20.クエスト無視!

 

 すっかり忘れていた仲間たちに事情を説明してワールドクエストとやらを見つけたからという理由で今回は許された。



「よし、じゃあ日が暮れる前にそのシリアル? さんの屋敷に連れてこ!!」

「シアントス辺境伯です。……アメリア様、シアントス辺境伯はどのような方が知っていたりしませんか?」


「ん? 辺境伯はこの国の宰相ってことなら知ってるわね。知識としてだけだから人柄は全く分からないわ」



 ふむ……この町には幸いなことに図書館がある。

 先にそちらでが必要か。


「とりあえず今から図書館へ行きます。その後にクエスト云々は動こうと思います。ハル、構いませんね?」

「ふーん? 何か考えがあるんだ? ま、見つけたのはヒビキだし任せるよ」


 そう言ってくれると思った。



「……なんかマジ友情って感じでエモいねぇ」

「……そうね、親友って感じがして羨ましい」

「通じあってるな! ヒューヒュー!」


 コソコソするか冷やかすのかどちらかにして欲しい。話しながら抱っこ紐も作り終わったのでここからでも見える大きな図書館へ向かう。


 特に問題なく到着し、生産組合のカードと入場料を支払って館内に入った。


『――――を抵抗しました』




 歴史歴史っと、あった。

 歴史の本棚でお目当ての本を探すが、それっぽいものは一冊も無い。貼られている番号はとんでいないから借りられていたり読んでいる人がいるとかではないだろう。

 ここまで露骨にするかは疑問だが、それだけ警戒しているのだろうか。の目的か次第なのだが判断がつかないな。

 仕方ない。何か知っていそうな人に聞いてみよう。


「……すみません、ずっと私をけているそこの方」

「へぇ? よく気付いたね」



 白い騎士の服装をした同い年くらいの男性が美しい笑顔を浮かべながら近付いてくる。



「そんなことより界滅王に関する本をご存知ではありませんか?」

「ボクのオリジナルスキルを突破されたのは疑問だけど――お目当てのものならこれかな? ボクも興味があって、昨日ちょっと深くまで忍び込んだんだよね」


 そう言って手渡ししてくれたのは、まさに僕が探していた界滅王ソヴァーレの時代の歴史書だった。


 何か別の用事がありそうなのでサラッと目を通していく。著者は……初代国王の手記から当時の様子を引用しているようだ。


 欲しかった情報で判明したのは以下の四つ。

 界滅王が青く描かれていること、そして女性だということ。

 界滅王はかつてのこの国の初代国王と禁断の恋に落ちていたこと。

 その初代国王が赤く描かれていること。

 あとは初代国王が界滅王を封印し、英雄として称えられていた描写。



 ――これでパズルは完成した。もうこの町に用はない。あとは目の前の“雅”と表示されているプレイヤーの要件を聞くだけだ。



「ありがとうございました。それで、そちらの御用はどのようなものでしょうか?」

「話が早くて助かるよ。ボクはキルス聖王国で聖騎士をやってるんだけど、君宛ての伝言をね」


 どうもきな臭そうだ。



「“ここでのやることが一段落したら聖王国に来て欲しい、盛大に歓迎しよう”って感じにね」

「どなたがですか?」


「…………君がよく知る人だよ。それじゃあボクは行くから」



 心当たりが無いか胸の中で考えるが、やはり特に思い当たる人物は浮かび上がってこない。

 怪しい雅さんを見送ってから僕は一度聖王国の招待に関しては忘れることにした。





 図書館の外に出てから、泊まる予定だという宿に向かいながらお嬢様を高い高いする。つい先程起きて、楽しそうにキャッキャッと喜んでくるている。


「お嬢様、貴方様の安全のためにも、お母様の遺言を一部破らせていただいてもよろしいでしょうか?」


「ぁい!」


 こちらの言葉とちゃんと理解しているようで、元気に応じてくださった。

 そしてそのまま歩いていると、屋台のフライドポテトを指差しながらヨダレを垂らし始めた。


 この年齢で離乳食すらすっ飛ばすのは流石に……いや、一周まわって流石僕の見初めたお嬢様だ。

 試しにポテトを1袋買ってベンチで口に運んでみる。


「まむぅ!」

「塩加減が物足りないご尊顔でございますね。ではこちらで塩を追加しまして――」


 手持ちの塩をかけて袋をシェイク。

 すると今度は美味しそうに咀嚼するようになった。歯すら無いのだが、何か謎のオーラのようなものを口に纏わせているから大丈夫だろう。

 油も塩も赤子のお腹には優しくないとも思ったが、お嬢様ならきっと大丈夫。


「ぁう……」

「おねむでございますね。私が必ずお守りいたしますのでご安心しておやすみなさいませ」



 1袋食べて満足したようで、お嬢様はぐっすり眠り始めた。


「取引所に居ないと思ったらこんな所で子守りをしてるなんてねぇ」

「……シオレさんですか。気配がしないので心臓に悪いのですが」


「いやはやー、ついクセでね」


 気配を消すのがクセなら泥棒がお仕事なのだろうか。そんなわけないだろうけれども。



「それにしても昼頃に電話があったのにまた会うとは意外です」

「それはウチもだよー。シエラちゃんが旧友の気配がするって出発してさ、そしたら崩落した洞窟についてキミのお仲間さんと鉢合わせしたんだよねー」


 ハルとアメリアさんの顔ぶれてで僕の仲間だと判断するあたりやはりこの人はおっとりしている割にやり手だ。



「シエラちゃんはトンネル開通させた後お酒飲むってあの場に残って暇してたんだよねぇ」

