四日目① 初めての殺害

 朝起きて、食堂で食事を済ませて、ギルドへ向かう。

 変わらない朝のルーティンだ。


 うん……まだ体が痛い……

 昨日の訓練のダメージがいまだに残っているんだと思う。

 おっさん、ホント容赦なかったからな……

 よく見ると体中痣だらけだった。

 おそらく背中とかも痣だらけだろうな。

 絶対強くなっておっさんを打ち負かしてやる!!




ガランゴロンガラン


 俺が冒険者ギルドに入ると、朝から酒を飲んでいる冒険者以外出払っていた。

 やはり争奪戦の後は即行動なのかもしれない。

 それと、さすがにゲームみたいなことはなかった。

 〝〇〇職1名募集〟とか〝〇〇討伐戦野良参加募集〟とか。

 まあ、そんな急増チームで向かったら命がいくつあっても足りないかもしれないから、当然と言えば当然かもしれない。


 俺は、昨日訓練のせいで受けられなかった依頼を受けることにした。

 掲示板の下段にある古びた依頼書『ゴブリン討伐』。

 俺は、依頼書を掲示板から剥がし、受付カウンターへ移動した。

 受付にはキャサリンさんがいたので、そのカウンターで受付をお願いした。


「おはようございます、キャサリンさん。これ、受けたいんですけど。」

「あらおはようカイト君。『ゴブリン討伐』は常設依頼だから、特に申請はいらないわよ。それにあいつらの繁殖力はかなりのものだから、昔から〝1匹見つけたら10匹はいると思え〟って言われるくらいよ。討伐証……ゴブリンの左耳を持ってくればいいわよ。」


 なるほど、『ゴブリン討伐』は常設依頼だから受付の必要はなしっと。

 〝1匹見つけたら10匹はいると思え〟とな……

 つまりゴブリンの〝G〟は憎きあやつらと同じ〝G〟の系譜ということか……

 そして討伐完了の証拠にゴブリンの左耳を持ってくればいいと……


 ……解体しなきゃダメ?


 ついでにまだ受付をしていた『薬草採取』の依頼も受けた。

 一昨日と同じ内容だ。

 これじゃあ、どっちがついでだかわからなくなったな。

 報酬のトータルは銅貨35枚か。

 正直、これが高いのか安いのかも分からないな。


「それじゃあ、行ってきます。」

「気を付けてね?必ず帰ってくるのよ?」


 キャサリンさんに「はい」と返事をしながら、俺は冒険者ギルドを後にした。

 それから俺は、この前と同じく東門を出て東の森に向かった。

 ちなみに門番は昨日と同じ人だった。

「ちゃんと帰ってこいよ。」って言われて、ちょっとだけ嬉しくなったのは内緒だ。

 それよりも……いつ休んでんの門番さん!?



 

 森に着くまでは普通の道だった。

 馬車が通れるだけの道幅に土が固められていた。

 まあきれいかどうかは別として、歩きやすいから助かるっちゃ助かるな。

 途中から枝分かれをしていて、直進が隣の町への街道。

 左にそれる道が東の森への道となっている。

 街道を左にそれて目的地の東の森へと道沿いに歩く。


 少し進むと目の前に大きな森が姿を現した。

 改めて見ると、あまり気味のいい場所ではないな。

 いかにもって雰囲気が何とも言えない。

 鬱蒼と生い茂る木々が、空からの光を遮っているようだった。


 意を決して東の森へ入ると、一気に空気感が変わったように感じた。

 モンスターの出現する可能性が跳ね上がった瞬間だった。

 さっきまでのすがすがしい陽気とは一変して、肌にまとわりつくような、そんな陰湿さが感じられた。

 一昨日はそれを感じられなかったってことは、ある意味危険な状態だったのかもしれない。

 おっさんとの訓練が生きてるんだろうな。

 

 とりあえず経験の少ない俺は、一昨日来た場所でヒール草を探した。

 案の定すぐに見つけることができたので助かった。

 さすがに一昨日見つけた薬草なので探すのは楽だった。


 それから周辺をくまなく探していると、意外とすぐに数がそろってしまった。


 だが、肝心のゴブリンはまだ見つからない。




 しばらく警戒しながら周りをキョロキョロ見まわしていると、背後からガサゴソと音が聞こえてきた。

 俺は少し驚きつつも、すぐに後ろを振り返り剣を構えた。

 この辺はおっさんからの扱きの賜物だったのかもしれないな。

 しかし、背中に大量の汗が流れるのを感じていた……


 警戒を解かずに構えていると、藪の中から一匹の小さな人影が姿を現した。

 おそらくこいつがゴブリンだと思う。

 見た目は子供と言ってもいいくらいの身長で、かなりのやせ形だ。

 若干あばらが浮き出ているようにも見えた。

 特徴はその肌の色。

 緑色でところどころ薄汚れていた。

 顔は醜悪そのもので、見ているこちらが気分を害する、そんな感じがした。

 そしてずっと唾を飛ばしながら何かしゃべっているようだったが、俺には聞き取ることはできなかった。

 ゴブリンの手にはこん棒のようなもの握られていて、ずるずると引きずりながら近づいてくる。

 

 お互いに緊張感が高まっていく。


「今宵の愛刀は血に飢えておる。」


 一回言ってみたかった……

 ウォッホン!!

 俺は油断なくゴブリンを見据えた。

 おっさんのおかげで、思いのほか緊張感はなかった。

 

 ジワリ……ジワリ……

 

 俺は正面に剣を構えたままゴブリンに近づいていった。

 しかしゴブリンは焦りからか、こん棒を大きく振りかぶりながら襲い掛かってきた。


 遅い!!

 ゴブリン動きはあまりにも緩慢で、隙だらけだった。

 俺は左わきをすり抜けざま、剣を思いっきり振りぬいた!!


「胴~~~~~~!!」


 癖とは恐ろしいものだ……

 つい口に出してしまったが、きれいにゴブリンの左わき腹を切り裂くことができた。


 ブシャ~~~!!


 大量の体液らしき液体がゴブリンの脇腹から吹き出ていた。

 傷が深かったためか、ゴブリンは片膝をついて倒れかけていた。


「グギャ!!ギギャギャ……グ……ガ…………」


 ゴブリンは脇腹を押さえながらよろよろと気合で立ち上がる。

 しかし、意識が持ったのもそこまでのようだった。

 そのまま地面へ倒れこんだ……

 おそらく死んだと思う……

 しばらく剣を構え警戒を続けたが、動く気配はなかった。

 

 俺の……勝ちだ……!!


 それにしても、おっさんと模擬戦やっててよかった。

 でなきゃ反応が遅れてケガをしていたな……

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