25 「君には特別な魔法をかけておいた。絶対勝てるからね」

 僕の目の前で名浜さんが倒れている。


 そして転がっているボール。一瞬何が起きたのかわからなかったけど……


「凰ちゃん!」


 内野にいた一組の男子と、応援していた高橋さんたち女子も一斉に名浜さんの元へかけよる。


「大丈夫? すごい音がしたけど」

「どこ当たった? 男子、見てた?」


「いや、速すぎてわかんなかった……」

「保健室! 急いで連れて行かなきゃ!」



 ああ、わかった。



 僕に向かって飛んできたボールを、んだ。目の前が真っ暗になったのは、名浜さんの背中が僕の視界をさえぎったからだ。


 また、助けられてしまった。

 校庭のトイレの裏で、伊藤朱里雄に殴られそうになったときも、名浜さんが助けてくれた。そして今回も。


 ――ごめん。


 今度は僕が名浜さんを守るって言ったのに。僕は悔しくて、両手をギュッと握りしめた。


「……名浜凰……これくらいで終わったりしないよなぁ……」


 伊藤朱里雄は自分がとんでもないことをしてしまったという自覚はなさそうで、名浜さんを当てたからと、二組の内野へとゆっくりと歩いていった。


「ちょっと! 何よその言い方! 凰ちゃんがかわいそうでしょ!」

「そうよ! 一言ごめんぐらい言ったらどうなの?」


 佐藤さんたちが伊藤朱里雄にぎゃあぎゃあと文句を言う。すると、名浜さんがゆっくりと動いた。


「うう……」


「凰ちゃん!」鈴木さんの言葉に、名浜さんがゆっくりと立ち上がる。


「すまないね、凛ちゃん。みんなに魔法をかけることに気を取られて、自分の身を守ることを忘れていたよ」


 そう言って、名浜さんは服についた砂をパンパンと払い除ける。そのときに、手のひらが真っ赤になっているのがわかった。ボールは掌に当たったんだろう。よかった、顔とかお腹とか大事な部分じゃなくて。


「怪我はないの、凰ちゃん?」

 高橋さんも半分涙ぐみながら尋ねるけど、名浜さんは真っ赤になった手のひらを見せながら笑った。


「ああ、当たったのは手のひらだよ。怪我はしていないから、保健室に行かなくても大丈夫だ」


 名浜さんのその一言で、みんな「よかったぁ」とほっと胸を撫で下ろした。もちろん僕も。



「さあ、ドッジボールを再開しようじゃないか。だが、私は当てられてしまったから外野に行かないとね。みんな、あとは任せたよ」



 にこっと名浜さんが笑うと、

「凰ちゃんのためにも、絶対勝つぞ!」

「っていうか、名浜さん、外野から相手を当てれば戻ってこられるよ!」

「名浜さんにパス回すから!」

 と、男子は内野に散らばっていく。


 応援の女子たちは、

「頼むわよ、男子!」

「凰ちゃん、早く当てて戻ってきて!」

「ファイト!」

 と再び元気を取り戻した。


 名浜さんの一言で、みんな気合が入ったみたい。当の名浜さんは何事もなかったかのように、外野へ向かう。


 そして、僕とすれ違うときに、耳元でこう言ったんだ。



「君には特別な魔法をかけておいた。絶対勝てるからね、がんばれゴウくん」

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