ドラクエでいうところの「いろいろやろうぜ」

第31話 甲状腺の薬でこんなに体が楽になるとは

 甲状腺の専門病院から処方されたC錠を飲んで三日ぐらいした頃でしょうか。

 私の両親は年だからか早起きで、毎日6時前には起きていて、活動し始めるのですが、いつもの私ならうっすらと意識を覚醒させつつ

(ああ、母さんたち起きたんだなあ……)と、また眠りに落ちていく、というのが

日常の風景でした。

 でも、その日はすっと目を覚まし、そのあと、自然と身体を起こしていました。

鉛のように重かった体と頭が軽くなっていて、すぐにでも、すだちの散歩に行きたい。そんな気分でした。

 「あら、真世、今日は早いのね」

家族も驚いています。

 「うん、今日はね」

私はC錠のおかげかな? と思いつつも、もし、違っていてただの偶然だったら嫌なので両親には黙っていました。


 春と言っても早朝。流石に寒いですが、冬とは違って6時にはもう外は明るいのです。すだちは久しぶりの早朝の散歩が嬉しいのか、ステップを踏むようにトットット、と、歩いています。

 温かいコーヒーを自販機で買うと、缶コーヒーが受け口に落ちる音ですだちは飛び上がってぶるぶる震えています。

 「あ、ごめん、すだち……」

 すだちが大きい音が苦手なことをうっかり忘れていました。しかし、自販機で飲み物を買う音もダメとは。こんなに敏感な仔なんだな、とまた一つ勉強になりました。


 温かい飲み物を買って、軽やかな足取りで、ちょっと遠出して河川敷を歩きました。犬のお散歩スポットらしく、すだちは興奮した様子でいろいろ嗅ぎまわってはマーキングのように少しずつ用を足しています。

 川面は朝陽を反射して、黒く見える水面にオレンジ色の光がさざなみの形をしてぴかりぴかり輝いています。


 もし、この体調が一過性のものでないなら、有り余る時間、私は何をしよう? 何ができるだろう?


 期待しては裏切られてきた過去、無理をしては再発をしてきた過去を振り返りつつ、一番したいことはなんなのか、私は考えながらすだちと一緒に散歩道を歩いていきました。

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