第16話 リュウくんパーティー

「リュウくんたちも来てたんだ」


「はい! 一階層は楽勝っした! 二階層も余裕っぽいっす!」


 故郷から持ってきたっぽい誰かのお下がりっぽいガチャガチャした装備に身を包んだリュウくん一行は得意げに胸を張る。


「そっか。でもあんまり無茶しないようにね? 帰り道のことも考えるんだよ?」


「はいっす! にしてもお兄さんって新人じゃないっすよね? ギルドで俺をかばってくれたときも頼もしかったし」


「あぁ、僕はハルの付き添いで講習に参加してたんだ。冒険者は前からやってる」


「へぇ~! どのくらいまで潜ったんすか!?」


 どのくらいまで潜ったか。

 それは冒険者にとっての肩書のようなものだ。


「いちおう22階までだけど」


「に……22階!? すげぇじゃないっすか! 大先輩じゃないっすか! え、でも年俺らとあんま変わんないっすよね!?」


「うん、16だよ」


「2個しか変わんねぇ! 俺ら全員14っす! あ、せっかくなんで紹介します! 俺、リュウっす! いちお~こいつらのリーダーやってるっす!」


 いがぐりあたまのくりくり少年。

 目をきんきら輝かせた小柄な戦士がリュウくん。


「で、こっちが妹のリムっす!」


「あわわ、こ、こんにちわ! リ、リムです!」


 ピンク髪でくりくりお目々。

 双子なのかな?

 どことなくリュウくんに似てる。

 武器はメイス。

 回復系? それとも戦士系?


「それからペルっす! 地元の弓名人っす!」


「ペルだ。さっきリーダーを助けてくれたこと、感謝する」


 クールな感じの女の子。

 青髪で弓の邪魔にならないように髪をアップにしてる。

 なんか雰囲気ある感じ。

 彼らの中じゃ一番落ち着いてるかも。


「最後にトム! 俺の幼馴染っす!」


「こ、こんにちわ! に、22階まで行ける方にお会いできるなんて光栄です!」


 生真面目そうな短髪の男の子。

 ガチガチに緊張してる。

 会ってすぐなんだけど、この子はたぶんリュウくんの妹が好きなんだろうなってピンときた。


「僕の名前はカイト・パンター。こっちはハル」


「どうも~、私も新人だからよろしくね!」


 なにか言いたげにぷるっと震えたアオちゃんをそっと握りしめて微笑む。


「よかったら君たちにバフをかけても?」


「ばふ?」


「君たちの能力をすこ~しだけ上げてあげられるんだ」


「ほんとですか!」


 目を輝かせるリュウくんたち。


「うん、効果は今日一日の間だけ。その代わり、絶対に無理しないことを約束してくれたら、だけどね?」


「します! 約束! 無理しません!」


「ふふっ、おっけ~。それじゃ……」



枠入自在アクターペイン



 灰色の世界。

 対象が多い。

 白いカーソルをピコピコピコ。

 よし、じゃあリュウくんから。


 カーソルが点滅すると、リュウくんのステータス欄が浮かび上がってきて僕を飲み込む。


 ジュゥゥン──。



 名前 リュウ・シデン

 称号 駆け出し冒険者

 種族 人間

 性別 男

 年齢 14

 LV 3

 HP 12

 SP 5

 STR 6

 DEX 3

 VIT 8

 AGI 9

 MND 13

 LUK 2

 CRI 1

 CHA 3



 ふむ……。

 HPとMND(魔力)くらいしかイジれるところないな。

 にしてもMNDが高いってことはこの子もしかして戦士向いてないんじゃ。

 あ~、いや魔法剣士とか?


