第21話 狙われたもの
それからも毎日のようにアンディは私の部屋に来ては、
何か一つ持って行った。
子どものころから読んでいた絵本、クリスタルの置物、
光沢のあるリボン、小さなぬいぐるみ……
どれもお気に入りのものだった。
その中にはリーナからの贈り物もあったので、
持っていかれた時にはリーナが一番怒っていた。
「取り返してきましょう!」
「今、ヨゼフにお願いしているわ。
アンディの部屋に置いてないか見てもらっているの。
たぶん、私から奪うのが目的だから、
奪った後はそのへんに放り出しているんじゃないかと思って」
「まったく、質の悪い子どもです!」
「そうね……困ったものだわ」
最初のころは子どものすることだしと大目に見ていたのだけど、
持っていくものが、だんだん笑えないものになっていく。
そして嫌な予感はあたり、
ついにアンディは鍵のかかった引き出しを見つけてしまった。
「開かない!どうして!?」
「鍵がかかってるからよ」
「じゃあ、開けて!」
「……鍵がないから無理かな」
そこには大事なブローチがしまってある。
アンディに見せてしまったら、持っていかれてしまうだろう。
だから、鍵がないと嘘をついた。
それを聞いたアンディはあきらめることはなく、にやっと笑った。
「じゃあ、お父様を呼んでくる!」
「え?」
お父様を呼んでくる?どういうことだと思っていると、
本当にアンディはお父様の手を引っ張って部屋に戻ってきた。
「何の用だ」
「え?私は呼んでいませんけど……」
「ねぇ、お父様、ここを開けて!」
「っ!」
お父様はアンディに言われるままに引き出しを開けようとした。
だが、鍵がかかっているので開くわけがない。
「どうしてここは開かない?」
「鍵が……あの、鍵を無くしてしまって」
「鍵がない?アンディ、ここは開かないようだよ」
「いやだ!開けて!すぐに!」
お父様に言われてもアンディはあきらめようとしなかった。
ここに大事なものが入っていると気がついている?
……とっさに鍵を無くしたと言ってしまったけれど、
嘘をついてよかったと思う。
大事なものが入っていると言っても、お父様は開けろと言っただろう。
お父様は廊下に顔を出すと、家令のヨゼフを呼んだ。
「ヨゼフ!ヨゼフはどこにいる!」
「……はい!」
少しして、慌てたようにヨゼフが部屋に入ってくる。
ヨゼフは鍵のかかった引き出しを見て、理解したようだ。
「この棚の引き出しを壊してくれ」
「……すぐには無理かと思います。
この鍵を壊してしまうと、中に入っているものもだめになる可能性が高いです。
それに、これはその辺によくあるような家具ではありません。
この侯爵家に代々受け継がれているものではないですか?」
「……そういえばそうだな。
これはお祖母様が使っていたものか」
この家具は使わなくなった部屋にあったものだ。
古いから好きに使っていいだろうと思って使い始めたが、
まさか侯爵家に代々受け継がれているものだとは思わなかった。
「鍵を開ける者を手配いたしますと、
一週間ほどかかると思いますし、
壊してしまえば復元は難しいと思います」
「ふむ。侯爵家のものならアンディのものになるのだし、
壊してしまってもかわないが、少しもったいないか。
アンディ、鍵を開ける者を手配するから、待てるな?」
「えぇ……今すぐがいい!」
「壊すにしてもすぐには無理でございますよ?
こういう家具は盗難防止のために頑丈にできていますから」
高齢のヨゼフに柔らかく言われたからか、アンディは頬をふくらませながらもあきらめた。
「じゃあ、もういい!」
そういって、走って部屋から出て行った。
それを追うように、お父様も部屋から出ていく。
残ったヨゼフは小声で私に教えてくれた。
「お嬢様、おそらくまた来ると思います。
大事なものはもっと目立たないところにお隠しください」
「……そうね。あの子に見えるところに置いたらだめよね。
気をつけるわ」
「ええ、鍵の手配はしなくていいですね?」
「しなくていいわ。ありがとう」
とりあえず奪われなくて済んだけれど、
鍵のかかるところに隠しても無駄だと思うと、
どこに隠していいかわからない。
迷った結果、家にいる間は私の服の裏側につけておくことにした。
そして、私がいない間は家に置いておくのは不安なので、
学園にいるときには鞄に入れて持ち歩くことになった。
そうして良かったと思ったのは三日後のことだった。
学園から帰ったら、鍵の部分を斧で割られて引き出しが開けられていた。
それを見て呆然としていると、ヨゼフに謝られる。
「……申し訳ございません。お止めできませんでした……」
「あなたが悪いわけじゃないわ、お父様がしたのでしょう?」
「はい。どうしても開けてほしいとアンディ様にねだられ……」
「そう。我慢できなかったのね……。
あの子は引き出しを開けて満足したのかしら?」
「何も入っていなかったことで腹を立てていました。
これからもお嬢様の部屋に探しに来ると思います。
お気をつけください……」
「わかったわ……」
服の裏側につけたブローチを服の上からにぎりしめる。
見つからないように隠し続けなくちゃいけない。
これだけは奪われるわけにはいかないのだから。
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