第19話:盗撮者

 このままずっとリョクリュウと楽しく過ごせればよかったのだが、残念ながらそうはいかなかった。


「キヨシ、邪悪な気配が近づいてくる。

 ただの盗撮者ならいいが、刺客かもしれない。

 我は一旦山の中に隠れるから、急いで戸締りをしろ」


 そう言うと、リョクリュウは急いで山に隠れた。

 驚くほど素早い、これなら道路から強襲されても目撃されないだろう。

 俺は別の意味で安心して家の戸締りをした。


 山側の大窓を先に閉め、続いて風の抜け道に開けてあった、台所とトイレの小窓も閉めて鍵をかけた。


 戸締りをしながら、携帯電話で警察に緊急通報をした。

 ライブ放送を続けている防犯カメラにも、パソコンを使って危険信号を流した。

 これでライブ配信を見てくれている人にも非常事態が伝わる。


 1度殺されかけたから、もう1度狙われる覚悟はしていた。

 ここ、九州某県の借家を縄張りにしている警察署と、自宅のある場所を縄張りにしている警察署には、非常時には通報すると話してあった。


 警察官が駆け付けるのが間に合わなくて、殺される覚悟はしている。

 リョクリュウがいてくれなかったら、あの時確実に殺されていた。


 今生きていられるのはリョクリュウのお陰で、余生だと思っている。

 だからこそ、余生はリョクリュウと共に生きて行きたいと思っている。


 ただ、俺を殺した奴、襲った奴が逃げ切るのは許せない。

 だから多数の防犯カメラを設置して、犯人を特定できるようにしてある。


 リョクリュウが来ていない時には、全部の監視カメラでライブ放送している。

 リョクリュウが遊びに来ている時は、リョクリュウの姿が映らない監視カメラだけを使ってライブ配信している。


 道路を歩いている人を盗撮していると訴えられないように、無断で敷地内に侵入した者を訴えられるように、設置している監視カメラの半数近くが、敷地境界線に沿って横向きに設置してある。


 監視カメラを壊した奴が分かるように、他のカメラが映像内に入る画角だ。

 ライブ配信している映像には、誰が観ても借家の敷地が分かるように、借家敷地境界線を赤く記している。


 残る監視カメラは、4つの役目に分かれている。

 外からの侵入者を映し外郭の監視カメラ群を壊す奴も映すように設置している物。

 借家の侵入しようとする奴を家の外側から映すように設置している物。

 借家の侵入しようとする奴を家の内側から映すように設置している物。

 俺を殺した奴を映すように設置している物だ。


 その全てがちゃんと起動しているか、ライブ配信しているかを確認する。

 道路から敷地内に入り、スマホで借家を撮りながら敷地内に侵入する、4人組が映っている監視カメラがあった。


 夜なので映りは悪いがしっかりと顔を捕らえていて、若い奴らに見える。

 事も有ろうに、ライブ配信している監視カメラにピースサインを出しやがった。

 ネット配信されているのを知っていて、敷地に入って来やがった。


 大声で会話しているようで、ゲラゲラ笑っている表情が映っている。

 愉快犯なのか、有名になりたいガキなのか、それとも本当の刺客なのか?


 4人組が無警戒に借家の裏、山側にやってきた。

 玄関も勝手口も無視して、道路の死角になる裏側にやってきた。


 訪問するのではなく、襲撃しに来たと疑われても仕方のない行為だ。

 少なくとも、1度殺されかけた俺が、襲撃者だと疑ってもしかたがない行為だ。

 俺に見つかっても平気なのか、借家の中にまで声が聞こえていた。


 4人組が戸締りされた雨戸をガタガタとさせる。

 力尽くで開けて借家内に侵入しようとする。

 バカ笑いしながら行っている姿が、全てライブ配信されている。


 ドン、ドン、ドン


 ついに力尽くで雨戸が外された。

 古い雨戸やサッシは、垂直に上げてから手前に引くと抜けるようになっている。


 ガラス戸も力尽くで外すのか、それともガラスを割って侵入するのか?

 刺客だった場合を考えて、武器代わりに用意しているスコップを持つ。


 塹壕が主戦場だった第一次大戦では、兵士が最も信じた武器はスコップだった。

 だから家には、総金属製の振り回しやすいスコップを置いてあった。


 殺されかけた事があると言っても、幾ら国会議員でも、銃や剣は持ち歩けない。

 ギリギリ規制されていない剣鉈でも、街中で持っていたら職質される。


 いや、自宅や借家に持っているだけでも警戒されるだろう。

 何より、俺を敵視しているマスゴミから総叩きされるのは間違いない。

 

 だが、農地と山林を借りている俺がスコップを持っていても問題はない。

 そうだ、山林を持っているのだから、エンジン式のチェーンソーを持っていても、誰にも咎められない。


 ガタガタガタガタガタ


 窓ガラスは割らずに、また4人で持ち上げて、ガラスサッシを外しやがった。

 4人組の動きは監視カメラで丸見えだから、スコップを握って死角に隠れる。

 一歩でも借家に上がってきたら、殺す。


「ウゥウウウウウ」


「「「「「ギャハハハハハ」」」」」


 パトカーの音が聞こえた途端、4人組が大笑いしだした。


「おっせぇ~、遅すぎる」


「今頃やって来やがった、俺達が殺し屋ならもう殺し終わっている」


「キャアッハハハハハ、これで私たちも前科一犯?」


「有名国会議員襲撃未遂なら箔がついて良いんじゃない?」


「こいつと敵対している日弁連が無罪にしてくれるから大丈夫、前科はつかない」


「そう、そう、マスコミも味方だから大丈夫」


「テレビ局の社長から頼まれたんでしょう?」


「そうそう、動画に連絡があって、100万円振り込まれていたと言ったろう」


「貴様ら何をやっている?!」


 血相を変えた警察官が怒鳴る。


「キャアッハハハハハ、テレビ局に頼まれて取材?」


「そうだ、取材だ、警察の横暴は許されないぞ!」


「そう、そう、下手な事をやったらテレビ局に叩かれて、辞職させられるぞ」


「キャアッハハハハハ、うける」


「住居侵入の現行犯と殺人未遂の疑いで緊急逮捕する」


 怒り、怒髪天を衝いた警察官が確保する前に宣言する。


「誰が殺人未遂だ、取材だ、取材、警察が不当逮捕するぞ」


 4人組は、スマホで自撮りしたり互いを撮りあったりしていたが、一斉に警察官の顔を映そうとした。


「キャアッハハハハハ、殺人未遂だって、うける」


 4人組は暴れて抵抗したが、十分な訓練受けた警察官に、享楽的な生活をしている若者が抵抗できるはずもない。


 直ぐに確保されて警察署に連行されて行った。

 俺は残った警察官から事情を聞かれたが、結構時間がかかった。

 パトカーを敷地内に入れた2人組の警察官が、朝まで警護してくれた。


 警察署全体に何か差し入れしよう。

 個人に渡すと問題だが、警察署全体や個別の部署への差し入れなら大丈夫だろう。


 少なくとも、俺が壮年会の会長をしていた時には、祭りで出張ってくれる警察署に渡した商品券やビールは受け取っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る