エビ天です。異世界転移したので揚げたてジューシーなこの身体一本で無双します。

まだ温かい

転移編

第1話

 きそば かおる。蕎麦を出す店だ。

 特別なことはなく、いたって普通のお蕎麦屋さん。

 今日も客の注文をとって、調理して供する。


 そろそろ陽が完全に暮れるころ。

 ガララ───。


「天ぷらそば、やって。」


 ぴしゃり。

 何の変哲もない初老のサラリーマン。少し酒臭い。

 かおるの店主が声の方向を向いて、軽くうなずいた。


「あいよっ。」


 しばらくの沈黙。

 沸いた湯の音と、熱される油の音がするだけ。




「お待ちどう。」


 コトッ───。

 丼の中には温かい一杯のめんつゆ、そして蕎麦。

 少しネギを散らしてあって、中央には堂々とエビ天が鎮座するのだ。

 読んでいた競馬新聞を閉じて、サラリーマンが微笑む。

 軽く首だけで会釈した後、目を閉じて鼻から息を吸った。

 食欲をそそる良い香りがする。

 たまらず机の上の割りばし入れに手を伸ばした、その瞬間───。

 店内はまばゆい光に包まれた。

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