Ep.20 -帰宅途中-

「まあでも、否定してくれないのも彼方くんの優しさなのかな」

「その言い方だと、否定してほしそうに思えますけど?」

「…まあ、その方が楽だった、かな」

「そうですか…」

 気まずさを孕んだ空気が僕と天笠先輩の間に流れる。

 …話題を切り出せない。

「まあ、でもありがとうね」

「え?」

「否定してくれた方が楽だったけど、否定してくれなくても嬉しいし」

「まあ…その…無茶だけは止めてくださいね?」

 僕がそう言うと、天笠先輩は頷いた後にパンッと一回手を叩いて「この話はもう終わりね」と言う。

 街灯に照らされたアスファルトの舗装路を、二人で歩いていく。

 一軒家やマンションの間から見えるタワーマンションに向かって歩いていく。

 そして、特に天笠先輩と話さぬままそのタワーマンションに到着した。

「じゃあ、また学校で」

「はい、また」

 そう言って後ろを振り返ると、「あ、待って」と天笠先輩の声が聞こえる。

「はい?」

「その、さ…変に距離、置かないでね?前までと同じ距離感で居てくれるといいなぁ、って」

「分かってますよ。安心してください」

 僕がそう言うと、天笠先輩は安心した表情になって、僕に優しく微笑んでからタワーマンションのロビーへと入って、ロビーの奥の方へと消えていく。

 …それにしても、凄いところに住んでるなぁ…。

 当たりのビルやマンションよりも一際高く、一際綺麗にライトアップされているタワーマンションを見上げる。

「…さて、帰ろ」

 ロビーの方に目を遣ると天笠先輩の姿は無く、僕はそんな言葉を零して佐藤さんの家へと一時帰宅する。

「ただいま…で合ってる?」

「う~ん…どうなんだろ、まあ取り敢えずおかえり」

「伶衣は?」

「ん?私の部屋」

「分かった」

 リビングを通って佐藤さんの部屋へと向かう。ドアを開けると、鞄を背負おうとしていた伶衣と目が合う。

「おかえり」

「うん、ただいま」

「先、外出てるね」

「うん」

 そう言うと、僕の脇を通って部屋の外へと出ていく。僕も鞄の中に、ローテーブルに置いてある自分の参考書やノートを仕舞って部屋を出る。

「じゃあ、佐藤さん。また明日」

「は~い、また来てね~」

 そう言って佐藤さんの家を出て、佐藤さんの家を出てすぐの道の脇で立っている伶衣と合流して、家路につく。

 何時にも増して、伶衣は僕にべったりとくっついている。僕の腕に手を回して、そっと、力強く抱きしめて離さない。

「彼方は私の恋人なんだよ?」

「分かってるって」

「…あまっちに好きって言われた?」

「え?何で分かるのさ?」

「なんかね…そんな気がして」

 そう言いながら、抱き着く力をさらに強める。

「…ほんとに…私の恋人…だからね?」

「大丈夫だって、安心して」

 そう言って伶衣の頭を撫でる。

「ん…安心した」

「良かった」



「…彼方、今日は一緒に寝よ…?」

 そう言いながら、僕の部屋に入ってくる伶衣。

「良いけど…どうしたの?」

「彼方があまっちに好きって言われて…嫉妬っていうか…不安って言うか…」

 そう言いながら、ベッドに寝転ぶ僕の胸に顔を埋めてくる伶衣。

「…大丈夫、僕は伶衣の恋人だから」

「言葉だけじゃ、証拠にはならないよ?」

「…じゃあ、どうして欲しい?」

「…ぎゅってして」

「…仰せのままに」

 伶衣の要望通り、伶衣を抱き締める。

「…どう?」

「…ん、嬉しい。…キスもしよ…?」

「うん」

 僕がそう言うと、僕の唇にふにっと柔らかい感触が触れる。

 暫くして顔を離すと、蕩けきった伶衣の顔で視界が埋め尽くされる。

「…えへへ、彼方とキス…しちゃった♡」

 そう言って、抱きつく力を強める伶衣。

 少し苦しいけど、別にいいかな。

「おやすみ、伶衣」

「うん。おやすみ彼方」

 翌日の学校。いつものように中庭に移動し、ベンチでお弁当を広げる。

 穴場なのかは分からないけど、結構人は少ない。

「いただきます」

 そう言って弁当を食べようとした時に、佐藤さんsと伶衣がやって来る。

「おはよう、彼方くん」

「おはようございます、天笠先輩」

 いつもと、前と変わらない距離感。僕も天笠先輩も、昨日の事は無かったかのように振舞っている。

「じゃ、私達も食べよっか」

 そう言って、僕の隣に座る伶衣。

 そして、天笠先輩達は僕と伶衣が座っているベンチのすぐ後ろの花壇の縁に腰掛ける。

「いただきます」

「どう?愛夫弁当のお味は?」

「すっごく美味しい。でも夫ではないかな」

「「またまた~」」

 息ピッタリの天笠先輩達に「本当だから」と返す伶衣。

「じゃあ瀬戸くんと結婚したい?」

「勿論!」

 佐藤さんからの問いに超食い気味で返答する伶衣。

「そんなに僕と結婚したいんだ」

「うん。だって大好きだもん、彼方の事」

「そっか」

 恥ずかしさは無くって、嬉しいとか、そんな感情が心を埋め尽くす。

「僕も」

 そう言って伶衣の手を握る。

「伶衣を大切にするよ」

 すると、みるみるうちに伶衣の顔が赤くなっていく。

「えっ、あっ、えっと…その…う、うん…」

「学校でプロポーズかぁ、大胆だねぇ、瀬戸くんは」

 ちなみに、伶衣はと言うと顔を赤くしてあたふたしている。

 …うん、可愛い。


――――――――

作者's つぶやき:告白して遠回しに振られたのに元の距離感を維持できる2人って凄いなぁって思いましたね。

あと、学校で、しかも知り合いがいる前でプロポーズ紛いの事をするのって、彼方くん結構行動力ありますね。

――――――――

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