を自由自在に操れるようになっていた。


 俺は全身に流れる魔力の道を魔脈と呼ぶことにした。


「まぁ、トールが一人座りしてるわ」

「トールならすぐにハイハイしそうだな」

「そうね、トールは天才だもの」


 そういえば、魔力が流れる量が増えるにつれて体が頑丈になった気がする。


 目を覚ましてからまだ四ヶ月くらいだが、すでに一人でバランスをとって座れるようになっていた。


 二人の期待に応えてハイハイしてやろう。 


「おおっ!!」

「まさか本当にハイハイするなんて!!」

「うちの子は神童だな!!」


 初めてハイハイしたが、驚くほどアッサリとできてしまった。部屋の中を縦横無尽に駆け回る。


 やっと自分の体を動かせるようになった。この状態で放出する魔力量を増やしたら、どうなるんだろう?


 すぐに試してみることにした。


「うぅ〜!!」


 なんか超高速でハイハイできるようになった。


 これってもしかして身体強化ってやつか?


「むわぁ……」


 そう思ったのも束の間、たった数秒で急に眠くなってしまった。普段流れている以上の魔力を全身に流すのは、想像以上に魔力を使うらしい。


「おい、今トール物凄いスピードでハイハイしなかったか?」

「ははっ、そんなまさか。きっと見間違いよ……」


 二人の声を聞きながら、我慢しきれずに瞼を落とす。





 目を開けると、カゴみたいな寝床に寝かされていた。


 多分、ママンが寝かせたのだろう。


 もう一度魔力を放出して全身に巡らせる。


 ものの十秒ほどでまた眠くなった。やっぱり、魔力を流す量を増やすと疲れるらしい。でも、さっきより明らかに時間が伸びている。


 これを繰り返していけば、今より魔力量は増えていく可能性が高い。成長の実感をした俺は、安心したまま再び眠りに落ちた。


 次に目を覚ました時、再び魔力を放出して全身に巡らせる。今度は十数秒くらいもった。確実に魔力が増えている。


 俺は目を覚ますたびに魔力を枯渇させ続けた。

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