第10話 ジニー
学園長室の前まで案内すると、ライオネル様はジニーを置いて、
一人で学園長室へと入っていった。
護衛なのにジニーを置いて行っていいのかと思ったけれど、
私を守るように言い残していった。
「昨日は申し訳ありませんでした」
「ええ?なんのこと?」
急にジニーに頭を下げられて、驚いてしまう。
「昨日、私が報告に行っている間に、お二人でカフェテリアに行っていたと。
男性と二人きりにさせてしまうなんて申し訳ありません。
ライオネル様は令嬢と二人きりで会うことなんてありませんでしたので、
そういう配慮にはいささか欠けているのです」
「あぁ、それで」
異性と二人きりで個室に入るなんて、令嬢としては避けたいところだ。
たとえ襲われたとしても令嬢が悪いことになってしまう。
だけど……
「そうね。ライオネル様じゃなかったら危険だったと思う。
でも、小さいころからなんとなくわかるのよ。
この人は私を嫌っているとか、無関心だとか、
良く思ってくれている、とか。
ライオネル様なら大丈夫だと思ったの」
両親から愛を受けなかったから、使用人の一部からは嫌われていた。
というか、見下されていると感じることが何度もあった。
そのせいか、話していると相手が敵なのか味方なのか、
そういう区別をしてしまう癖がついている。
「……もしかしたら、オクレール侯爵令嬢は魔力を読み取れるのかもしれませんね」
「魔力を?読み取る?」
「ええ。この国ではあまり魔力について研究されていないようですが、
ジョルダリ国では魔力についての研究がよくされています。
人の感情によって漏れ出す魔力が違うそうです。
おそらくそれを肌で感じ取れているのではないでしょうか」
「魔力……お伽話じゃなかったのね。
仮婚約の札に魔力が込められているとは聞いていたけれど」
大昔はこの国でも魔力の研究が進められていたと聞いた。
その名残で仮婚約の札に魔力がという話になっているのかと。
「それは本当です。
仮婚約について調べるために、私も魔力についての講義を受けてから来ました」
「ジニーは護衛じゃないの?」
「もちろん護衛が任務です。
ですが、私が見て気がついたことも報告するようにと。
魔力についての知識がなければ報告できませんので」
「それはすごいわね」
「いえ、私の気がついたことなんて、報告書に一行か二行増えるだけでしょうけど」
謙遜ではなく、まじめにそう思っているらしい。
「じゃあ、よけいにすごいと思うわ。
一行か二行の報告を増やすためにジニーに知識を与えたのでしょう?
ジニーの主はとても素晴らしい方だと思う」
「それはそれは。主をお褒めいただきありがとうございます!」
よほどうれしかったのか、ジニーが満面の笑みになる。
こうしてみるとそれほど年はいっていないのかもしれない。
三十歳を少し過ぎたくらいだろうか。
「ジニーとも長い付き合いになりそうね。
私のことはジュリアでかまわないわ」
「ありがとうございます、ジュリア様」
微笑みあっていると、ライオネル様が学園長室から出てきた。
「お待たせ……って、なんだかすごく仲が良くなってないか?」
「これから何度も顔を合わせることになるでしょう?
よろしくねって話していたのよ」
「ええ、ジュリア様は素晴らしい令嬢ですね。
今後はライオネル様とジュリア様、どちらもお守りさせていただきます」
「……まぁ、守るのはいいけど」
「なんで怒ってるの?」
「なんでもないよ。あぁ、教室に行く前に報告があるんだけど」
なんとなく申し訳なさそうにしているライオネル様に、
あまりいい話ではなさそうだと思った。
「学園長から正式にジュリアに案内役を頼むと。
俺が他の令嬢から直接声をかけられるのを許可すると、
騒ぎになってしまうだろう?」
「まぁ、そうよね。この国の王族はもうすでに成人してしまっているし、
王子様なんて滅多に会えるものじゃないもの」
「うん、学園長からもそう言われた。
だから、下手に話さないほうがいいと。
令嬢たちに殺到されるとけが人がでるだろうって」
「ええ?」
そんな大げさな、と思ったけれど、大げさじゃないかも。
一度遠くからこの国の王太子と第二王子を見たことがあるけれど、
ライオネル様ほど整った顔立ちではなかった。
それなりに王子様らしい容姿ではあったと思うけれど。
……ライオネル様よりも容姿の整った令息って、この国にはいないかもしれない?
「……それで、私にどうしろと?」
「察しが良くて助かるね。
俺に直接話しかける許可は出さない。
俺に何か用がある場合はジュリアを通すようにと」
「えええ?それって、責任重大過ぎるんじゃ」
「頼むよ」
「えええぇ……」
そんなことできるのかとジニーを見たら、ジニーにも頼まれてしまう。
「申し訳ありません、ジュリア様。
ライオネル様に令嬢をあしらわせるのは無理です」
「無理って……」
「令嬢に群がられるのに慣れていないのです。
おそらく容赦なく冷たく断って泣かせてしまうかと思います。
私が蹴散らしてもいいのですが、その場合はけが人が出てしまうかと」
「あぁ、それはそうね……」
いくらなんでも令嬢相手にジニーでは。
……これはあきらめて引き受けるしかなさそう。
「仕方ないわね、わかったわ。
限界はあると思うけど、できるかぎり令嬢は近づかせないようにするから」
「ありがとう。助かるよ」
あれ。さっきはライオネルが私を守るって言ってたのに。
これじゃあ逆じゃないかしら。
まったくもうと言いたくなったけれど、楽しそうなライオネルを見て口をつぐむ。
これも侯爵家としての役割かもしれない。
私以上の身分の令嬢はいないのだし、頼まれるのも仕方ない。
「じゃあ、教室に行こうか。
案内してくれる?」
「ええ」
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