守るために強く───
「交流会?」
学園生活が終わり、大聖堂の敷地内にある庭にて。
日課の剣を振りながら、上半身裸のイクスは首を傾げる。
「あぁ、主人は説教で二時間ほどどこかに行っていたからな、聞いていないのも無理はないだろう」
「何故か俺だけだったのが不満でしかない」
イクスの強さの秘訣を探るために舎弟となったクレアは、横で同じように剣を振る。
「入学した生徒は数が多い。関わる機会も少ないため、一日他学年と教師を休ませて一年生だけの空間を作るんだ。授業はなくて、その間は好きに色んな人間と交流しても構わない」
「ふぅーん」
「もちろん、安全面やトラブルのことを考えて最低限教師や警備の人間はいるがな。貴族の人間からしてみれば、絶好の機会というわけだ」
貴族は全員が騎士や魔法士といった道に進むわけではない。
国の重要ポストに就いたり、家督を継いだり、運営する側に回る人も多い。
そのため、貴族界での関係値というのはとても大事になってくるわけで、学園という関係が作りやすい環境は縁作りにもってこいなのだ。
そこに行われるイベント……将来のことをしっかり考えられる人間であれば、気合いを入れて交流するだろう。
「すっげぇ、俺に関係のない話だな」
「……主人も少しは頑張った方が将来のためだと思うぞ?」
「逆に聞こう、俺と仲良くしたい人間がいると思うか?」
「……………目潰しされたあとなら」
「そんな言い難そうに答えるなら初めから言うなよ」
ナチュラルに顔面をディスってくる舎弟である。
「にしても、最近お前もちゃんと剣を振れるようになったなぁ」
イクスはクレアの方に視線を向ける。
そこには、しっかりと姿勢を崩さず剣を振る姿が。
「ふっ……主人の無茶な素振りも最後まで付き合っていたからな、成長したのだろう」
「あと一万回残ってるけど」
「ふっ……今日も筋肉痛、か」
クレアは遠い目を浮かべた。
「あら、随分と頑張っておられますね」
その時、庭の入り口から一人の女性が姿を見せた。
艶やかなプラチナブロンドの髪が夜風に靡き、いつもの修道服とは違う寝間着姿が月夜に照らされる。
そんな絵として飾れそうな登場の光景に、イクスは少し見惚れてしまった。
一方で、クレアは振る腕を止めてその場に膝を着く。
「お初にお目にかかります、聖女様っ!」
「ふふっ、頭をお上げください。畏まられるのはあまり好きではないのです」
「……なるほど」
ソフィーとエミリアとは顔を合わせたことがあるが、クレアはウルミレアとは初めてだ。
そのため即座に頭を下げたのだろう。
しかし、ウルミレアの計らいによって顔を上げたクレアは「いい人だ」と、改めて印象を付けた。
「聖女様はどうしてここに? 男の半裸を覗きに来るならセレシア辺りだと思っていたんっすけど」
「セレシア様なら、エミリアと「添い寝を賭けて勝負です」と言ってトランプをして遊んでおりましたよ」
いつの間にか賭けの対象にされてる。
イクスは少しばかり頬を引き攣らせた。
「ソフィーは?」
「あの子は礼拝堂の修繕で頑張っている大工さんに差し入れを作ると、今頃厨房にいるかと」
「ええ子やなぁ」
最近できた妹は本当にいい子がすぎる。
きっと、自分を助けるために壊した礼拝堂に対して責任を感じて差し入れでも作っているのだろう。
誰にも非がないし、イクスなんかガン無視して鍛錬に勤しんでいるというのに。
イクスの瞳にひっそりと涙が浮かんだ。
「しかし、聖女様は何故ここに? 私達に何か用事でもあるのでしょうか?」
一人で足を運んできたウルミレアに、クレアは首を傾げる。
すると―――
「そ、その……イクス様がどのような人なのか、改めて知りたいと。何せ、将来一緒にいる殿方ですし……」
「……主人」
「ん? なんだ、セレシアしか向けてこないジト目をついにピンクおぱんちゅ騎士も向けてくるようになったのか? ダメだぞぅー? 変なことを学んじゃ」
「………………」
「あれ、いつもの恥ずかしがってのツッコミは!?」
この主人はまた変に女を誑し込んで。
自分の下着をいつの間にか知られていたことよりも、主人の女誑しっぷりの方がクレアにとって重要であった。
「ごほんっ! しかし、イクス様達は勤勉なのですね。学園での授業があったというのに、こんな時間まで研鑽など……」
「私は強くなりたいから主人についていっているからな。主人が剣を振るというのであれば、私も振らなければならん」
「ふふっ、あなたは将来頼もしい騎士になるでしょうね」
ちなみにイクス様は? と、ウルミレアの視線がイクスに注がれる。
すると、イクスはさも当たり前のような顔で―――
「(自分の命を)守るため、だな」
「守る、ため?」
「あぁ、強くならなければ
嘘偽りのない言葉。
イクスは、今日という日まで自分の破滅フラグを叩き折るためだけに実力を磨いてきた。
今後も、この気持ちが変わることはないだろう。
その瞳が、ウルミレアにだけしっかりと注がれる。
それを聞いたウルミレアは―――
(わ、私のことをそこまで……ッ!?)
顔を盛大に真っ赤にさせ、俯いてしまっていた。
一方で、間に挟まれているクレアな納得したように手を叩いた。
(なるほど、主人の女誑しの理由が分かったぞ)
主人は圧倒的に言葉が足りないんだ。
今度、国語でも教えよう、と。クレアはこれ以上の被害を出さないために瞳を燃やし始めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます