第2話:出会い
――俺が最初に出会ったのは、レオだった。
六歳の頃、父さんと一緒に他領へ出かけている途中、怪我をしていたレオを見つけたのがきっかけだ。
周りに誰もおらず、俺はどうしたらいいのか分からなかったんだけど、見た目は完全に子犬だったし、魔獣だとは思わなかった。それに、怪我をしているのも見過ごせなかった。
俺はすぐに自分の洋服を破り、傷口に布を巻いた。
これが良かったのかどうかなんて分からない。ただ、何もしないという選択ができなかっただけだ。
しかし、この行動がきっかけで、自分でも知らないうちにレオが俺の従魔になっていた。
当然、父さんは激怒した。
こんな小型の魔獣をテイムするなど何事だと言って、その場で殺そうとまでしたくらいだ。
あの時に俺が身を挺してレオを守っていなかったら、本当に殺していただろうな。
それから一年後に、ルナと出会った。
ルナはまさかのまさか、ブリード家の屋敷の庭へ迷い込んできたのだ。
レオをテイムしてからというもの、俺はブリード家の使用人たちからも煙たがられる存在になっており、庭で遊んでいたらさささーっと使用人もいなくなっていた。
だからだろう、ルナが庭に迷い込んできたことに気づいたのは俺とレオだけだった。
これもまたしょうがないのだが、見た目は完全にただの子猫である。
それに、屋敷の庭に魔獣が迷い込んでくるとは思ってもいなかった。
故に、俺は普通にルナと接した。レオと共に遊んでいた、という方が正しいだろう。
するとどうだ、これまた自分でも気づかないうちに、ルナが俺の従魔になってしまっていた。
その後の父さんの反応は、想像に難くない。激怒である。
とはいえ、俺はレオとルナをテイムしたことに後悔はなかった。
こんなにも可愛い二匹の主になれたことを誇りにすら思っていた。
だからだろう、小型魔獣を蔑ろにするこの領地を、いずれは飛び出したいと思うようになっていった。
◆◇◆◇
そして今――俺はブリード家を飛び出そうと……もとい、追放されようとしている。
向かう先は俺が分け与えられた、俺の領地なのだが、完全なる未開地だ。
未開地……いったいどんなところなんだろうか。
森なのか、荒野なのか、はたまた山なのか。
情報を得ようにも、俺の話はだーれも聞いてはくれない。
正直、不安はある。だけれどそれ以上に期待の方が大きかったりもする。
「俺の自由にできる領地だなんて、ワクワクするよな! レオ、ルナ!」
「ガウ!」
「ミー!」
俺の足元にはレオとルナが左右に並び立っている。
……うん、最高の癒しだ。二匹がいるだけで、俺は頑張れるな!
「いこうか。レオ、ルナ」
「ガウ!」
「ミー!」
見送りは誰もいない。
だが、俺はそれでいいと思っている。
何せ俺の領地になるということは、ブリードという家名を名乗らなくてもよくなるんだからな。
小型魔獣だって、役に立つんだ。それを俺は、自分の領地で証明してみせる!
……さて、周りからの視線が痛いなぁ~。
まあ、予想はしていたから我慢できるけどさ。
「乗合馬車があるところまで我慢な。レオ、ルナ」
「ガウ!」
「ミー!」
二匹に声を掛けながらしばらく街の中を歩き続け、俺はようやく乗合馬車に到着した。
「すみませーん」
「はいはい、いらっしゃいませ! 本日はどちらまで……げっ」
おいおい、客の顔を見て『げっ』はないだろうよ。
「聞きましたよ。あんた、北の未開地に飛ばされたんですってね」
「そうなんですよ。なので北に行く乗合馬車を探しているんです」
ニヤニヤしながらそう口にした男性に、俺は営業スマイルを貼り付けながら問い掛けた。
「あるにはあるんですがねぇ……人が集まらんことには、馬車も出せないんですよ」
この街から北には小さな村が点々と存在している。
それらの村から街へ来る人はいるが、ほとんどが徒歩か、個人が馬で移動してくることが多い。
しかし、その逆で街から村へ向かう者は多くはなかった。
村から来る人のほとんどは出稼ぎで、そのまま街に移り住む者も多いからだ。
「集まれば出せるんですがねぇ、こっちも商売なもんでねぇ」
……こいつ、俺のことをいじって楽しんでやがるな。
しかし、乗合馬車が出ないとなると正直、マズい。
北の領地まで結構な距離があり、徒歩だとおそらくだが一〇日くらいは掛かるかもしれない。
それだけの物資を持って徒歩での移動なんて、自殺行為だろう。
「おや? あなた、北に行きたいのですか?」
そこへ声を掛けてくる一人の男性が現れた。
「そうなんですが、あなたは?」
「あぁ、失礼いたしました。私は流れの商人をしております、ルッツと申します。実は私も北の方へ行きたいと思っておりました」
「あぁん? あんた、本気で言っているのか?」
乗合馬車の男性が、面倒くさそうに商人の男性、ルッツさんへ問い掛けた。
どうやらこの人、北への乗合馬車を出したくないみたいだな。
「もちろん、本気ですとも」
「だが、たったの二人じゃあ馬車は出せねぇぞ?」
「そうでしょうとも。ですが……こちら、受け取っていただけませんか?」
ルッツさんが乗合馬車の男性に小声で話し掛けながら、小さな袋の中身を見せている。
……あれ、絶対にお金だよな。
「……いいんですか?」
「……えぇ、もちろんです」
ニコリと笑ったルッツさんから小袋を受け取った乗合馬車の男性は、中身の数え終わると、満面の笑みを浮かべながら振り返る。
「ありがとうございます! ではでは、御者を呼んでまいりますので少々お待ちを! お前も代金さえ払えば乗ってもいいぞ!」
俺はすぐに乗合馬車の男性に運賃を支払うと、すぐにルッツさんに声を掛ける。
「あの、ありがとうございました」
「いえいえ、私も北に行きたいと思っておりましたからね」
ニコニコと笑ったままのルッツさんを見て、俺は疑問に思っていることを聞いてみる。
「あの、ルッツさん。俺はここから北にある未開地の領主に任命された、リドル・ブリードです」
「なんと、あなたが噂のリドル様でしたか」
「正直、ここから北には商人のあなたが行って、儲けになりそうなものはないと思います。それでも行かれるんですか?」
俺にとっては乗合馬車が出てくれるのだからありがたいことだが、それでルッツさんが損をしてほしくないと感じてしまった。
彼には彼の事情があるのだろうけど、一緒に乗せてもらうのだから、知っていることは伝えておかなければならないと思ったのだ。
「もちろん、行きますよ。ここから北の方角が、私のスキルが示す先ですからね」
「……スキルが?」
「お待たせいたしました! ささ、出発いたしますよ!」
ここで乗合馬車の男性が、少しやせこけた男性と共に戻ってきた。
男性は御者台に座り、俺とレオとルナ、ルッツさんは荷台へ乗り込む。
「それではいってらっしゃいませ!」
右手にお金の入った小袋を握ったままの乗合馬車の男性に見送られ、俺はようやく未開地へ出発できた。
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