12 「名浜さんは本当に魔法が使えるの?」
そのまま、席替えは特に問題なく終わった。
僕の席は教室の一番右後ろ。廊下に近い扉の前。
そして隣には名浜さん。
もう一度名浜さんと隣同士なりたいと思っていたけど、本当にそうなるなんて。うれしいんだけど、うれしいよりも、不思議な気持ちの方が勝ってしまう。どうもさっきの一言が気になって仕方なかったから。
「隣になれますようにって、こっそり魔法を使ったんだ」
まさかと思ったけど、名浜さんが嘘や冗談で言っているわけではなさそうだった。
僕はこれまでのことを思い出してみる。
山田と田中に対する、僕のことをガチャと呼ぼうとすると、おなかを壊すという呪い。
佐藤さんの頭に手を伸ばすと聞こえた叫び声と黒いもや。
そして、今回の席替え。
こんなに偶然が重なることってあるんだろうか。もしかして、本当に名浜さんは魔法を使えるんじゃないか。みんなと仲良くなるために「名は魔王だ!」とか、冗談を言っていたけど、あれは冗談ではなく、本当に魔王なんじゃないか……。
って、違うか。
僕は自分の考えが馬鹿馬鹿しいことに気づいた。
もし名浜さんが本当に魔王だとしたら、人間の世界の小学校に転校してくるはずがない。しかも、魔王って人間を倒そうとしている存在でしょ? 人間と友達になろうとする魔王なんているわけない。
っていうかさ、そもそもこの世界に魔王がいるわけないじゃない。
そう思ったんだけど……。
今回の席替えで、さらに偶然が重なってしまったんだ。
佐藤麻衣さんが名浜さんの席の前。鈴木凛さんはその右隣、つまり僕の席の前。高橋夏帆さんは佐藤さんの左隣。例の仲良し三人組が横に並ぶという奇跡まで起きてしまった。
残念だけど、タッくんは僕の対角。一番左の前の席になってしまった。
「やばいって。名浜さん後ろにいるじゃん」
「話しかけないようにしよ」
「魔法使われたらマジやばいから」
仲良し三人組の意地悪なひそひそ話が前から聞こえた。
絶対、名浜さんに聞こえるように言っている。僕は心配になって名浜さんの方を見る。すると彼女はそんな三人組を見て、「よろしくね、佐藤さんたち。また具合が悪くなったときは私に教えてくれよ」と笑顔で接していた。
佐藤さんは「ひっ!」と声を出して、すぐに前を向いた。
僕の席の前にいる鈴木さんが、僕に近づいて、手で口を隠しながらひそひそ声で言った。
「結城くんも気をつけなよ。名浜さんの気に入らないことをすると魔法をかけられちゃうよ」
そして鈴木さんもすぐに前を向いた。
キーンコーンカーンコーン。
次の授業が始まる。
「名浜さんは本当に魔法を使うことができるのか」
授業が始まっても、僕の頭の中はそのことでいっぱいだった。
このままじゃだめだ! 思い切って僕は名浜さんに尋ねてみようと思った。でも今は授業中。さすがに話しかけることはできない。
かといって、休み時間まで待ちきれない。ダメだってのは分かっているけど、僕はこっそりと紙切れに手紙を書いて、名浜さんに渡した。
「名浜さんは本当に魔法が使えるの?」
僕から紙切れを渡されて、はじめはびっくりした顔を見せた名浜さんだったけど、中に書かれた手紙を見てにこりと笑った。そして、その紙切れに何やら鉛筆で文字をすらすらと書いて、僕に返してきた。
ドキドキしながら僕は返事を読む。
すると。
名浜さんと書いた部分に二重線が引かれていて、その上に「呼び方が違うよ、ゴウくん」と書かれていた。僕が名浜さんを見ると、僕の方を見てまたにこりと笑った。くそ、かわいすぎる。
僕は改めて二重線の横、空いている場所に「おうちゃん」と書き直した。そして、それを名浜さんに手渡そ……。
「こーら、何をしているか結城恒河沙!」
いつの間にか近くに町田先生が立っていて、僕は思わずビクッと体を震わせてしまった。やばい! 名浜さんに手紙を書いていたことがばれてしまう!
僕は思わず手紙を持っている手を握りしめた。
「授業中だというのに、何だ、その不自然なグーは」
先生の発言で、みんなの視線が一斉に僕の握りしめた手に向かう。やばいやばいやばいやばい! 体中が暑くなって、汗が出る。
「先生」
突然、名浜さんが口を開いた。
「私、結城さんに消しゴムを借りようとしていたんです。今日、忘れてしまって……それで……」
町田先生は名浜さんに言われて、僕と僕の握りしめている手を見た。
「そうなのか、結城? 先生にはなんかの紙切れを持っていたように見えたんだが」
僕はいきなり変なことを言い出した名浜さんを見た。すると彼女は「だいじょうぶだから」と言わんばかりに、僕にだけわかるように小さくウインクをした。
ゆっくりと手を開くと、僕の手の中には消しゴムがあった。
「うわ!」
あれ、確かに紙切れを握っていたはずなのに! 手品みたいで、思わず声を出してしまった。
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