「それで私が取引所に来ないか待っていたけど全然来なかったから探した、と」



「そーゆこと。直接渡そうと思ったんだけど……おんぶ紐のパーツ作ってこよっか? 前側だと色々不便でしょ?」

「確かに町の外だとおんぶの方がいいかもしれませんね。しかし……パーツとなるとあのクッション素材の部分で?」


「そうそう。【裁縫】はとってないしあんまし好きじゃないからウチのオリジナルスキルでクッション部分は用意できるからさー」

「なるほど。でしたら是非お願いいたします」



「じゃあ明日まとめて渡すねー。作ってくるからばいばーい」

「お手数お掛けします」



 シオレさんと別れ、今度こそ宿へ向かった。

 部屋は節約のためか2人部屋に僕、ハル、アメリアさん、お嬢様の4人で泊まるらしい。もう片方はアーヤさんとカナタさん、図体がデカイからという理由で一人部屋で泊まるのがペロ助だ。

 忘れないうちに今日の料理も出品しつつ、ハルとアメリアさんが待つ部屋に。



「ただいま帰りました」

「おかえ……クエストはやらない感じ?」


「はい。色々考えもありますし、何より――――私のお嬢様を何処の馬の骨とも知れない人に差し出すなんてとんでもない!!」

「あー、そういう、ね? まぁクエスト報酬は魅力的だけど、ヒビキのモチベもあるかぁ……」


「ぽぇお!」

「わあ、赤ちゃん喋ったわ!」


「ポテトですか? では念の為買っておきましたもう1袋を――」

「ちょいちょいちょーい!! え、何普通に食べさせようとしてるの!? 首はすわってるけど赤ちゃんだよ!? 普通ミルクか離乳食からでしょ!」


「ぽ、ぇ、お!」

「だそうなのでお構いなく」


「構うわい! いや、え? なんで普通に噛んでるの? ここではこれが普通なの?」

「ハル、わたくしもポテト食べたいわ」


「えー……まあもうどうにでもなれだよクソッタレい…………ヒビキ、アメリアちゃんにも分けてもらえる?」

「嫌ですが」

「そんなー!」


 お嬢様のものを奪おうなんて、何たる不敬か。世が世なら僕がこの場で処刑していたよ?


「あぃ」

「お嬢様、アメリアさ……んに下賜なされるのですか。なんと慈悲深い!」

「わお、本命のお嬢様ができたから様呼びもやめてる」

「ありがとうね、リリィちゃん!」


「ありがとうございますリリィ様、ですよ」

「やめんかいこのアホメイド! こういう姉妹みたいな触れ合いも情操教育にはいいと思わないの!?」


 なるほど、一理ある。

 お嬢様は世界最高だが、それゆえ孤高になりかねない器だ。僕はどこまでも付き従うつもりだが、それだけでは心が乾ききってしまう。

 仕方ない、多少のご無礼には目を瞑ろう。



「そういえばハルって聖王国に最初居ましたよね?」

「ん? {聖盾}から連想で選んだけどそれが?」


 お嬢様にポテトをあーんしながら何か情報が無いか聞いてみることに。図書館で遭遇した騎士と僕を歓迎しようとしているということを伝えると、ハルは珍しく真面目な顔で考えはじめた。



「……嫌な予感、というより罠な気はするけど行かないと行かないで何かしてきそう」

「心当たりがあるのですか?」


「心当たりというか……簡単に説明するとあの国には私と同じ“聖”のつく武器を持っている人達に権力与えられてて、ドロドロだったんだよねぇ……短時間にせよそれが嫌になったからヒビキの呼び出しを口実に逃げ出した感じ?」



 そのドロドロの当事者だったわけか。

 今その話をしたということは、その中にこういう何らかの罠を仕掛けそうな人間がいるということだろう。ハル本人はおそらくそれに気付いていないが、話に出すくらいには無意識のうちに警戒しているようだ。




「国盗りの後で考えましょうか」

「そうだね、私もいずれ決着はつけるにしても今じゃないかな」



 ああ、あと伝えておくことがあった。


「それと明日は午前中に出発した方がいいかもしれません」

「どうかしたの?」


「アメリアさんのことを今後のためにもと隠さなかったつけですね。おそらく明日囲まれますよ。この町の兵士に睨まれたので」

「赤ちゃんを抱えたメイドへの奇異の視線ではなく?」


「はい。あれは獲物を狩る視線でした。今泳がせているのは有り体に言えばせめてもの温情でしょう」

「アメリアちゃんを戻そうとするならいいんじゃない?」


「……この町以外ならそうですね」

「どういうこと?」


「明日になれば分かりますよ」



 アメリアさんの確保だけが狙いだったらマシだが、ここの領主がお嬢様の存在に気付いているかどうかで難易度は変わってくる。

 こちらは人数が少ない。極力正面衝突は避けたいのだ。



 言いたいことも言ったしログアウトしよう。ちょうど食べ終わってお嬢様もおねむだし。


「ではまた明日。最悪、界滅教団全員とそれ以上に強い敵と戦うかもしれないなので早めに寝てくださいね?」


「え!? そんなに!? まだクエスト序盤っぽいのに!?」



「では」

「あゅぅ……」

「ちょいちょい!! 説明プリーズ!」

「ハル、早く寝ましょ! 備えないと!」



「……マイペースどもがぁ!!」



 ハルの慟哭を無視してログアウト。

 そんなに焦らなくてもいいのにな、と思いながら僕は夕食を作ってお風呂に入り、早々に夢の世界へ入った。


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