26度からの始まり

朝4時に起床する。外気温は26度だ。もう直ぐ太陽が水平線から顔を出す、そうすれば気温はうなぎ上りに上昇する。おそらく9時には30度を越えそうだ。とは言えこの時間はまだ涼しく町はまだ薄暗い。


医大病院での治療効果なのか、最近きよみさんの体調が良く、毎朝2時間ほど歩いている。今日も美保湾の自転車道を歩くことにする。


美保湾に面する弓ヶ浜の自転車道は長い。境港市の夢港公園から米子市の日野川堤防まで16キロほどの距離がある。以前はきよみさんと端から端まで自転車を漕いだものだが今はそれが出来ない。

「歩道を走れるキックボードを買おうか。好きな所で停めて散歩が出来るよ。」

「良いね!なんか楽しそう。」

こういう話では直ぐに意見がまとまるのが、私ら夫婦の軽い乗りなのだ。


「これからずっと治療だけなんて・・俺達らしくないだろう、楽しまなくちゃあ。」

「うん!やりたい事はやる。そのためにも体力は維持しなくちゃね。」

「先の事は解らないけど今できる事はやろう!」

「うん!出来る事はやる。」

そう答えるきよみさんの瞳の奥に不安の色が見える・・

・・そりゃあそうだろ・・


”複数の転移がある為に手術はできません”そんな最悪な話から始まった。

癌の進行を遅らせる為の治療・・

完治を目指す治療では無く、余命を伸ばすための延命治療・・

そんな事を言われたら、どう考えたって最悪だ・・


「キックボードを買おうか。」

「良いね!なんか楽しそう。」

私の話に乗ってくるきよみさんは強い・・

どうなろうと・・

この先どうなろうと、この乗りで行こう・・


https://kakuyomu.jp/users/minokkun/news/16818093081605152465







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