豆は賞・第二回さいかわ葉月賞編
テーマ、『夏』。
第二回さいかわ葉月賞、選者豆ははこ特撰、豆は賞受賞作品をご案内いたします。
山田あとり様ご著作『ヒグラシはもう聞こえない』です。
選定いたしましたこちらのご著作のサブタイトルは、『泣いて鳴いても』。
まず、ご著作冒頭部分を引用させて頂きます。
あの夏の記憶はヒグラシの声に塗りつぶされている。
林のそこここで鳴いては消えるヒグラシ。
降りそそぐ蝉時雨が聞き慣れず、私は足をすくませて歩いた。
カナカナカナ……カナカナカナカナ……。
他に聞こえるのは下草を踏む私の靴音と、手首をつかんで放さないあの人の吐息だけ。
蝉しかいない静謐の森。とまる時間。いちども泣かなかった私の子――――。
以上が引用となります。
誰が泣くのか。鳴くのは誰か。そして、泣かなかったのは……。
ないてほしい、ないてほしい。あなたがいきていたあかしを聞かせてほしい。
生きている蝉たちの声が聞こえる中、亡くなった我が子を思う主人公たる女性。
女性が愛する我が子『あの子』を失ったのは、第一の理由は身勝手な交際相手、男性にあります。
ただし、主人公女性に落ち度がないかというと……。直接的にではございませんが、作中にて不快の意を示す第三者の存在もありますほどでございます。
それでも、主人公の心は、我が子『あの子』への気持ちは。
どこに行けば、何をすればよいのか。
ケーキを買い、祝えばいいのか。
ひたすらに迷い、ねじれています。
同じアパートの住人が下着ドロボウという身勝手な存在であることも、主人公の交際相手だった男性の同種、身勝手な男性(もちろんすべての男性という性に向けてではなく、あくまでも独善的に女性という性を消費しようとする性、としての男性です)という存在を象徴していると感じました。
斯様な主人公の事情、ねじれた感情の解。
それらは、夏の象徴、蝉の声とともに少しずつ、読み手の前に示されていきます。
そして、前者。本作の『夏』の象徴、蝉の声。こちらにつきましては。
日中、囂しい選挙カーが行き交う中でも、現実では蝉も鳴かないほどに暑い酷暑であっても、選者である豆ははこは、確かに作中からの蝉の鳴く声を聞きました。
こちらのご著作の蝉の声は、読む者を夏に誘います。あの音が、暑さが、脳裏に響きます。それが、豆は賞選定の最たる理由でございます。
また、泣く声を亡く声と読みましたことも、理由のひとつであります。(こちらは選者の感じ方からの読みであります)
爽やかとは言いがたい、どろりとした夏の暑さ。終盤の我が子、『あの子』と『父親』の対比の鮮やかさも、実にはっきりとしています。
本作には、しっかりとした『夏』がございました。
山田あとり様の『夏』。確かに拝読そして拝聴をいたしました。
濃い『夏』を、まことにありがとうございました。
そして、主催者犀川よう様、ともに審査をさせて頂きました惣山沙樹審査委員長様、鍋谷葵様、もちっぱち様、鳥尾巻様、天川様、うみべひろた様。
そしてご参加くださいましたすべての皆様方。
第二回さいかわ葉月賞。
豆ははこ特撰、豆は賞審査員としましての充実した時間、素晴らしい『夏』を頂戴できましたこと、ありがとうございます。
末尾にて、ご著作へのリンクを貼らせて頂きます。
作者様の注意喚起をお読み頂きました上で、ご納得を頂けましたときには拝読をお願い申し上げます。
https://kakuyomu.jp/works/16818792439121654223
注意喚起をご了承頂きましてお読み頂きましたときには、なく声とともに、テーマ『夏』を感じて頂けますこと、間違いなしと存じております。
よろしければ、ご拝読をお願いいたします。
二丁目スナックさいかわ オーナー豆ははこ編 豆ははこ @mahako
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