第11話 元パーティーと対面!

「大丈夫?」


 僕はダンスキーに弾き飛ばされた少年リュウくんに手を貸して立ち上がらせる。


「さっき一緒に講習受けてた方っよね? ありがとうございます」


「怪我は?」


 リュウくんはパンパンと体をはたいて確認すると「大丈夫っす」としっかりとした口調で答えた。


「よし、それじゃあ離れててね。あとは任せて」


「でも……」


「大丈夫。僕はこの人たちと知り合いだから。ねっ?」


「そうっすか……じゃあわかったっす。申し訳ないっす」


 そう言って仲間のところへ戻るリュウくん。


「てめぇ……カイト……! なんでここに……!」


 ダンスキーの顔が驚愕で歪んでいる。

 その後ろにはかつてのパーティーメンバーたちの姿も。


「なんでってなにかおかしいことでも?」


 僕は怒っていた。

 僕が地下迷宮に置き去りにされたことに対してじゃない。

 夢を持って田舎から出てきたばかりの新人冒険者リュウを馬鹿にしたことに対して、だ。


「おかしいも何も、てめぇは死んでなきゃ……」


「死んでなきゃ? ん? なんで僕が死んでなきゃいけないの? まるで僕がみたいな言い方じゃないか」


「ぐっ……!」


 言葉をつまらせるダンスキー。

 それもそのはず。

 ダンジョン内での仲間殺しはご法度中のご法度。

 町ではいくら喧嘩してもいい。

 他の冒険者たちが街を守る目となり法となって仲裁するから。

 でも、ダンジョンではダメだ。

 そこで裏切りがあったら冒険者の存在や正義そのものの根幹を揺るがすことになる。


「冒険者ギルド信条その一。冒険者はダンジョン内において絶対なる信頼関係で結ばれた運命共同体でなければならない。種族、国籍、信仰の差異を超越した絆で結ばれた存在であらなければならない。それを破りし時、冒険者はただの無法者として処されるだろう」


 今、新人研修で習ったばかりの教えを復唱する。

 冒険者とは手柄を立てて名を揚げるだけじゃない。

 人類の敵たる魔物を倒すことも使命となっている。

 敵は魔物。

 同じ人類、ましてや冒険者なんかではない。絶対に。


 ダンスキーは落ち着きなくきょろきょろと周りを見渡したあと「ニチャァ」とした笑みを浮かべる。


「カイト、てめぇ……んだな? はは……そうだよな、どうやって抜け出してきたかは知らねぇが、俺達が捕まる様子がねぇってことはそういうことなんだろ? つまりここで俺達がてめぇを叩き潰しちまえば、永遠には闇に葬られるってことだ? なぁカイトぉ?」


 憐れだな。

 そう思った。

 昨日まで仲間だと思ってたダンスキー。

 今は薄汚れててボロボロだ。

 迷宮から戻ってきたばかりなのかな。

 昨日のうちに戻ってきておけば僕のバフが効いたままだったのに。

 僕はダンスキーのステータスを確認する。



 名前 ダンスキー・クガソ

 称号 ほどほどの戦士

 種族 人間

 性別 男

 年齢 23

 LV 17

 HP 8

 SP 4

 STR 36

 DEX 3

 VIT 25

 AGI 17

 MND 2

 LUK 8

 CRI 4

 CHA 11



 HP「8」

 ああ、やっぱボロボロだよ。

 メインアタッカーがこれじゃ全滅寸前だったんじゃないかな?

