第2話 戦闘
「さて、これから生徒会長を助けに行こうと思うのだが誰か私と共に救出に向かう勇敢な者はいないかい?」
キザ男マージが人質全員に聞く。
生徒会長キャサリン・エリザベートは大貴族の令嬢で人質としてはもってこいの人材。
皇帝派テロリストのリーダーは生徒会長を人質にして先頭車両に向かった。
「しかし、杖や魔導具が奪われてしまったし」
人質だった生徒の一人が答える。
杖や魔導具は全て貨物車両に持っていかれた。
「詠唱魔法があるじゃないか。それに我々はいざという時のために格闘術も学ばされているだろ?」
「そうだけど」
それでも人質となった学生の中で救出に向かおうとする生徒はいなかった。
「自分も行きます」
シリウスが手を挙げて答える。
「いや、いい」
「え?」
「君、ネクタイのカラーからすると新1年生だろう? ここは上級生に任せたまえ」
新1年生はネクタイの色が緑で、2年生は黄色、そして3年生は赤と決まっている。
マージ・マンジィーは赤だから3年生ということだ。
そしてマージを合わせて5人が貨物車両に向かうことになった。
◯
「で、私はどうするの?」
私は椅子に座っているシリウスに聞く。
「……俺も向かいたいのだが、先輩達が……」
そこへ大きな振動と悲鳴が響く
私達は皆、息を飲む。そして先頭車両の方角へと顔を向ける。
そしてまた振動と悲鳴が。
「……この悲鳴はマージのものだと思うけど」
「かもな」
そう言って、シリウスは立ち上がった。
「行くの?」
「ちょっと見に行ってみる」
「私も行くよ」
アリエルも立ち上がった。
(おっ! チュートリアル通りだ)
チュートリアルでは2人が先頭車両に向かい、テロリストのリーダーを倒して、生徒会長を助けるのだ。
「駄目だ。レディはここに」
「あら、私だって詠唱魔法を使えるのよ」
「しかし……」
「光魔法よ」
「!?」
この世界では光魔法は攻撃、防御、回復、補助まである万能なもの。
「分かった。そのかわり後衛にいるんだ」
「ええ」
「あ、私も行くよ」
「君も?」
「多少は心得があるの。魔法も使えるわ」
「……分かった」
私の時は止めないの?
「そうだ、君達、名前は?」
「私はアリエル・マンティコス」
「ルーナ・サルコスよ」
そして私達は先頭車両へと向かう。
前の車両には敵が2人いて倒れていた。きっとマージ達が倒したのだろう。
椅子や壁の一部が燃えていたり、壊れているので戦闘があったのだろう。
そして倒れた敵はネクタイやベルトで拘束されていた。
シリウスは離れたところにある剣を手にする。たぶん敵が持っていたものだろう。
私達は次の車両には入った。
「敵だ! 2人は離れて!」
シリウスが前を見て、私達に言う。
なんと敵がいたのだ。
(知ってたけどね)
そして椅子や車両の壁、床、天井が黒焦げになっていたり、破壊されていた。
明らかな激しい戦闘の跡。
たぶんここでマージ先輩達は彼らと戦い、敗れたのだろう。
マージ先輩達の姿がないことから外へ放られたのかな?
