五章の術ッッ!! まぁまぁワイワイ編
第45話 ピユシラ、バイトする。
※今回は三人称です。
ピユシラがダンジョンで目覚めてから結構な月日が経っていた。
最初は驚きと困惑の連続であったが、いまではスーパーで買い物ができるくらいには、この世界に慣れている。
「帰ったぞ。あそこはダメだな、タマゴがどんどん値上がりしている」
食材を冷蔵庫に押し込み、ダイニングへ向かうと、
「なにをしている」
キューリットが頭を抱えていた。
机にはスマホと、たくさんの領収書が並べられていた。
「マズイですわ……」
「なにが」
「金欠ですわーっ!!」
そう、何を隠そうこのふたり、貧乏であった。
少ない仕送りに、カスみたいな広告収入。とうぜん、スパチャもたいして貰っていない。
キューリットだけならまだしも、2人で生きていくにはあまりにも金がなさすぎた。
「そうか。なら今後は私が獣を狩り、食えそうな野草を取ってこよう。もともと、食事には恵まれていたんだ、贅沢は終わりだ」
「ぜ、贅沢? 美味しくない安い食材ばかりで飢えを凌いでいましたのに? もやしとネギばかりの生活ですのにーーっ!?」
「贅沢じゃないのか?」
ピユシラちゃん、銀座で寿司食ったら腰抜かすだろうね。
「だいたい、何故リリカみたいに配信業だけで食っていけないのだ。あいつに負けず劣らず、キューリットは綺麗だろう」
「あ、ありがとうございます……。ていうか、その理由を知りたいのはわたくしの方ですわ!!」
一応、キューリットもSNSではそれなりに人気者なのだが、あくまでえっちな自撮りをしているからである。
えっちな格好をしないただのダンジョン配信には、価値がないのだ。
「そういえば、先ほど行ったスーパー、バイトを募集していたぞ。仕事のことだろ? バイトとは」
「魔女の一族の末裔たるこのわたくしが!!
庶民の労働なんてするわけないですわっ!!」
「なら私が働こう」
「へ? だ、大丈夫ですの?」
「正直、この世界についてまだわからないことばかりだが、何もしないよりマシだろう」
「な、何の仕事をするつもりですの?」
「もちろん、スーパーのバイトだ」
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それから3日後。
「クビになった」
「展開が早すぎますわっ!! な、何故ですの?」
「よくわからないが、私に会いに大勢の人間が来るようになったのだ。とくに、若い女性がな」
ピユシラは女性であるが、中性的な美形かつ身長が高くてクールなので女性にモテやすいのだ。
ちなみに元の世界ではファンクラブがあったらしい(会員300億名)。
「しかし売り上げにはまったく貢献してないどころか、他の客の迷惑になっているらしく、私がクビになった」
「モテる女はツラいですわね……。ならその美形を活かした仕事をすればいいのでは?」
「いや、次なる仕事は決まってる」
「?」
「着ぐるみショーの中の人だ」
これなら顔が見られることはないので、ファンはできないだろう。
「ではさっそく行ってくる」
「今日からなのですわね」
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それから2日後。
「クビになった」
「またですの!? いったい何故!?」
「他のスタッフの女性たちが、私をめぐってドロドロの殺し合いを始めてしまったのだ。責任を取らされてクビになった」
「美しさは罪ですわねぇ」
「4人いたのだが、いま全員病院のベッドで寝ているらしい」
スタッフは顔を見れちゃうからね。
しょうがないね。
「なんであなたに惚れてしまったんですの? やはり顔ですの?」
「うーん、普通に挨拶したり、体調を気遣ったら、好意を持たれていると勘違いしたらしい」
「生きづらい世の中ですわね」
「惚れられても困る。私はキューリットに人生を捧げているのだから」
「ど、どうも……」
こんなことを平気で口にできるから勘違いされるんだろうね。
「安心しろ、次の仕事は決まっている」
「なにをするんですの?」
「カードショップのバイトだ」
「なるほど!! カードショップに来るのは男性ばかり。しかもピユシラのようなタイプの女性には話しかけることもできない男性ばかりですものね!!」
ド偏見である。
ちなみにこれはキューリットの意見であって、事実ではない。
たぶん。
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翌日。
「辞めてきた」
「辞めた!? クビではなくて? 何故ですの!!」
「なんだろう、なんか違うなって思って」
「令和の新入社員みたいな理由!!」
結局、しかたないのでキューリットが働くことになった。
スーパーのレジ打ちである。
「うぅ、高貴なる魔女ですのに〜!!」
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※あとがき
次回も日常回の予定です。
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