第41話 留学の目的
「本当に仮婚約の視察は言い訳だったのね」
「言い訳というか、俺はジョルダリで学園に通えなかったんだ」
「え?」
学園に通えなかった?ライオネル様は同じ年だから、
ジョルダリで二年通った後で留学してきたのかと思っていた。
「下手に通えなかったんだ。
それまで俺は社交してこなかったこともあって、
いろんなものが俺に近づこうとしていた。
学園なら近づきやすいだろう?
俺を王太子にしたい家の者たちが、特に令嬢とかね」
「それで通わないことに?」
「護衛や学友を選んでつけるっていう方法もあったんだけど、
俺だけにそうするのもおかしな話だろう。
兄上は自分の友人と一緒に通っていたのに」
「ライオネル様だけ特別扱いというのも目立つわよね」
「そう。特別扱いすればするほど、
やはり王太子になる予定なんだと噂にされる」
はぁぁとため息をつくライオネル様に、
今までずっと同じことで苦労してきたんだと感じた。
当事者たちは何一つ問題がないのに、
部外者たちが自分たちの利益を求めて好き勝手に動いてしまう。
それにふりまわされて、この国に六歳で逃げてきて。
また、学園に通うために逃げてきたというの?
「兄上たちが言うんだ。
学園は楽しいのに、通わせてやれなくてごめん、
一年だけだけどジュリアと学生生活楽しんでおいでって」
「そうなんだ……今、楽しい?」
「すごく楽しい。
兄上たちが言ったことがよくわかる」
本当に楽しいんだという笑顔にほっとする。
こちらの学園に通えたことで学生生活を楽しめたなら良かった。
「あぁ、もちろん、仮婚約制度について視察だっていうのも本当。
これから貴族家のもめ事をへらしていくためにも、
派閥の力は弱まらせたいんだ。
そのためにも政略結婚は全面的に禁止にしたいんだよね」
「うん、まじめに調べてたのは知ってる。
お兄様のために役に立ちたいのでしょう?」
「ああ、もちろん」
ここで少しだけ疑問に思った。
仮婚約制度を調べるために魔力についてジニーに教えた主って誰?
あの時はジョルダリ国王なのかと思っていたけど、
話に聞く限り違う気がする。
「ねぇ、ジニーの主って誰なの?」
「ジニーの主は兄上だよ」
「そうなの?」
「ああ。ちなみにジニーは兄上の従兄弟だ」
「え?」
「ジニーはエレーヌ様の甥なんだよ」
「ええ?」
第二側妃の甥?生家の伯爵家の令息ってことだよね?
あぁ、でも、近衛騎士とか専属護衛なら伯爵令息でもおかしくないかも。
第一王子の従兄弟って言われて驚いたけど、
それだけ身元がしっかりしているということだし。
「ほら……六歳の時に、俺の護衛は俺をかばって亡くなっただろう。
あの時、兄上の周りでもたくさんの者たちが亡くなったんだ」
「ライオネル様の周りだけじゃなかったのね……」
王位争いをのぞんだ貴族たちが命を狙ってきたって、
ライオネル様のことだけじゃなかったんだ。
第一王子は当時は九歳か十歳だよね……それもつらいわ。
「母上はエレーヌ様に遠慮して、俺の護衛を少なくしていたんだ。
兄上の護衛よりも多いと不満に思うものも出てくるからって。
だけど、エレーヌ様も母上に遠慮して、兄上の護衛を減らしていた」
「それじゃ、二人とも危なかったんじゃないの?」
「そう。俺と兄上が死にかけて、慌てて相談したらしい。
俺と兄上を安全に守るためにはどうしたらいいかって。
それで、お互いが一番信頼できる家族を相手側につけることにした。
俺にはジニーが。兄上のところには俺の叔父が護衛でいる」
「それはお互いを信頼していなければできないことね」
「そう。それだけ第一側妃と第二側妃は仲がいいんだと周りに示した。
母上が第一側妃になったことで悪く言うものがいたんだ。
本当は最初からそれを狙ってたんじゃないのか、
エレーヌ様と仲良しなふりして蹴落とそうとしていたんじゃないのかって」
「ひどい……」
「だろう?だから、その噂を蹴散らすためにも護衛を交換したんだ。
そのうえでどちらの護衛も数を増やした。
二度と隙をつくらないようにして、俺は落ち着くまで隠れることになった。
二年の間に暗殺を狙っていた貴族家はつぶされて、もうないけど。
ジニーは兄上のためにも俺を守っているんだ」
「そうなの、それは責任重大だわ」
もしライオネル様に何かあれば第一王子のせいだと言われることになる。
主のためにも、ジニーはライオネル様を守らなくてはいけない。
でも、それだけじゃないと思う。
いつもジニーがライオネル様を大事に思っているのはわかってる。
「ジニーにとっては、もうライオネル様も主だと思うけどね」
「それはどうだろうね。
まぁ、守る価値があると思ってくれるように頑張るよ」
この話をした三日後、もう一度分厚い報告書がジョルダリ国から届いた。
計画通りに全員の婚約が発表されたことと、
やはり問題令嬢の三人は大変な騒ぎようだったと。
とても素直に受け入れるような状態ではなかったと書かれていて、
ジョルダリに行ったときに何を言われるのかと気が重くなる。
「マリリアナはさっそく父上を探しに行ったようだ」
「離宮で休養中なのでしょう?」
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