「敵だー!」
テロリストが後ろに向けて言うと前の車両からドタバタと増援がやってくる。
「下がって」
「うん。でも、その前に」
アリエルがシリウスに光魔法でバフをかける。
「ありがとう」
「私も攻撃魔法で援護するから」
私はサムズアップして言う。
「俺には当てないくれよ」
「分かってるわよ」
「それと俺が敗れた2人はすぐに逃げるように」
「「ええ」」
◯
シリウスは私の魔法での援護が必要のないくらいに完璧に立ち回り、敵を倒していった。
(ま、当然よね。チュートリアルでは2人でテロリスト達を倒すんだもん)
アリエルが光魔法でシリウスの傷を治療する。
「ありがとう」
「いえ、私はこんなことにしか役に立てません」
「こんなことじゃないさ。立派なことだよ」
(おや? チュートリアルでは好感度は上がらないはずだが? シリウス、フライングは駄目だよ)
「しかし、どうしてここだけ敵が多かったのでしょうか?」
「確かに不思議だ」
「前の車両は貨物車両だからだよ。生徒達の杖や魔導具の他に学校へ送る教材とかがあるの。貧困な彼らにとって、それらは貴重な戦利品なのよ」
「そうなの? 貴女、よく知ってるのね?」
「えっ!? いやー、ハハハッ」
このゲームやったからなんて言えないのでとぼけておく。
そして私達は貨物車両に入る。
「ここには敵はいないみたいだ」
「あっ、あんなところに宝箱があるわ」
RPGで見られる宝箱があった。シリウス達は不思議そうな顔をしていた。
それもそうだろう。たとえファンタジー世界でも宝箱なんて現実にそうそう見ないのだから。
「なんでこんなところに宝箱が?」
「それはきっと私達から奪い取った杖や魔導具があるのよ」
私は宝箱に近づき、蓋を開ける。
「ほら、こんなにいっぱい」
「本当だわ」
私とアリエルは自前の杖を取る。
「シリウスはいいの?」
「俺は剣なんだ」
「ルーナはどうして2本も?」
「え? ほら、こっちの方が強そうだし」
「それに他人のだよ。駄目だよ、勝手に持ち出したら」
「ちょっと借りるだけ。緊急時は仕方ないじゃん」
「だ──まあ、いいかな。緊急時だし」
「さあ、2人とも先へ行こう」
「待って! もうちょっと探してみない?」
私は前を進む2人に待ったをかける。
「ノーラ、どうしたの?」
「ほらシリウスの武器もあるかもしれないし」
「俺の剣は先に寮に送ったから、ここにはないよ」
「そうじゃなくて……」
「まさか……他人のを?」
「そうそう。緊急時、緊急時。ほら! あそこの裏とか剣が置いてあるかも」
ドア側付近にある荷物の山。その裏手を私は指差す。
「何を言って……これは!?」
裏手を見たシリウスが驚き、そして鞘に収められた剣を引っ張る。
「シリウス? その剣がどうしたの?」
「アリエル、これは我が国の国宝『七宝剣』の一つだよ。どうしてこんなものがここに?」
「テロリストの狙いの一つかもね」
初見はまさかチュートリアルに『七宝剣』があるなんて思わないよね。
ちなみにこの『七宝剣』は七つ集めると裏ボスイベントが発生する。
「ボロボロの剣より、こっちがいいんじゃない?」
「しかし、これは国宝。勝手に使えば、大きな罰を受ける」
「でも、このままやられたら国宝がテロリストの手に渡るかもしれないよ?」
「……」
「あー、ここに大貴族様がいればなー。私達は平民だから使ったりしたらお咎めごあるしなー。あー、誰かいないかなー」
私はチラチラとシリウスに目を向ける。
「……分かった。俺が使おう」
「大丈夫なの?」
「アリエル、心配してくれてありがとう。一応貴族だからね」
(何が一応貴族だ。お前は王族だろ)
◯
そして私達は先頭車両に入る。
先頭車両はガランとしていて顔に傷のあるテロリストのリーダーと部下2名、そして縄で手首を縛られた女子生徒。この女子生徒が王立魔法学院アルビオンの生徒会長キャサリン・エリザベートである。
「テメエら、よくもやってくれたな」
リーダーが一歩前に出て言う。
「お前がテロリストのリーダーか!」
「テロリストだぁ? 俺達は偉大なる皇帝復権派だ! このクソッたれた王権派が作る社会を
「その活動がテロリストなの?」
「音質育ちの嬢ちゃんには分からねえだろうよ」
「皇帝はもう死んだ! 跡継ぎもいない。今更、皇帝派が動こうともう傀儡はいないぞ! 結局はお前達が良い地位に就きたいだけだろ!」
「勝手なことを言ってくれる。行け!」
テロリストのリーダーが部下に命じる。
「2人とも行くぞ!」
「ええ」
「オッケー」
本当はシリウスとアリエルだけなんだけど、ここにいる以上は私も参加。
アリエルが光魔法でシリウスにバフをかける。そして私は敵の1人を氷属性魔法のフローズンアローで足止め。シリウスは敵の1人を倒し、私の攻撃で足止めされていた敵の1人も倒した。
「ほう!? 敵ながらあっぱれな連携だ。だが! その程度の連携で俺を倒せると思うな!」
テロリストのリーダーが手に持つ赤い玉を握り潰すと赤いオーラがリーダーの体から発せられる。すると軍服の上からでも分かるくらい筋肉が膨れ上がる。
「シリウス、気をつけて! この人、強いわ!」
「ああ!」
「俺の名はゲル。皇帝派四天王ミハエル様の直属部下。かかってくるがいい!」
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