第50話 閉ざされた希望(アマンダ)
次の日、侍女として馬車に乗ってジョルダリ国に到着する。
長い馬車の列が、少しずつ前に進む。
国境の検問が厳しいのか、なかなか終わらない。
ジョルダリに入国するのは初めてなので、
これが通常なのかはわからないが、時間がかかっているのはわかる。
待たされる時間が一時間をこえると、
さすがにこれはおかしいんじゃないのかと思い始めた。
窓を開けて確認しようとしたのか、
ルミリアとブランカがまだなのかと騒いでいるのが聞こえる。
到着してから二時間が過ぎたころ、
やっと私が乗った馬車が検問の順番になる。
乗っている人数、荷物などが書かれた紙を渡すと、
騎士が一つずつ確認していく。
こんなにしっかり確認していたから遅かったのか。
時間がかかった理由に納得していたら、騎士に聞かれる。
「アマンダとはお前か?」
「はい」
「平民だと?それは本当か?」
「……はい」
何か疑われている?だが、今の私が平民なのは本当のことだ。
家名もないので、ただのアマンダで間違いない。
嘘をついたわけではないのに、騎士は疑いの目で私を見る。
「少し降りてくれ。確認させてもらう」
「……はい」
「詰所で話を聞こう。こっちに来い」
命令する騎士の態度にいら立つけれど、逆らうことはできない。
馬車から降りると、騎士たちの詰所に連れていかれる。
騎士たちが休憩している部屋を奥へと進む。
どこに連れていかれるのか。
通された部屋は応接室のようだ。
普通の部屋に通されたことで、少しホッとする。
ソファに座って待つと、他の騎士が何か石板のようなものを持ってくる。
こんなものは見たことがない……ジョルダリ独自のものだろうか。
「これに手をのせてくれ」
「はい」
何だろうと思いながらも、石板に手をのせる。
石板が光ったと思ったら、文字が浮かび上がった。
"アマンダ・イマルシェ 重大犯罪人"
「は?」
「やはり隠していたか!」
「えっ?」
隠していた?元貴族だということを?
聞かれなかっただけじゃない!どういうこと?
どこに隠れていたのか、数名の騎士が部屋に入ってきて、
私の手を後ろに回して縛り上げる。
「痛い!やめて!」
「うるさい!犯罪人め!
隠れて入国しようだなんて、何を企んでいるんだ!」
「私は何もしていないわ!」
「重大犯罪人になってまで、何を言うんだ」
重大犯罪人って何よ。
騎士は何か書類を確認していたが、その中から一枚をぬいて持ってくる。
「あった。アマンダ・イマルシェ。
第二王子の守り石を盗んだ!?」
「守り石を盗む!?信じられん」
「なんてことをしたんだ」
守り石を盗んだ?第二王子から?
あぁ、ライオネル様のことか。
じゃあ、あのブローチをちょっと借りたこと?
「盗んでなんていないわ。
親友が持っていたブローチをちょっと借りただけよ」
「嘘を言うな。ちゃんとここに状況も書いてある。
第二王子から求婚されていたオクレール侯爵令嬢から盗んだと。
そのブローチを持っていた侯爵令嬢が、盗まれたことと、
お前が親友どころか友人でもないと証言している」
「そんなの嘘よ!」
「他の学生たちも証言している。
お前がブローチを自分のものだと言ったと」
ちっ。あの時、周りにいた学生たちの誰かか。
証言するなんてよけいなことを。
「守り石の件では、お前の罪はもう確定している」
「それはもう済んだことじゃない。
平民に落とされて罪は償ったはずよ!」
「確かにその処罰は受けたようだ。
だが、イマルシェ伯爵領から出てはいけない、
それも処罰内容に含まれていたはずだな?」
「……それは知らなかったもの」
お父様が領地から出てはいけないと言ってた。
それって、処罰の一つだったってこと?
知らなかったんだから、仕方ないじゃない。
「クラリティ王国から出国することは認められていない。
ましてや、ジョルダリに入国するなんて。
何をしようとしていたんだ」
「それは……侍女として雇われただけよ!
ルミリア様に聞いてもらえればわかるわ」
そう、ルミリアが侍女として雇ったから、
ジョルダリに連れて帰ると言われたから従っただけ。
私は悪くないわ。
「ルミリア様?あぁ、公爵令嬢か。
お前を入国させようとした罪で、
一緒にいた貴族令嬢二人も取り調べをしている。
しばらくは罪人としてここにいてもらうことになるだろう。
出られるのは処罰が決まった時だ」
「はぁぁ?」
罪人として?冗談じゃない。
これからジョルダリに行って、貴族としてやり直すのに!
「連れていけ」
「ちょ、ちょっとやめなさい!離して!」
両側から騎士に引っ張り上げられ、引きずるように連れていかれる。
廊下の途中で、どこかからルミリアとブランカが叫ぶ声が聞こえた。
「私は知らなかったのよ!早く帰して!
アマンダが犯罪人だなんてわかるわけないでしょう!」
「ルミリア様に聞いてちょうだい!私は関係ないわ!」
取り調べをしているって、本当だったんだ。
私を連れていく騎士がぽつりとつぶやく。
「あー、悪あがきしているのか。無駄なことを。
もう何を言っても貴族には戻れないのにな」
「理解してないから、こんなことしでかすんだろう」
「違いない」
貴族には戻れない?ルミリアとブランカのこと?
高位貴族じゃなかったの?
……私を入国させようとしたから?
それだけで貴族ではなくなるほどの罪なの?
じゃあ、私はどうなるの?
「ここでおとなしくしておけ」
入れられたのは暗くてじめじめした牢だった。
狭い部屋で、小さな寝台が置かれているだけ。
ぎぎぃっと音がして、ドアは閉められた。
窓もない、明かりもない部屋で、壁だけがうっすら光っている。
さわると苔がはえている。この苔が光っているのか。
……こんな場所に入れられるなんて。
外からの音も聞こえない部屋で、
寝台の上にうずくまるように座る。
やっと、ジュリアから奪い返せると思っていたのに。
見えていた希望が、もう何も見えない。
「……どうすれば。まだ、あきらめないわ。
あきらめてたまるものですか……」
強がりを言ってみたものの、
私の言葉は誰にも届かず暗闇の中に消えていく。
いくら考えても、この先どうすればいいのか何も思いつかなかった。
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