落ち込んでる子がいたのでナンパしたら名家のお嬢様だった

A̸r̷e҉z҉i̶o҉

第1話

夏になり暑くなり始めてきた季節、高校からの帰りに俺は新作が出たということでいつも暇な時に訪れている喫茶店に来て新作の飲み物を飲みながら携帯でソシャゲをしていた。


ちなみに誘う人も特にいなかったので俺は一人で来ていた。別に友達がいないというわけではない。俺にもよく遊ぶ二人の友人がいるが、彼らは二人とも彼女持ちでそちらを優先している。まあ友人よりも恋人を優先したいというのは誰だってそうだろう。


そして彼女なんかいるわけもなくいつも他の二人にそれを揶揄われている俺は放課後に外の適当な店に出歩くのが趣味になっている。高校から一人暮らしをしたことによって知らない地域に住むことになってしまったがこうして外を散策していると、意外と良い所が見つかるものである。


「はあ。」


ソシャゲの周回が終わったところで小さくため息を一つ吐いて周りを見渡した。ここは出てくるものは最高に美味いのだが、あまり客が入ってこない。店としては困ることだろうが、俺からしたら穴場として喜ぶ他ない。そのおかげでこうして飲み物を飲みながらゆっくりと時間を潰せるのだから。


しかしその時、客が入店したことを知らせる鈴のカランカランと小気味の良い音が店内に鳴り響いた。


反射的にそちらを見ると、そこには俺の通っている高校の制服を着た、背中まで伸ばした黒髪や顔はもちろん、体や姿勢まで綺麗な、まるで人形のように可愛らしい容姿をした少女が入ってきていた。


「お隣いいですか?」


少女は俺が座っている手前から二番目の席の隣、一番手前の席に手を置きながら消えいるようなか細いながらも透き通るような声で言った。


「……」

「あの?」


「あっ、はい!別に大丈夫ですよ。」


思わず見惚れていたら反応が遅れてしまったのですぐに気を取り直して答えた。そしたら少女は安心したような顔をして席に座った。


こんな人学校にいたっけと思いながら彼女を横目で見た。あまり他クラスの人に興味がないので知らないが、こんな綺麗な人がいたら有名になっているはずだが、俺は全く知らなかった。俺は制服が窮屈なので一回家に帰って着替えてからこの店に来ているので、彼女が俺を同じ学校の人だと知ることは無いだろう。


そのまま彼女の顔を盗み見ていたが、何故か彼女はずっと暗い顔をしている。一体何かあったのだろうか。まあ何かあったところで俺にできることは無いと思うが。


ここで何か言えたら俺も彼女ができたのだろうか……脳裏に浮かぶのは二人の友人が俺に向かって揶揄いながらニヤついている顔…


なんかそう思うとムカついてきた。


いつも友人達にはお前なら度胸が無いから彼女ができないだよ。相手の連絡先を聞き出す勢いで女子に話しかけてみろよ。と言われている。なら、ここで俺にも度胸があるということを証明してやろう。


「さっきから何か暗い顔をしてますけど、何かあったんですか?」


俺はあくまで好青年を演じながら少女に話しかけた。少女は驚いたような顔で急に話しかけられたことに驚きながら俺の方向を見た。


なんかノリと勢いで喋りかけることになってしまったが、ただの黒歴史になるかそれとも成功するかなんて運だろう。少女は戸惑った様子で狼狽えている。


「一回誰かに話してみたら、冷静にものを考えることができると思いますよ。それこそ俺みたいな無関係の人にね。」


流石友人から言い訳の天才と呼ばれた俺、自分でも自慢できるほど口が良く回るものである。少女はそんな俺の言葉に納得したような顔をして、


「確かに…」


と言い出した。俺が言うのもなんだけどちょっとこの子純粋すぎると思う。


「私の話、聞いてくれますか?」


少女はおずおずとした様子で俺に聞いてきた。まあ俺から言い出したことだから聞くのは当然だろうと思いつつも答えた。


「もちろんですよ。話してみて下さい。」


そしたら少女はぽつぽつと自身に起きた出来事を語り出した。


「私にはいいn……いえ、付き合っている人がいたんです。だけど、別に最初はそこまで好きではありませんでした。でも、私はこれから好きになれるように努力しようと決めたんです。そうして私から彼に歩むようにしたんですが、どうやら彼は他の女の子とえっと……いろいろな行為?をしていたみたいで…」


