第6話 学校帰りの裏山にて

 滝山県水川県立水川高校は都会から外れた高校ですが、ここでも例外なく生徒による生徒への虐めは有りました。学校の裏側は市道が通っていて裏山が有ります。普通は一般生徒は通らないのですが虐めには恰好の場所です。長年その手の生徒に受け継がれて来たちょっとした広場は学校から見えず人通りも無くカツアゲやリンチに適した場所です。


 「よう緑川。毎月の謝礼金は用意して来ただろうな」

「赤城先輩済みません。今月はどうしても学校に納めないといけなくて……」

「あ、あー、聞こえないなあ。もし謝礼金を納めなかったらどうなるか判ってるだろうなあ」

城田組の恐喝から守ってやれなくなるんだけれどそれでもいいのかなあ」

(どっちにしたって恐喝されるのは変わらないし)

緑川太一は逃げるに逃げれない現状を憂いて小さく溜息をつきました。

それを聞いて赤城源太は激怒しました。

「この野郎俺に向って溜息付きやがったな、緑川のくせに生意気だ。サンドバッグにしてやるぜ!」

緑川のする事なす事が気に入らず許せないと思い込んでいる赤城は緑川を殴りつけました。緑川の頬は腫れあがり内出血して痣になるだろう跡が着きました。しかし驚いたのはそれを見ていた取り巻きの面々でした。赤城の拳が有らぬ方向に曲がり、青白く不気味な色になって腫上っています。

「イデーイデーイデーこの野郎何してくれやがった!くそ死ね死ね死ね」

赤城は今度は蹴りを入れます。何度も何度も蹴りつけます。しばらくするとそこに転がって呻いていたのは緑川ではなく赤城でした。蹴りつけた脚は膝から逆方向に曲がり、足首がフラフラ揺れていました。

赤城は泣き叫びました。

「ちくしょー許さねえ。傷害の罪で豚箱に放り込んでやる!おめえら判ってるだろうな。俺がこいつに大怪我させられた現場を目撃したんだからなあ!ちゃんと証言しろよ!」


赤城の父親が県会議員で、この町の経済界に大きな影響力が有ることを知っている取り巻きはまた父親の権力で自分が被害者になろうとしているんだと察していました。

その時です。

「キャハハハハハだっさーい」

女の子の笑い声が響き渡りました。

木の陰から小学生位のピンクの髪の美少女が現れました。どう見ても日本人には見えません。


 「な、何だ、お前は?」

「誰でもいいわ。あなたの不細工ないじめの様子はしっかりと、このスマホに取って置いたわ。手や足を出したのは全てあんたで彼は一切手を出してないわよ。冤罪を掛けようたってそうはいかないわよ。既にこの映像はSNSに投稿しておいたわ。あんたらの猿芝居は通用しないわよ。逆にこっちから警察に通報しておくわね」


パピです。パピは緑川に寄り添って言いました。

「可哀想にこんなに痣だらけになって。痛かったでしょうね。今直ぐ病院に行くわよ。診断書を書いてもらわないとね」

そう言って少女は緑川を軽々と背負って走り去っていきました。赤城の取り巻きは少女の怪力に驚いて啞然としていました。


緑川の痛みはパピの治癒魔法で我慢できる位に軽減してあります。傷や痣は治しません、診断書に重症として書いて貰う為です。

痣は顔だけでなく身体中についています。病院で診察前に緑川の痛みを元に戻します。お医者さんの前では本当の痛さに我慢できずに泣き叫ぶ緑川。

お医者さんは痛み止めを投与して、骨折していないか?内臓に異常は無いか?あらゆる検査をして怪我を見逃さない様に全力を尽くしました。赤城が蹴った所が痣だらけになって実に痛そうです。

緑川の両親はパピの知らせで病院に駆け込み我が子の痣だらけの身体を見て絶句しました。緑川の父親も赤城の経営する工場の子会社のさらに下請けだったので我が子が赤城の息子に虐められていたのは薄々知ってはいたのですが、赤城に文句をいう訳にはいかなかったのですが、この現状を見て決心しました。

戦ってやる。例えこの町に居られなくなったとしても絶対に泣き寝入りしてなるものか!

パピのスマホから映像を譲って貰って警察に提出したのです。病院の全治8ヶ月の診断書と共に。

赤城親子は何とかもみ消そうとしたのですが、映像は既に拡散されていてテレビの全国ニュースで放映されてしまいました。

それに伴ってこれまで赤城親子に泣かされていた人達の証言がテレビ局や新聞社に寄せられて赤城親子は社会的に抹殺されたのです。

勿論、パピの策略だったことは言うまでも有りません。

スマホで映像を残すことやSNSで拡散する事は桃恵の知識の賜物です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る