第55話

 蒼空の誕生日まであと一週間。グズグズしていられない。

 早速、三笠は仕事が終わってから普段は行かないような高めの店に予約を入れた。バースデーケーキは、男同士だと恥ずかしい気もするが、店側で用意してくれるとのことなので、注文をした。

『プレゼント……何にするかな……』

 実は誰かのプレゼントを考えることは意外と難しかったりする。贈るなら、喜んでもらえるものを選びたい。

 そういえば、蒼空は靴を買い替えたいと言っていた。普段の捜査で歩き回ることも多く、日々活躍する靴は消耗が早いのだ。

『確か……サイズは二十五センチだと言っていたな……』

 思い出した三笠は、仕事の後に靴屋に寄ることにした。心苦しいが蒼空には内緒なので、友達と会う約束があると伝えておいた。

 靴屋に来てみたはいいが、一体どういったものを選べば良いのか迷う。日常的に蒼空が履いているタイプに似たものにすべきか、はたまた新たなタイプを提案すべきなのか。

 迷った挙句、三笠は蒼空が履かないタイプのスニーカーを探すことにした。

「これがいいかな……」

 三笠の目についたのは、白いラインが入り白い靴ひもの黒いスニーカーだ。手に取って眺めていると、近くにいた男性店員が話しかけてきた。

「こちらは大変に歩きやすいんですよ」

「そうなんですね。例えば……長時間歩き回ったとしても疲れにくいですかね」

「そうですね。僕も持ってますけど、長く歩いても大丈夫でしたよ」

 その言葉に、三笠はスニーカーの購入を決めた。

 プレゼント用に包装してもらったスニーカーを手に帰宅する三笠の心は、浮足立っていた。大切な人のために行動することは、こんなにも楽しくてワクワクするものなのだと改めて感じる。

『早く、喜ぶ顔が見たいな……』

 車の信号待ちの間にも、蒼空の笑顔を思い出し勝手に笑みが零れた。


 一週間後、いよいよ蒼空の誕生日当日。三笠が起きると、蒼空がキッチンで水を飲んでいた。

三笠に気付いた蒼空が、笑みを向けてきた。

「あ、おはようございます」

「おはよう。あと、お誕生日おめでとう!」

 三笠の言葉に、蒼空は目を丸くする。

「え!?あ、あぁ。ありがとうございます」

 もしかして、蒼空は誕生日だと気付いていなかったのだろうか。大人になり働いていれば、自分の誕生日を忘れることもあり得るかもしれない。

「もしかして、忘れてた?」

 三笠がクスっと笑うと、蒼空は恥ずかしそうに頬を掻いた。

「はい、最近は色々あったんで、忘れちゃってましたね」

「今日はさ、二人とも休みだし、どっか行こうよ」

「そうですね。でも、どこに行くんですか?」

「今日は、俺に任せて着いてきてくれるかな」

 三笠の言葉に、蒼空はキョトンとしながらも「はい。分かりました」と頷いた。

 朝食を済ませた二人は、三笠の車に乗り出発した。目的地は三笠しか分からない。

 時間が経つにつれ、車窓からは、木々が赤や黄に色づいているのが見えるようになってくる。

「紅葉の季節になったんですね」

 都会にいると、なかなか紅葉を街なかで見る機会はないかもしれない。

「まぁね。あ、イチョウの木が黄色くなってたよ」

「そうなんですね。昔、母の故郷の近くの寺に大きなイチョウの木があって、母が連れて行ってくれたことがありました。懐かしいな」

「そうだったんた」

「はい。イチョウの葉の黄色い絨毯が綺麗でした」

 前を見つめる蒼空の目は、亡くなった母親を思い浮かべているのだろうか。

 車を走らせて一時間以上が経ち、蒼空が尋ねてきた。

「あの……まだですか?結構遠くまで来ましたけど」

「うん。もうちょっとだよ。ホラ、俺たちあまり遠出ってしたことなかっただろ?たまにはいいかなと思ってさ」

「そうですね。三笠さんと二人でこうして出掛けられるの、嬉しいです」

「俺もだよ。普段、捜査では出掛けてるけど、仕事だしな」

 話しながら走行していると、少し車の進みが遅くなってきた。

 目的地に近付いてきたのだが、人気のスポットということもあり、渋滞しているのだ。

「あれ、何か渋滞してきてるみたいだね」

「ここって、栃木ですよね?無事着くのかな……」

 蒼空も不安になっているようだ。

「大丈夫だよ、もうすぐ着くから。ちょっと遅れるけどね」

 三笠の言葉に、蒼空はホッとしたようだ。

 それから三十分後、三笠たちは目的地に到着した。三笠たちがやって来たのは、日光のいろは坂だ。カーブの多い道だが、その道中に綺麗な紅葉を見ることができる。坂のカーブも車の進み具合が遅いものの、ゆっくりと色づいた紅葉を眺められた。

「綺麗ですね」

「あぁ。来て良かったよ」

 その後、明智平というスポットからはロープウェイに乗りさらに景色を楽しんだ。

「俺、ちょっと高い所苦手なんどすけど、ロープウェイに乗って良かったです」

 蒼空が夢中で窓の外の紅葉に夢中になっている。

そんな姿を見て、三笠の心は幸せに包まれた。

 ロープウェイを降りると、眼下には美しい景色が広がっていた。天気が良いので、中禅寺湖なども見える。

「いい景色ですね」

「うん。今度は泊りで中禅寺湖の方とかも行ってみたいね」

「はい。またゆっくり来ましょう」

 二人は密かに手を繋いだ。

 その後いろは坂を降りてからは、食事をして帰途に着いた。

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