第42話

事件が解決した次の日、三笠は休日で蒼空の入院する病院を訪れた。手には、蒼空へのお見舞いに購入したタオルギフトを携えている。入院中に喜ばれるお見舞い品の一つだそうだ。

 蒼空の病室は四人部屋だが、たまたまベッドが三つ空いており蒼空のみが使用している。

 ノックして部屋に入ると、奥の窓側にあるベッドで蒼空が横になっていた。眠っているのかと思ったが、三笠が来たことに気付いた蒼空は体を起こした。

「三笠さん」

 嬉しそうな蒼空の表情は明るく、顔色も良いようだ。

「どう?調子は。まだ痛む?」

 三笠が質問しながら病室のパイプ椅子に座ると、「まだ少し痛いです」と蒼空は苦笑いした。

「そっか……君がいないと、やっぱり淋しいよ」

「俺もです。こうやって会いに来てくれるのは嬉しいですけど。あ、どうなりましたか?事件」

「うん。解決したよ。三件の放火を認めた」

「やっぱり、俺を刺したヤツが犯人だったんですか?」

「あぁ。あいつ、生い立ちが複雑だった。だからって、犯罪を犯しても良いわけじゃないけどな」

「はい。早く仕事に戻りたいです。三笠さんと一緒にいられるし。今はどうしてるんですか?迷惑かけてごめんなさい」

「気にしないで、ゆっくり休んで。今は、課長にも助けてもらってるよ」

「そうですか……すみません……俺も早く治さなきゃ……」

「焦らずに、しっかり治して。待ってるから」

 三笠は立ち上がると、「俺の隣は君だけだ」と言い蒼空に顔を近づけた。無性にキスがしたくなったのだ。唇まであと僅かというところで、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

ドアが開いた瞬間、二人は揃って入口の方に顔を向けた。

『ヤバい……』

 二人同時にそう思ったのは、部屋にやってきたのが同じチームの佐藤だったからだ。

 顔を近づけてまさに今キスをしようとしている様を見て、目を見開いた。

「お、お前ら……何やってんだ……」

 驚きを隠せない表情で佐藤が近づいてくる。

「まさか……そういう関係なのか!?」

 決定的な瞬間を見られてしまっては、誤魔化すことはできないだろう。三笠は蒼空と顔を見合わせた。

「はい。俺たち、付き合っています」

 真っ直ぐに佐藤の顔を見つめ伝える三笠に、蒼空は少し動揺したようだった。

「三笠さん……」

 二人の関係を明かしても良いのだろうかと思ったのだろう。

 佐藤は空いているベッドに腰掛けた。

「何だ、そうだったのか。全然気付かなかったな」

「すみません……」

「謝らないでくれ。別に何とも思っちゃいないし」

「できれば皆に……」

「分かってるって。言わないから。安心して」

「ありがとうございます」

 三笠は安堵の思いで頭を下げた。

「それで、お前ら一緒に住んでるのか?」

「いいえ。まだです」

 三笠が言うと、佐藤は意外そうな顔をした。

「何だ、てっきりもう一緒に暮らしてるのかと思ったのに。同居しないのか?」

「それが……住所が同じだと、皆に知られた時にまずいかなと思って、別々に暮らしてるんです。な?」

 三笠が同意を求めて蒼空の方を向くと、彼は「はい」と頷いた。

「そっか......そんなこと考えてたのか.....」

 佐藤はなぜか申し訳なさそうな顔をする。

「俺は誰にも言わないが、もし皆にバレたとしても、態度を変えたりからかったりするヤツらじゃない」

  確かにそう言われればそうかもしれない。皆仲間思いだし、不用意なことを言って傷付けるようなこともしないだろう。必要以上に詮索もしてこないはずだ。三笠はもとより、蒼空もそれは分かっていると思う。

「そうですね。考えてみます」

「あぁ。そんじゃ、そろそろ行くな。川上、しっかり治せよ。待ってるから」

「はい。ありがとうございます」

 蒼空が頭を下げると、佐藤は笑顔を残し廊下へと消えていった。

「びっくりした……」

 蒼空は相当焦ったようだ。

「本当だね。俺もちょっと軽率だったよ。ごめん」

「いえ。佐藤さんが良い人で良かったです」

「そうだな……」

 三笠は蒼空の隣に座り、柔らかく抱き締めた。

「また一緒に暮らそう。退院したら、うちに戻っておいで」

「いいんですか?仕事でも家でも一緒にいたら、俺に飽きないですか?」

 蒼空の声には、不安な感情がうかがえた。

「そんなことあるわけない。本当は、ずっと君と暮らしたいって思ってたんだよ」

「それなら……また、お世話になります」

 二人はまた、唇を合わせた。

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