第52話 欲望の処罰

「アマンダは重大犯罪人ですから、収監されることになりました。

 守り石を盗もうとした犯罪人ですから、精霊石の採掘場に行かされるでしょう」


「精霊石の採掘場か。アマンダにはふさわしいだろう。

 最後まであきらめてなさそうだったからな」


「おそらく精霊石に魅了されたのでしょう」


「採掘場って、原石を掘るところよね?」


鉱山のような場所で働くのだろうか。令嬢として育ったアマンダが?

想像できなくて首をかしげていると、またライオネル様が困った顔をする。


「……隠さないで話して?」


「だが……」


「ライオネル様、ジュリア様は妃となるのでしょう。

 王族になるのであれば、知っておいた方がいいと思います」


「そうか……そうだな」


何か秘密があるのだろうか。

ライオネル様は少し悩んだようだったが、私へと向き直る。

それを見て、私も姿勢を正した。


「精霊石というのは、

 ペリシエ侯爵家の血をひくものでなければ採掘できない」


「え?」


「昔、ペリシエ伯爵家の当主が精霊と契約したんだ。

 精霊に魔力を与える代わりに、王家に宝石を献上させてほしいと」


「精霊と契約?本当に?」


まるでおとぎ話のような話に、本当なのかと確認してしまう。

大真面目な顔でライオネル様とハルナジ伯爵がうなずくのを見て、

嘘ではないと思ったけれど、信じ切れてはいない。


「まぁ、信じられないのもわかる。

 だけど、一度見たらわかると思う。

 ペリシエ侯爵家のものが精霊に魔力をあげると、

 その魔力の量にあわせて精霊石が現れるんだ」


「現れる?掘るのではなく?」


「場所はどこでもいい。精霊界からこちらに運ばれてくる」


「精霊界……本当に精霊が存在するなんて」


魔術も精霊も、クラリティ王国では失われた知識だ。

だけど、ジョルダリでは研究が進んでいるとは聞いていた。

精霊の存在が本当にあるというのなら、それも納得する。


「俺もペリシエ侯爵家の血をひくものだが、儀式の仕方はわからない。

 ペリシエ侯爵家を継ぐ者だけが儀式のやり方も継いでいく。

 そうして手に入れた精霊石は王家に献上され、

 王家はペリシエ侯爵家を特別な家として保護する」


「だからペリシエ侯爵家は特別な貴族家なのね」


「そういうこと。精霊石は利益を生んではいけないとされているから、

 王家にしか渡せないというのも精霊との契約のせいだね」


「なるほど……」


精霊石とペリシエ侯爵家、王家の関係はよくわかったけれど、

ちょっと待って……精霊石は掘る必要がない?


「じゃあ、採掘場というのは?

 精霊石は掘らなくてもいいものなのでしょう?」


「それは表向きに精霊石が取れる場所だとされている場所だ。

 ジョルダリの守り石、精霊石を欲しがる者は多い。

 ジョルダリの貴族はさすがに大罪だとわかるから盗まないが、

 他国の貴族が人に命じて盗もうとすることはよくある。

 そのため、精霊石の採掘場の場所を公表している」


「わざと公表しているってこと?」


「そう。盗もうとするものはそこに侵入しようとする。

 そこにいけば精霊石があると思っているからね

 本当はいくら掘っても精霊石が出ることはないんだけど」


いくら掘っても出ることのない採掘場。

そうよね、ペリシエ侯爵家の血をひくものじゃないと手に入らないって。

他国から精霊石を守るためだけに存在する採掘場。

掘っても精霊石は出てこない、形だけの採掘場……では、アマンダの仕事って。


「その採掘場にいるのは犯罪人だけだ。

 殺人や強盗、重大犯罪人だけが働いている。

 従属の首輪をしているから、勝手に外に出ることはできない。

 精霊石を一つでも発掘出来たら、外に出られることになっている」


「え?でも、掘っても出ないんでしょう?」


「出ないよ。一応は鉱山だから、他の宝石の原石は出てくるけど。

 何も希望がなくなったら犯罪者は動かなくなるだろう?

 精霊石が一つでも出れば無罪放免。

 しかも高価で買い取ってくれて、人生をやり直せる。

 そう思って、みんな必死に掘り続けるんだ。

 出ない限り、一生外に出られないからね」


「そういう処罰なのね……」


希望にすがって、出るはずのない精霊石を求め続ける。

死ぬまで出られないと、どこかで気がついたとしても、

それを認めることはできず……掘り続けるしかない。


「精霊石を欲しがっていたアマンダにちょうどいい罰だろう」


「うん、そうかもしれない」


いつでも人の物を欲しがっていたアマンダ。

奪ってでも、自分のものにしなければ気が済まなかった。


まだ十八歳。これから何年生きるかわからないけれど、

アマンダが後悔することはあるのだろうか。

もし後悔しても、もうやり直しはできないのだけど。





それから少しして、私とライオネル様は学園を卒業した。

一年だけだったけれど、ライオネル様は学園生活を楽しめたようだ。


「ジョルダリに帰りたい気はもちろんあるけど、

 もう少し学園生活を楽しんでいたかったな」


「ふふ。そうね。ライオネル様との学園生活はとても楽しかったわ。

 もし、一年の時からライオネル様がいたなら、三年間楽しかったでしょうね」


「あーそうすればよかったか」


本当に残念そうなライオネル様の手をつないで、校舎を見上げる。



「でも、留学してきてくれて本当に良かった」


「うん」


「……迎えに来てくれてありがとう」


「どういたしまして。ねぇ、ジュリア」


「なあに?」


手はつながれたまま、ライオネル様が跪いて私を見上げる。


「ジュリア・オクレール嬢。

 クラリティ王国を捨て、俺の妃になってくれますか?

 俺は生涯かけてジュリアだけを愛すると誓います」


「ええ、ライオネル様の妃にしてください。

 ずっと、ずっと私だけをそばに置いてくださいね」


「ああ、約束する!」


「きゃっ」


勢いよく抱き上げられ、悲鳴をあげてしまう。

だけど次の瞬間、ライオネル様が今まで以上に甘い目で見つめてくれるのがうれしくて、

つられて笑ってしまう。

多分、私も同じように甘い目でライオネル様を見ているんだわ。

だって、こんなにも好きって気持ちがあふれてきている。


「一緒に帰ろう。ジョルダリに」


「ええ」



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