第17話 隠された事実(アマンダ)

人がいないところを探そうとしたら、向こうからブリュノが走ってくるのが見えた。



「おい!アマンダ!」


「なによ?」


ブリュノにかまっている場合じゃないのにと思ったけれど、どうやら怒っているらしい。

あぁ、再儀式がなくなったから戻ってきたんだ。


「どういうことなんだ。ジュリアが参加しないって。

 再儀式はしないって言われたんだ」


「私も……さっきジュリア様から聞いて……驚いたわ」


「なんでだよ。ジュリアは俺に惚れてるんだろう?

 喜んで仮婚約するんじゃなかったのか!?」


「私だってそう思ってたのよ。

 ジュリア様からはずっと相談されていたし、喜んでくれると思って仮婚約を解消したのに」


ずっとジュリアはブリュノのことを見ていた。

好きだったのは間違いないはずなのに、否定していた。

理由として考えられるのはライオネル様?

だけど、あの真面目なだけが取り柄のようなジュリアが、

侯爵家の嫡子の立場を捨ててライオネル様の妃になるとは思えない。


「……なんでこんなことになったんだよ」


「もしかしたらだけど、ライオネル様の案内役を卒業までつとめるように、

 学園長からお願いされているのかもしれない」


「案内役があるから仮婚約できないって?」


「だって、ジュリア様がライオネル様の相手役をしているじゃない。

 仮婚約してしまったら相手をするのは難しいもの。

 だから参加しちゃいけないって言われたのかも」


「そんな……じゃあ、俺はどうするんだよ。

 アマンダとの仮婚約は解消してしまったんだぞ?」


私との仮婚約は解消してしまった。

一度解消してしまうと、もう一度仮婚約することはできない。

私にとってはブリュノと本気で婚約するつもりなんてなかったからいいんだけど。

婿入りしなければ行先のないブリュノにとっては死活問題だ。


「ねぇ、仮婚約にこだわらなくてもいいんじゃない?」


「は?」


「気にしないでジュリア様を口説いて、婚約してしまえばいいじゃない」


「……いや、それは」


「学園長だって、さすがに婚約したら案内役を交代してくれるはずだし」


「……どうかな」


いいことを思いついたと思ったのに、ブリュノの返事が小さくなっていく。

さっきまでの勢いが急に無くなっていったように見えた。


いつも考えるよりも先に動いているようなブリュノが迷ってる?

何かおかしい。そう思って人気のないところに引っ張っていく。


「なんだよ、引っ張るなって」


「ねぇ、何か隠しているんでしょ」


「はぁ?」


「ジュリア様を口説きにいけない、理由があるのよね?」


「……」


「もしかして、もうすでに婚約者がいるの!?」


あきらかにおかしな様子のブリュノにピンと来てしまった。

他に女がいるんだって。

だから、仮婚約はできても、本当の婚約はできない。

仮婚約については家に報告はされない。

婚約相手について口を出されないように、卒業するまで親にも内緒にされる。


だからこそ、ブリュノは正式な婚約をするわけにはいかないんだ。

その相手に知られてしまうだろうから。


「……っ。頼む!このことは黙っててくれ」


「呆れた……婚約者がいるのに仮婚約の儀式に参加するなんて」


「いや、婚約者って言っても、口約束なんだ。

 それに、相手がまだ十二歳なんだ。

 可愛いけど、そういうことはできないし、

 ちょっとくらい遊んでもいいだろうって思って」


「あんたねぇ、最悪だわ。

 私で遊ぼうとしたってことよね?」


「まだ何もしてないだろう!?」


確かに何もされていないけれど、それって私がそうしなかったからよね。

もしブリュノに惚れているような令嬢が相手になっていたら、

どうなっていたことか。


「ふうん。ジュリア様が結婚したいって言ったらどうするうつもりだったの?」


「……いや、口約束ではあるけど、家族ぐるみで仲がいいんだ。

 ジュリアと結婚するわけにはいかないかな」


「本当に呆れた。クズね。私だけじゃなく、ジュリア様も弄ぶ気だったのね」


「弄ぶって……そこまでは」


言いわけをしようとしたけれど、それは無理なんじゃない?

一度ならず、二度も仮婚約しようとしたんだもの。

それも、本気で婚約するつもりはなかったって。

……これはいい話を聞いたわ。


「この話、学園長に話したらブリュノは退学でしょうね」


「はぁ?」


「だって、筆頭伯爵家の私を騙したのよ?」


「解消しただろう?」


「儀式に参加すること自体がまずいのよ。

 婚約者がいたら参加できないの知っているでしょう?」


「……」


「しかも、再儀式まで参加しようとしていたわよね。

 ジュリア様にも言っちゃおうかしら」


ふふふと笑うとブリュノはにらみつけてくる。

だけど、そんなのは全然怖くない。


「……何をすればいいんだ」


「話が早くていいわね。

 じゃあ、これからは私の言うことを聞いてもらうわ。

 私、どうしても欲しいものがあるの」


これから私に従ってもらうために、

欲しいものと邪魔なものを説明する。

最初は何をさせられるのかと不安そうだったブリュノは、

話を聞いた後はいつものようにへらへらと笑い出した。


「そっちの性格が素なのか。いいぜ、従ってやるよ」


「そう。じゃあ、今日のところは婚約のことは黙っておいてあげる」


邪魔になればいつでも切り捨てられるし、

利用できる限りは黙っていてもいい。


ブリュノの婚約者が誰なのかと聞けば、

伯爵家の中位あたりの家だった。


隣国との取引を任されている外交官の家だ。

ブリュノの父が学園時代から仲がいいために、

お互いの家によく遊びに行っていたらしい。


そのうち、上の娘になつかれて、

家に婿に来てねとお願いされ、承諾した。

正式な婚約はその娘が学園に入る三年後にする予定になっている。


まぁ、正式な婚約ではないと言えば逃れられると思っていたんだろう。

だけど、そういう約束した相手がいる時点で騙している。

こちらのほうが身分が上だということもあって、

訴えられたらブリュノは間違いなく退学になる。


「なぁ、なんでそんなにジュリアのこと嫌いなんだ?」


「さぁ、なんでだったかしら。

 最初のきっかけはもうどうでもいいんだと思うわ。

 ただただ嫌いで、邪魔なのよ」


「ふうん。まるで好きって言ってるみたいだけどな。

 ずっとジュリアのことを気にしてて。

 だから親友だって言われても納得してたんだけど」


「好き?まさか」


だって、好きだったとしたら、

こんなに泣かせたいなんて思わないわ。

あの絶望したような顔がもう一度見たくて、

いいえ、何度でも見たくて。


今度こそは間違いなく追い詰めてあげないと。




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