転移先はドラゴン三姉妹のいる島でした~神様からもらった万能クラフトスキルで、開拓スローライフを満喫します~

いちまる

異世界転移→謎の島

「……なんだこりゃ」


 気づくと俺は、白い砂浜の上に立っていた。

 ざざん、と打ち寄せる波の音と、どこか遠くを飛ぶ鳥の鳴き声が聞こえる。

 瞳に映る光景は、遥か彼方の水平線と、青い空に白い雲、どこまでも続いて見える海。


「ここはどこだよォ~っ!」


 それらすべてが現実であると悟った瞬間、俺は天を仰いで叫んでた。

 もっとも、大声で叫んでみたところで、俺のマヌケな声が大空にこだまするだけだが。


「落ち着け俺、冷静になれ……なんでこんなところにいるのか、思い出せ……!」


 さらさらとした砂浜に座り込み、俺は自分が覚えている自分自身の情報と、ついさっきまでの記憶を必死に呼び起こした。

 俺の名前は雨宮あまみや虎太郎こたろう

 歳は15、性別は男性、近くの高校に通ってるごくごく普通の学生、ついでに彼女はナシ。

 親は俺が子供のころに姿を消して、親戚にも引き取られず天涯孤独。

 それでも人並みの人生を送ろうと、学生なりに努力はしてきた。

 ……よし、ここまで覚えてるなら、俺は間違いなく雨宮虎太郎だ。


 次はどうして、俺がこんな辺鄙へんぴな大自然の砂浜に立ってるかだな。

 確か今朝、学校に遅れそうになったから自転車を飛ばして、猛スピードで裏道を駆け抜けてた。

 もうじき高校が見えるって時、道の真ん中にタンポポが生えてるのが見えた。

 なんだかひき潰すのも気が引けて、俺はとっさに自転車のハンドルを左に切って、そのまま――。


「……死んだんだ」


 反射的に口からついて出た言葉を理解した途端、俺はすべてを思い出した。

 タンポポを避けた俺は、そのまま勢い余って自転車から放り出されてすっ転んで、道路に頭を打ち付けて死んだんだ。


「……え、マジで?」


 いやいや待て待て、そんなみっともない死に方があるか!?

 いくら打ちどころが悪かったとはいえ、もうちょっとましな死に方があるだろ!


 なんてツッコミをする間もなく、次に俺が目を覚ますと、真っ白な空間にいた。

 おお、これは知ってるぞ。

 確かあれだ、死んで神様のところに行って、異世界に転生したり転移したり、そのついでにチートとかすげえスキルに魔法に、その他諸々がもらえちゃうやつだ。

 まあ、結論から言うと俺の予想はばっちり当たってた。


『あー、君ね、死んだの。スキルあげるから転移させるよ』


 問題は俺を担当した神様が、ごろごろとテレビを見ながらポテチを食べてるような、やる気のない神様だったことだ。


「え? ちょ、俺、どこに転移するんですか?」

『どっかの島。行けば分かるんじゃない、知らんけど』


 知らんけどって、あんた関西人かよ!?


「こ、困ります! だったらせめて、スキルの種類だけでも教えてもらわないと……」

『はいはい、こっちは忙しいから、さっさと転移しちゃってね~』


 テレビを見てお尻を掻いてる神様がこっちに手をかざすと、俺の姿が消えてゆく。


「あ、ちょ、おい、神様のバカヤローっ!」


 そして腹の底から出てきた罵倒ばとうを最後に、意識が途絶えて――今に至る、ってわけだ。


「いや、ってわけだ、じゃねえぞ!?」


 今ここにいることが紛れもないリアルだと分かった瞬間、俺の額から汗が噴き出した。

 そりゃそうだ、俺は今、言語が通じるかも分からない、元いた世界の常識も通じない世界に叩き落とされたんだぞ。

 しかも人がいるような土地ならまだしも、ここはどう見たって未開の地で、おまけに陸続きですらない島なんだ。

 要するに俺は――制服1枚で、異世界の孤島に放り出されたんだな。




 ~糸冬~




「着の身着のままで転移なんて笑えねえぞ、アホ神様ーっ!」


 バカ、終わってたまるか!


「……といっても、どうすりゃいいかなんて、さっぱりなんだけどさ……」


 俺は砂浜にごろりと寝転がって、いるかも分からない神様に向かって悪態をついた。

 タンポポをかわして死んだ次は、まったくもって望んでない異世界転移の末に、大自然の島で餓死もしくは衰弱死なんて笑えない。

 異世界転移っていえば、最強のチートスキルで無双して、かわいい女の子とイチャイチャして、サイコーにハッピーな展開が待ってるんじゃないのかよ。

 ちくしょー、神だろうが何だろうが、ここで二度目の死を迎えたら呪ってやる。


「……はあ」


 とはいえ頭の中で神様をなじっても何も起きず、俺は燦燦と照る太陽に手をかざした。

 真っ赤に流れる僕の血潮、は見えないか――。


『雨宮虎太郎:クラフトレベル1』


 ――なんだ今の。

 思わず俺は立ち上がって、もう一度手のひらをじっと眺める。

 幻覚じゃなけりゃ、レベルとか何とかって記された、ゲームのステータス画面みたいなポップアップが確かに出てきた。

 頼む、もう一度見せてくれと俺がもう一度祈ると、画面は再びポップされた。


『クラフトメニュー:レベル1』


 見えた!

 しかも今度は、さっきと違う文章だ!


「……クラフトって、まさか……」


 もしやと思いながら、俺はポップアップ画面をおずおずと指でタッチした。

 すると、画面が急に広がり、カタログのようなページがいくつも開かれた。

 悪の組織のボスが、秘密基地でパソコンのモニターをたくさん並べてるシーンとかがあるだろ、そんな感じだ。

 で、その画面に映ってるものにも覚えがある。


「最近まで俺がやってたゲームと、まったく同じだ……!」


 そう。死の前日まで俺がプレイしてたサンドボックスゲーム(与えられた舞台で自由に開拓を楽しめるゲーム)のステータス画面と、何もかも一緒なんだ。

 素材を集めてアイテムを作って、住んでる地域を開拓するゲームだ。

 さすがに俺がいる島っぽいところまでは、あったかどうか、覚えがない。

 けど、なぜかひとつ確信できた。

 画面に映し出された、『クラフト可能』の文字。

 必要な素材とその詳細。

 そんなゲームシステムが、俺に結論をくれた。


「サイコーじゃねえか……!」


 きっと素材を集めるだけで、俺はアイテムを作り出せる!

 神様が与えてくれたのは――なんでも作製クラフトできるスキルだ!

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