21 「僕たちが勝ったら、これ以上名浜さんに手を出すな!」

 2時間目の授業は算数。

 だけど全く頭に入ってこなかった。


 鉛筆を持って、ノートに何か書く真似をしているけど、頭の中は保健室からの帰り道の会話のことでいっぱいだった。

 




「私を倒して、魔王の座を奪う気なんだろうね」

「凰ちゃんを……倒す?」


「ああ、魔王の座を狙っている魔族はたくさんいるのさ。まさか人間界にまでやってくるとは……すまないね、ゴウくんにも迷惑をかけてしまって」

「迷惑だなんて、そんな」


 僕は立ち止まった。そして、おもむろに名浜さんの手を握った。


「凰ちゃんは僕を助けてくれた。今度は僕が凰ちゃんを助ける番なんだ」


 これまでずっと意地悪な二人から「ガチャ」と呼ばれからかわれてきたけど、名浜さんが魔法を使って解決してくれた。それに何より、僕の名前をかっこいいと言ってくれた。それだけで僕は救われた気がしたんだ。


「ありがとう、ゴウくん」


 名浜さんはちょっと恥ずかしそうな顔をして、それから笑った。そして僕の耳に口を近づけて「でもね、授業中の廊下であんまり大声を出さない方いいと思うんだ」とささやいた。


 ――っ!


 僕は急に恥ずかしくなって、握っていた名浜さんの手を離して距離を取った。

 

 なんか無意識のうちに手を握っちゃったけど、名浜さんは嫌がってないかな? そう思って名浜さんをみたけど、特に嫌な顔はしていなかった……と思う。思いたい。


「その魔族……を倒す方法はないの?」

「そうだね……。さすがに取り憑かれている伊藤朱里雄を倒すわけにはいかないからね、彼の中にいる本体を追い出さなければ」


「本体……か」

「何か彼に強い衝撃を与えればいいんだけど……。学校生活の中でわざとらしくなく、彼にドカンと衝撃を与える方法がないものかな」



 ◇



 廊下では即答できなかったけど、授業中の今、僕にはとてもいいアイデアが浮かんだ。伊藤朱里雄にとりついた魔族を追い払うため……いや、名浜さんを守るため。


 自然と彼に強い衝撃を与えるのは、この方法しかない。


 僕は授業が終わると、名浜さんを連れて隣のクラスへと向かった。もちろん、伊藤朱里雄に話をするためだ。


「おっ、ガ……結城じゃねぇか! 二組に何の用だよ!」

「ガチャ……うっ! ト、トイレ!」


 二組のドアの前で、山田太郎と田中三郎に会ってしまった。隣に名浜さんがいることに気づかなかった田中は、僕のことをガチャと呼ぶとすぐに、お腹を押さえてトイレへ走って行った。


 魔法の効果はとっくに切れているはずなのに。思い込みって怖いんだなと名浜さんと顔を見合わせて笑った。



 教室の中に伊藤朱里雄はいた。

 そして僕たちが廊下から覗いていることに気づくと、ゆっくりと近づいてきた。


「どうした、名浜凰。勝負をする気になったのか?」


 さすがに、体を乗っ取っていることを他の人に知られてはいけないのだろう。周りには聞こえないくらいの声で言った。

 すかさず、僕が二人の間に割って入る。


「違う! 勝負するのは僕だ!」

 

 は? と伊藤朱里雄が僕を見る。「お前なんか相手にもならない」そんな見下したような顔をするもんだから、ちょっと僕もいらっとして、大きな声で言ってしまった。


「ひ、昼休み、一組対二組のドッジボールで勝負だ! 僕たちが勝ったら、これ以上名浜さんに手を出すな!」

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