竜の王子リュオンと不思議な力の少女ミシェル
槇瀬光琉
プロローグ
遥か昔、大地は荒れ、草木は枯れ、水も干上がった地に一人の少女が舞い降りた。
少女はその地を見て、嘆き、悲しみ、大粒の涙を流した。
少女の流した大粒の涙は荒れた地に落ち、やがて小さな芽が芽吹き、それは見る見る間にその地は緑豊かな地へと生まれ変わった。
その緑に誘われ様々な生物が集まり、人が生まれ初めての村が出来上がった。
少女はその地に留まり、幸せに暮らしたのだった。
――――――それがこの地に古くから伝わる伝承。古の言い伝え。嘘か誠かはわからぬが、人々が代々、受け継いできた伝承だった。
「おばば様、それからどうなったの?」
「その少女は?」
本を持つ老婆の周りの子供たちが集まり思い思いに聞き始める。
「ふぉっふぉっふぉ。昔の伝承だからねぇ。少女は村人と恋に落ち、家庭を築き、子を授かり、幸せになったと伝えられておる」
老婆は本を閉じ子供たちの問いに答えていく。
「私も、私も、大きくなったらお嫁さんになるぅ~」
「あ~!ずる~!私もぉ~!」
「お前たちじゃ無理だぁ~!」
「お転婆だもんなぁ~」
興奮してお嫁になるといった女の子たちに男のたちが揶揄い始める。
「ひどぉ~い!絶対なるんだから~」
「そうよ!なるのよ~」
「むりむり~」
「諦めろ~」
子供たちは言い合いをしながら老婆の前から走って行ってしまう。
「ふぉっふぉっふぉ。元気でよいのぉ。さて、そろそろ行かねばな」
老婆は杖をつき立ち上がると、本を持ち歩き始めた。
杖を突きながらもしっかりとした足取りで進み、一件の家の前に立ちキョロキョロと周りを見渡すと誰もいないのを確認してから
「ミシェル、出ておいで」
誰もいない空間へと声をかけた。
家の奥、陰に隠れた木の陰から一人の少女が姿を現す。
「おばあ様、頼まれていたお薬。本当にこれでよかったんですか?」
少女、ミシェルは老婆に頼まれた薬の入った小袋を取り出す。
「おぉ、ありがとう。ミシェル、これで最後じゃ、もうこの場所へ来てはならぬよ」
老婆はその小袋を受け取り懐にしまう。ミシェルは小さく頷いた。
老婆はそんなミシェルの両手を取り
「ミシェル、嘆きの雨だけは降らせてはならぬ。いいね、嘆きの雨だけは降らせてはならぬよ」
その言葉を口にする。
「おばあ様、どうして?」
ミシェルは母にも言われた言葉を老婆にも言われ驚きと戸惑いで一杯だった。
「さぁ、おいき。この場所に長居は無用。ミシェル、幸せになるんじゃよ」
老婆はこれ以上この場所に留まるのは危険だと言わんばかりにミシェルを追い返す。
「おばあ様、さようなら」
ミシェル自身も、それをわかっているので、老婆に小さく頭を下げると逃げるようにその場所を離れた。
「ミシェル、可愛いミシェル、どうか、どうか、幸せになっておくれ」
離れていくその背に向かって老婆は何度も、何度も同じ言葉を投げ続けた。
そして、それから3日後に老婆はその生涯の幕を下ろしたのである。
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