一日目② カイト冒険者になる

 冒険者ギルドの中に入ると、なかなか面白い造りになっていた。

 建物入って右手が冒険者ギルドの施設。

 左手が酒場と思われる施設。

 この建物の隣には宿屋のような施設も併設されていた。

 

 ギルド施設の奥に進むと受付カウンターと書かれたプレートがぶら下がってる場所や、買取所。

 現代日本でいう銀行みたいなところだろうか、金品預入場所などもあった。

 壁際にはでっかいボードが備え付けてあり、いろいろな紙が張り出されていた。

 よく見ると〝クエストボード〟と書かれており、依頼と思われる紙が張り出されていた。


 そしてここである違和感に気が付いた……

 どうして俺はこの世界の字が読めるんだ?

 字の形だって見たことないはずなのに……

 これが異世界転移系のテンプレなのか?!


 なんて冗談を考えながら建物右手奥へと進んだ。

 いやまぁ、冗談で流していいのか迷う案件でもある。


 施設中央の待合所のような椅子が沢山並んだ広場があった。

 なんとなく職業案内所的な雰囲気に思ってしまった。

 そこを抜け受付カウンターへ着いた俺は、座っていた女性に声をかけた。


「あの、すいません。冒険者の登録はこちらでいいんでしょうか?」

「ここですよ~。じゃあ、この紙に名前と年齢と職業を書いて~。書き終わったらおしえてね~。」


 爪を磨きながらめっちゃやる気なさそうな受付嬢だった。

 少し磨くとふぅ~と爪に息を吹きかけてまた磨きだす。

 その間ほとんどこちらを見ようとはしていない……

 やる気が無いにもほどがあるだろうよ。

 そしてここでもおかしな現象。

 字が書ける……もう突っ込むのやめよう……俺の精神が持たない……

 用紙に必要事項を書き終わり受付嬢へと渡すと、その用紙を何か機械のようなものに通し始めた。

 少しすると、ドックタグとカードのようなものが出てきた。


「はいこれ、冒険者証よ。失くすと再発行手数料かかるから失くさないでね。あと、私がめんどくさい。じゃあ、これでおしまいね~。」


 何とも言えない感じがした。

 はたから見たら俺の顔はきっと苦笑いを浮かべていたと思う。

 何か説明とかないの?せめてパンフレット的なものはないのだろうか……

 はぁ、考えるのも面倒だな……

 俺が受付で登録を終えると、またも異世界テンプレを体験した。

 そう、ギルド証を受け取ると、酔っぱらいの男たちに囲まれたのだ。


「おう、にいちゃん。冒険者になったみたいだなぁ~。ヒック、オルェたちがよぉ〜、ヒッ、冒険者のぉ~、先輩としてだなぁ~、ヒック、オミャエの面倒見てやっからよぉ〜、有り金ぜ~~~~~んぶ出せよぉ~~い。」


 こいつらがいったい何を言っているのか、意味がわからない。

 いや、酔っぱらってろれつが回ってないって意味ではないよ?

 受付嬢を見ても、我関せずで、まだ爪を磨いてる。

 つまりそういうことか。

 なるほどなるほど。

 こういった案件には冒険者ギルドは関知しないらしい。

 冒険者同士の揉め事は、自分たちで解決するということか。

 俺は周囲を見渡したが、誰も助けようとはしなかった。

 むしろ周りの冒険者然とした者たちは、この酔っ払い男たちを囃し立てていた。


 それにしても、困った。

 こいつらの強さがわからないな。

 こいつ等がものすごく強くて、こっちがワンパンでやられる可能性だってある。

 だがしかし……




 よし断ろう。


「そういうの間に合ってます。」


 そう、俺はNOと言える日本人だ。

 当然、そいつらはキレて殴りかかってきた。


「せんぱいに……、たてついてんじゃね~~~~!!」


 あれ?遅い?

 先輩冒険者の攻撃が俺に届くことはなかった。

 大振りで殴り掛かってきてはいるんだけど、酒のせいなのか動きがダラダラしていた。

 俺はその攻撃を余裕を持って避け、逃げまくった。


「チョコマカと逃げやがって!!大人しく一発殴らせろ!!」


 すでに殴る気まんまんじゃないかよ。

 あぁめんどくさい。

 もう殴り倒していいよね?

 俺が自称先輩の攻撃を避けて、腹に一発当てようとしたときだった。


「何してやがる!!騒がしいぞ!!」


 俺たちの騒ぎを聞きつけて、2階からゴリマッチョなおっさんが降りてきた。

 おっさんを見るなり、自称先輩は顔を真っ青にして震えだした。

 受付嬢も同じく顔色が悪い。


 俺が首を傾げていると、おっさんは周囲の職員に事情を聴き、その表情が怒気をはらんでいった。

 どう見てもそっちの方向の人にしか見えなかったが、口にしなくてよかった……

 そいつらはおっさんに注意(どう見ても恫喝)を受けていた。

 受付嬢も同様に注意(どっからどう見ても脅迫)を受けていた。

 ついでとばかりに仲裁に入らなかった他の職員たちも注意(こっちは本当に注意だった)を受けていた。

 どうやら、ギルド会館内の揉め事解決もギルド職員の仕事らしい。

 仕事しろよ受付嬢。


 それから自称先輩たちは、俺をひと睨みしたあと冒険者ギルドを後にした。

 ちなみに、囃し立てていた奴らは、おっさんが登場した時点で蜘蛛の子を散らすように退散していた。

 受付嬢はおそらく上司っぽい人に首根っこ掴まれて、奥へと引っ込んでいった。

 涙目でなにか騒いでいたけど、俺には関係ないよね?

 

 うん、なんか無駄に疲れた……

 幸い少しはお金あるし、仕事は明日からにしよう。


 俺は今日の寝床を探すために、冒険者ギルドの隣に併設されていた宿屋へ向かった。

 その宿屋は、初級冒険者用の宿泊施設だったようで、初心者冒険者はタダで泊めてくれるらしい。

 従業員に空きを確認すると、ちょうど一部屋開いているそうだ。

 登録したての俺は、とりあえず一室借りることにした。

 割り当てられた部屋に向かうと一人部屋で少し安心した。

 部屋の中にはベッドとライトが有るだけで、さほど広くはなかった。

 おおよそ4畳半ってところかな?

 まぁ、どうせ寝るだけだし問題は無い。

 それに個室だし、野宿するよりマシだ。


 今日はもう寝よう……

 おやすみなさい。

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