 ま、そりゃしょうがないよね。

 だって昨日までは僕のスキルで。


 STR「63」

 VIT「52」

 AGI「71」


 になってたんだから。

 四十階層すら狙えるステータスから一気に二十階層ですら厳しいステータスに落ちたんだ。

 もし深く潜りすぎてたら取り返しがつかないところだっただろうね。


「そ、そうよ! 今すぐこの無能の詐欺師をぶっ潰せばいいのよ! このイカサマペテン師のカイトをね!」


 魔術師のゼラが上ずった声で叫ぶ。


「なんてたって私達はミノタウロスを狩ってきた最強パーティーなのよ! ほら、その証拠に素材もこんなにいっぱい!」


 盾職のゴンダラがミノタウロス素材をドサァと床に広げる。


「「「おぉ~!」」」


 ギルドに驚きの声が上がる。


「ミノタウロスだって!?」

「あの三十階層以降にしか出ないっていう、あの?」

「ダンスキーたちって中級者だろ? 実は上級者、いや達人級すら狙えるクラスだってのか!?」

「まだパーティー名もないやつらがとんだ大物狩りしやがった!」

「やべぇ、スター誕生かこれ!?」


 ふふんと得意げなダンスキーたち。


「どうだ!? これが俺たちの力だ! そして俺たちはこのペテン師カイトをクビにし、新たなメンバーを迎え入れる! このビンフだ!」


 後ろから色っぽい──いや色情家にしか見えないパッツンパッツンの紫髪の女が出てきた。


「「「おぉ~!」」」


 ギルドの男どもから歓声が上がる。


「そして! 完全体となった我らは今後『勇敢なる一角獣ブレイブ・ユニコーン』と名乗ることをここに発表する!」


 悦に入ったダンスキーの顔が癇に障る。


「『勇敢なる一角獣ブレイブ・ユニコーン』か。ずいぶんと大層な名前じゃねぇか」

「でもミノタウロスを倒したんだ。相応なんじゃねぇか?」

「ギルド長の作った43層の記憶を更新しちまうんじゃ……」

「やべ、歴史に立ち会ってる感!」


 盛り上がるギルドの中にハルの声が響く。


「ちょっと! あんたち、それカイトが倒した獲物なんじゃないの!?」


 一瞬の静寂のあと。


「ぶわぁ~はっはっ! なんだって!? カイト!? このペテン師が!? 倒せるわけないだろ! 何言ってんだこのばぁ~か! 頭おかしいのか? ん? てか誰だよこの田舎娘! カイト、お前もう次の獲物をペテンにかけてるのか!? あぁ!?」


「ぐっ……!」


 ハルの握った拳が怒りで震えてる。


 僕は、別に自分の手柄が横取りされようと正直どうでもいい。

 パーティーを追放されたのだって僕にも責任はある。

 でも。

 ハルを馬鹿にするのは許さない。

 ハルは僕が守る!


 僕は出来るだけとぼけた口調を心がけてダンスキーの矛盾を指摘する。


「えっとさ~、その素材の中に『ミノ』がないみたいだけど? なんでそんないっぱい素材を持ってきてるのに一番高く売れるミノタウロスのミノ、通称『ミノミノ』がないのかなぁ~?」


「そ、それは……! お、落としたんだよ!」


「落とした? ミノミノを? おっかしいな~。そんな落すような大きさかな? 弾力があって頑丈だから普通かばんの底に最初に仕舞うよね? それを『落とした』? へぇ~」


 少しずつギルドの空気が変わっていく。


「たしかにミノがないのは変だな」

「一番大事に持ってくる部位だもんな普通」

「落すなんてありうる?」

「てか、あいつらボロボロすぎん? ほんとにミノタウロス倒したん?」

「他人が倒したのをかっぱらってきただけだったりしてw」


 ダンスキーの顔がサッと青ざめる。


「う……うっさいぞてめぇら! 雑魚にはわかんねぇ次元で戦ってんだよこっちは! わかったらだぁ~ってろ!」


 ピキッ──!


「あぁ? 誰が雑魚だって?」


 冒険者たちとダンスキーたちとの間に緊張が張り詰める。


 ここらで、か。



「僕さ、昨日売ったんだよね。『ミノミノ』もしかしたら、そのミノミノとその素材のサイズや鮮度が一致しちゃうかもなぁ~」



「なっ……!」


 パクパクと陸に上がった魚のように口を開くダンスキー。


「うっせぇぞ、この詐欺師!」


 魔術師のゼラが顔を真っ赤にして叫ぶと、残りのゴンダラとバーバラ、それに僕の代わりに加入したビンフも一斉に僕を罵りはじめた。

 こうなるとギルドの職員たちも放ってはおけない。


「ちょっと! 騒ぎはそこまでです! いい加減に……キャッ!」


 ダンスキーに弾き飛ばされたメラさん。

 そのメラさんを巨体の男が受け止める。


「あ、あなたは……!」


 周囲の空気が一変する。


 その巨体の男。


 英雄──ロン・ガンダーランドの登場によって。


 ロンは響きのある声でゆっくりと告げた。


「たしかに、昨日新鮮な『ミノミノ』が薬屋に持ち込まれたという報告は受けている。そして、それを持ち込んだのがカイト・パンター。キミだということもな」


「あ……あぁ……」


 ダンスキーがその場に膝から崩れ落ちる。


「さぁ、詳しく話を聞かせてもらおうか」


 ダンスキーたち『勇敢なる一角獣ブレイブ・ユニコーン』は一斉に青ざめ、加入したばかりのビンフは「なに? 一体なんなのよ!? ほんとにあんたちが倒したんじゃないの!? 話が違うじゃないの!」と狼狽えていた。

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