「うわぁ。」


思ったよりガチな悩みがきた。まあ大体軽い気持ちで付き合った彼氏に浮気されていたという話なのだろうか。でも別に好きじゃないなら別れればよくね?と思ってそれとなく言ってみたが、どうやらその彼氏は自身の親にも関係していて親にも迷惑がかかってしまうらしい。


それでこの少女は今まで親の言うことは全て聞いてきた良い子なので、彼氏と別れたいと言うのも忍びないということであった。


「私はどうしたら良いんでしょう……私自身を見てくれる人と付き合いたいけど、私は両親に迷惑をかけたくありません。」


俺に向かって少女は語り終わった後、自信を無くしたように落ち込みながら下を向いていた。自分に自信が全くないのだろうか。なら、俺ができることは一つである。


「両親に迷惑?そんなことよりも、まずは自分がやりたい事をすれば良いと思うよ。今まで話を聞いてくれていたからこの子は話を聞いてくれるだろう。そうやって思われたらただの奴隷と変わらないよ。だから、ちゃんと物事をはっきりと言えるようにならないと!」


「物事をはっきりと……」


「そう、ちゃんと自分の思ったことをはっきりと言えるようになろう!」


「そうですか…」


少女は俺の言葉に悩んで黙り込んでしまった。さっきも思ったが、この子本当に少し純粋過ぎるな。将来が心配だ。そして、俺がやっている行為はもうナンパに違いないが、これからどうすれば良いんだ?恋愛経験皆無だから何も分からねえ。


それどころかなんか勢いで喋ったので何言ったかもうよく覚えてねえ。まあこのままノリで何とかなるだろ。


「少しは役に立てたかな?」


「はい!少し気は引けますが、この気に私も頑張ってみようと思います!」


「そう、ならさ、俺こういうの結果が気になっちゃうからさ、連絡先交換しない?そしてそれが成功したらどうなったか教えて欲しいな。」


「はい!良いですよ。」


そう言って俺は少女と携帯で連絡先を交換した。思わず頬が緩みそうになってしまったが、何とか堪えて少女と会話を再開した。


「じゃあ私、もう行きますね。今日はありがとうございました!」


「応援してるよ。頑張ってね。」


「はい!」


そう言って彼女は憑き物が落ちたように明るい笑顔のまま会計をして店内から出て行った。


そして俺もしばらくした後、後を追うように店を出た。そして家の帰り道、俺は交換した連絡先の少女の名前だろうか、NAMIと書かれた文字を眺めながら、


「女子の連絡先ゲットしたぞオラァ!あの二人にこれで言ってやる。俺はヘタレじゃないってな!」


友人二人に見せつけようと舞い上がっていた。





◇◆◇


その日の夜、俺はまだ気分が舞い上がって何かソワソワしたままベッドに転がっていた。


「俺から何か送ったほうが良いんだろうか…いやでも今頃、親と話し合ってるかもしれないからな。明日連絡すれば良いか?」


何かメッセージを送った方が良いのだろうかと考えながらもいつものチキンな性格が出て何も送れない。


しかしその瞬間、俺の携帯は通知が来たことで震えた。誰からのメールだ?と思って確認したところ、そこに書いてあったのは【NAMI】。


「うお!マジか!」


俺は大急ぎでメールを確認した。そしてそこには、


『今日あなたに相談した内容で勇気を出して両親に言ったのですが、無事に別れることができました!自信を持たせてくれてありがとうございました!改めてお礼がしたいのでまたお時間があれば会ってもらうことって可能ですか?』


「へえ、別れられたんだ!」


俺は純粋にその報告に驚きながら返信を打った。


『お役に立てたなら何よりです!貴女とはお礼関係無く、また会って話したいと私も思ってましたのでまたあの喫茶店でもお互い予定が空いた時にでも会いましょう。』


完璧な好青年だ!思わず口元がニヤけながらメールを送信した。これでまた会うこともできるだろう。初めてのナンパは大成功と言って差し支えないと言える。


「明日あの二人に報告した時が楽しみだなぁ。」


俺は友人の驚く姿を想像しながら携帯を机に置いた。



しかし、俺はこの時気づかなかった。俺の行動はもう取り返しがつかないことになってしまったことに。






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昨日の深夜に思いついた。消すかも。(執筆当日)


消すと言ったなアレは嘘だ。(執筆翌日)








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