第25話:村の外れの小屋

「――よーし、完成だ!」


 村の家屋改善を終えた俺は、コーワンさんの助けも借りて、新居に入れる家具を作っていた。

 慣れない手つきでも自分で作ったものもあれば、コーワンさんに作ってもらったものもある。

 まあ、大半はコーワンさんに作ってもらったものなのだが、従魔たちのものは俺が自ら作りたいと、大工仕事を教えてもらったのだ。


「なかなかいい出来栄えじゃないか!」

「ありがとうございます!」


 コーワンさんからも太鼓判を押されたもの、それは――レオとルナの家だった。

 正確には、屋敷の中に作った寝床と言った方がいいかもしれない。


「レオー、ルナー!」

「ガウ!」

「ミー!」


 俺が名前を呼ぶと、屋敷の中から二匹が飛び出してきた。


「これ、見てくれ! お前たちの家だぞ!」

「ガウー?」

「ミー?」

「入ってみてくれないか?」


 どうやらピンと来ていないようなので、俺はレオとルナに中に入ってみるよう伝えてみた。

 すると、ゆっくりとではあるが、二匹は家の中に入ってくれた。


「ど、どうだ? 入り心地は?」

「ガウー……ガウガウ!」

「ミーミー!」

「おぉっ! そうか、いいんだな!」


 レオとルナの反応を見て、俺はホッと胸を撫で下ろす。


「ずっと俺と一緒のベッドで寝苦しかっただろう? 今日からはここにお前たち専用の布団を敷いて、そこで寝てくれて――」

「ガウガー!」

「ミー! ミミー!」

「うわっ! ……な、なんで怒ってるんだ?」


 今日からここがお前たちの寝室だと言いたかったのに、何故か怒鳴られてしまった。


「がはははは! どうやら、レオとルナはリドルから離れたくないみたいだな!」

「え? ……そうなのか?」

「ガウガウ!」

「ミーミー!」


 コーワンさんの言葉を受けて、俺がレオとルナに確認をすると、二匹はそうだと言わんばかりに俺の足に顔を擦りつけ始めた。


「……ありがとう、レオ! ルナ! これからもお前たちをモフモフしながら、寝かせてもらうからな!」

「ガウガウー!」

「ミーミー!」

「なんだよ。作った本人が、離れ難いんじゃねぇか」


 しゃがんでからレオとルナを抱きしめた俺の発言を聞いて、コーワンさんが呆れたように呟いた。


「だがまあ、リドルの大工の腕も十分に上がったんじゃねぇか?」

「これでいつでもDIYですね!」

「……な、なんだ? そのデーアイワイってのは?」


 おっと、こちらの世界にDIYという言葉はなかったようだ。


「気にしないでください。それよりも、色々と作っていただいて、本当にありがとうございました、コーワンさん!」


 変に追及されるわけにもいかず、俺は話題をすぐに変えた。


「おうよ! また何か必要なものがあれば声を掛けてくれ! リドルのためならいつでも力になるからよ!」

「頼りにしていますね」


 そう口にしたコーワンさんは、軽く手を振ってから自分の屋敷へ戻っていった。


「さて、これからどうしようかなぁ」


 食糧と家屋、二つの改善を終えた今、次は何を改善するべきかと考えてしまう。

 前回と同様に村の中を散歩でもしながら、聞き込みをしてこようかな。


「リドルさーん!」


 するとそこへ、ティナさんの声が聞こえてきた。


「どうしたんだ、ティナさん?」


 声の方へ振り返ると、すぐ近くまで来ていたので、そのまま問い掛けた。


「あの、お願いしたいことがあるの!」

「お願いしたいこと? 俺に?」

「うん!」


 ふむ、ティナさんのお願い事とはいったいなんだろう。

 ナイルさんやルミナさんにお願いできないことということは、二人のために何かサプライズをしたいとか、そのあたりだろうか?


「聞かせてくれるかな?」

「ありがとう! あのね、村の外れで暮らしている人がいるんだけど、その人をこっちにお引っ越しさせたいの!」


 ……ん? えっと、完全に予想外のお願いに、俺は一瞬だが頭の中が真っ白になってしまう。


「……どういうことかな?」

「あぁ、すまないね、リドル君」


 すると今度は、ティナさんを追い掛けてきたのか、ナイルさんが慌てた様子で駆けてきた。


「もう! 私がリドルさんに説明するって言ったのに!」

「それだけの説明じゃあ、リドル君に伝わらないよ」


 頬をぷくーっと膨らませたティナさんを、ナイルさんが宥めながら説明してくれる。


「実は以前、この村を訪ねてきた女性の方がいらっしゃいましてね。その方は村での生活は迷惑になるからと、少し離れた場所に自分で小屋を作り、暮らしているのです」

「なんですか、そのおかしな……いえ、謎の人物は?」


 言い直してみたけど……これ、あってるか? あってるよな?


「なんでもその女性は魔導具師のようでね、魔の森の素材を使って色々と作りたいと言っていたんだ。ただ……」


 そこで言葉を切ったナイルさんは、小さく息を吐いてから続きを話し始めた。


「リドル君も知っての通り、魔の森の魔獣はとても凶暴だ。私たちとしては、せっかく村まで来てくれた人を見殺しにはしたくないのだよ」

「その気持ちは理解できますけど、その女性はどうしてわざわざ小屋を建ててまで村の外で暮らし始めたんですか?」


 女性には女性なりの理由があったのだと思う。

 そこを無視して村に来い! では、相手の立場に立てずに終わってしまうのではないかと思い、聞いてみた。


「危険な素材を使うことがあり、また魔獣素材を使うので、他の魔獣が臭いを辿ってやってくるかもしれない、その危険を村に持ち込みたくない、と言っていたね」

「正当な理由じゃないんですか?」


 女性は魔導具の開発をするために、危険を承知で魔の森にやってきている。

 そして、自分の目的のために他の人を巻き込みたくないから、村の外で生活をしている。

 ……うん、何も悪いことはないと思う。


「いえ、実は……どうやらその女性、空腹の末に倒れてしまうことが多々あるようでして……」


 ん? どういうこと?


「それを心配してティナがよく足を運んでいるのですが、そろそろこちらに引っ越していただかないと、ティナが危ないのではないかと」

「今日も行こうと思っていたのに、何度も行くのは危ないからって言われたの! だからリドルさんに相談しに来たんだ!」


 あー、なるほど。気を遣っていると思っての行動が、逆に心配させてしまっていたのか。

 女性の判断は正解な気もするけど、その行動を成せるだけの生活力はなかったってことだな。


「ねえ、リドルさん! 一緒に行こうよ!」

「私としても、リドル君と一緒なら安心なんだが、どうだろうか?」


 ナイルさんとティナさんにはものすごくお世話になっているし、まだまだ恩返しもできていない。

 これくらいなら、まったく問題ないな。


「分かりました。行こうか、ティナさん」

「うん! ありがとう!」

「よろしく頼むよ」


 こうして俺とティナさんは、レオとルナの護衛を受けて、魔導具師の女性のもとへ向かった。

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