糸瓜島奇聞録。(へちまとうきぶんろく)

猫野 尻尾

第1話:天降女子(あもろうなぐ)

蓮乗国歓楽街奇聞録。〜極上の月・遊女の囁き〜の別バージョンです。

淡い恋心的話もありな完全なミステリーです。


その昔、天上界も含めて天中地三国と言う大国があって、さらにその三国のうちの

ひとつ、地上に存在する「鏡花元きょうかげん」と呼ばれる場所がある。

そのまた「鏡花元」に地図にも載っていない「糸瓜島へちまとう」と言う島があってその島には仙人たちや仙女たちと一緒に人間も住んでいた。


そして、この物語の主人公「恋恋レンレン」もその糸瓜島で仙女見習いをしている。

もとは天上界に住む「飛天」と呼ばれる天女で社会勉強を兼ねて仙女になるため

天上界から糸瓜島へちまとうに降りてきた天降女子あもろうなぐ


恋恋のお師匠さんは「天翔星君てんしょうせいくん 」と言う仙人で天才的仙人の頂点にいるひとり。

仙人なんて呼ばれているから白いヒゲなんか生やした、かなりの老人だと思われがちだが、なんのなんの「天翔星君」の歳は恋恋と五つしか違わない。

恋恋が17歳だから天翔星君は22歳と言うことになる。

天翔星君は女性なら誰もが振り向くであろう容姿端麗な色男。


若いから未熟かと思われがちだがその実力は西遊記の孫悟空並み。

実際、天界で孫悟空が仙桃を盗んだ時、彼とも一戦交えている。

祭り事には興味がなく天上界から降りて糸瓜島で気ままな生活を送っている。

恋恋はその「天翔星君」の屋敷で小間使いをしながら仙女の修行をしているのだ。


「いいお天気・・・修行なんかやめて、お昼寝したいよね〜」


小恋シャオレン、サボっていては立派な仙女にはなれないぞ」


「あ?天翔様てんしょうさま・・・いらっしゃったんですか?」


恋恋は天翔星君から、小恋シャオレンと呼ばれている。

親しい人や仲のいい人はそう呼ぶようだ。


「まあ、気持ちは分かるがな・・・ぽかぽか天気だからな」

「私はこれから「書院閣しょいんかく」に筆を買いに行くが昼寝をする時間があるなら

おまえも一緒に来い」


天翔星君の付き添いも恋恋の修行のひとつ。

恋恋は普段から天翔星君の使いっぱで、なにかと街にはよく出ていた。


「そうだ、天翔様、最近この先の金貸しのお屋敷の主人あるじが奇妙な死に方をしてたって町中の噂になってますよ」

「死に方が変わってるからきっと殺されたんだろうって」


「ほう、奇妙な死に方とは?」


「金貸しの屋敷で主人とその家族、全員の肢体が転がってて・・・肢体には

頭がなくて真っ黒焦げになった体だけが残ってたんですって」


「ほう、また奇妙な・・・」

「それはたぶん人間の仕業じゃなかろう?」

「この島も平和なようで妖怪や怨霊が出没するから、そういう類の仕業かもな」

「一掃してしまう手もあるんだが、手強いからこちら側の犠牲を考えると

全面駆除は厳しいし時間がかかるだろうな」


「それだけ証拠があれば金貸しの主人を殺した犯人・・・めぼしはつくな」


「え?天翔様、お分かりになるんですか?」


「そうだな・・・おそらくは禍斗かとと言う妖怪の仕業だと思うが・・・」


「かと?・・・・????」

「でも、妖怪って普段は街には降りて来ないんでしょ?」


「まあ、それは時と場合だな」


「人間の中には変わった好色人がいて妖怪や物の怪や幽霊の女をそばに置いて

悦にいってるようなモノ好きな金持ちもいるって話だぞ・・・」


「わ〜キモ〜」

「殺されたって言う金貸しのお屋敷の主人もお金持ちだったんでしょ?」

「天翔様が言った今の話・・・地で行ってたんじゃないんですか?」


「そうかもな・・・」


「まあ、私たちには関係のないことだ」

「それより小恋「書院閣」の帰り・・・なにか食べて帰るか?」


「いいんですか?」


「私の思いつきについて来るのも修行のうち、どんな些細なことも

無駄にはならん」


「そんなもんですかね・・・食べるだけでしょ?・・・無駄に時間

費やしてる気がしますけど・・・」


「じゃ〜帰るか?」


「あ〜いや・・・修行、修行・・・お師匠様の言うことが一番」


天翔星君の提案に素直に従った恋恋だったが、この先、恋恋は天翔星君と

一緒に、真っ黒焦げにされて殺された金貸しの主人の事件に関わって行く

ことになる。


つづく。



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