 う~ん。


 まぁスキルとの兼合いもあるしなぁ。

 そこらへんは僕が口出すことじゃないか。

 とりあえず数字を動かしてっと。


 ズズズッ……。


 ふむ。


 普通。


 重くもないし軽くもない。


 ダンスキー達と同じような感じ。


 となると、やっぱりハルやアオちゃん、ギルド長のロンだけが特別なんだろうか。


 そんなことを考えながらリュウくんのHPを「12」から「21」に。

 MNDを「13」から「31」に。

 それぞれ入れ替えた。


 さて。

 他の3人にもバフをかけてあげよう。


 ということで。


 リュウの妹リム・シデンちゃん(レベル3)のSPとSTRを。


 クールなペル・エンケンちゃん(レベル6! 高い!)のDEXとAGIを。


 リムちゃんのことが好きそうなトム・ハリスくん(レベル2)のVITとLUKを。


 それぞれアップさせて僕は元の世界にシュゥゥン──と戻った。


「はい、バフ完了」


「へ? もうっすか?」


「あ、私……力が溢れてくるのを感じます!」


「私もキレと手先の軽さが増してるな」


「俺も頑丈になった気がする! あ、銅鉱石めっけ! ラッキっ!」


 それぞれに効果を実感する三人。


「リュウくんは体力と魔力を上げておいたよ」


「はぁ……魔力っすか……」


 あらら、嬉しくなさそう。


「実は俺、子供の頃から魔術使えるんすよ。でも俺は戦士になりたくて……」


 なるほどそういうわけか。


「スキルはどういう系統のものを授かったの? 全部は言わなくていいからさ、よかったら系統だけ」


「魔法剣っす」


「え、系統だけでよかったのに」


「いいっす。カイトさんにだったら裏切られても悔いはないっす。もう助けてもらってるっすから」


 う~ん、僕がロンに感じたような感じ?

 信頼してくれるのは嬉しいけど、僕そこまでたいした人物じゃないからなぁ。

 ちょい複雑な感じ。


「そっか。でもあんまり他の人に言わないようにね。切り札はあくまで最後まで隠すのが生き残るコツだから」


 あっ。

 言って気付いた。

 そっか、僕も「ダンスキーたちにスキルの全貌を話してなかったから助かった」のか。


 ズゾゾゾ~ぉ! 気付いた瞬間に押し寄せてくる悪寒!


 うぉぉあぶねぇぇぇ!

 てことはうっかりスキルのことをダンスキーたちに正直に話してたらさ!

 警戒されまくって背後からズブリとかだったかもしれんわけじゃん!

 え~! やだそれ! なんか急に怖くなってきたんだけど!


「だ、だからダメだからね! 絶対! 簡単にスキルバラしちゃ!」


「は、はいっす……」


 忠告にも自然と力が入るってもの。


 こうしてリュウくんパーティーは僕に何度も頭を下げたあと、和気あいあいと楽しそうに迷宮の先へと進んでいった。



 ハルが尻尾ぶんぶんくらいの勢いで話しかけてくる。


「すごいね、カイトのスキル! みんなあんなに喜んで!」


「そうだね。誰かの役に立てるってのは嬉しいね」


 昨日までは思ったこともなかった、そんなこと。


 そっかぁ~。


 感謝されるのって……。


 気持ちいいなぁ~。


 じぃぃぃぃん……。


 実 感 !


 実感してると、突然ネックレスの中のアオちゃんがクイクイと僕を引っ張る。


「ゆ! こっち行くゆ!」


「なに? アオちゃん、どうしたの?」


「ゆ! そこの壁の中にはいりゅゆ!」


「へ? 壁?」


「ちょっと~、カイトぉ? どうしたの……ってうわっ!」


 壁を押した僕は「くるん」っと回って。


 思わず手を掴んだハルといっしょにに放り出された。


「あたたた~……」


 あ、ここ。


 なだらかな一本道。


 天井に輝く等間隔のヒカリゴケ。


「隠し通路……? こんなところにも出入り口あったんだ?」


 ぬぱぁ! アオちゃんがネックレスから出てきて裸幼女姿になる。


「この奥におうちあるゆ!」


「お、おうち……?」


「ゆ!」


 アオちゃんはウキウキで答えるとじゅるっ……っと小さな隙間の中に入っていって──。


 ゴゴゴゴゴ……。


 隠し通路のさらに裏側の壁が開いた。


 その先にあったのは。


 緑の庭と、池。


 そして……一軒家?


「ゆ!」


 壁の奥に進んだアオちゃんはくるりと回ってニッコニコの笑顔を向けた。

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