第1話ー4 俺は彼女と出会う


 朝日が病室に差し込むと、アムルは目を覚ました。

 

「あ……えっ!?」

 

 驚きのまま彼女は全身を触るが、あれほどあったケガは1つも残っていなかったのに驚いているようだ。

 

「アムルちゃん!」

 

 ベッド脇の椅子で眠っていた冒険者風の恰好をした少年が飛び起きる。

 癖っ毛混じりの燃えるような赤い短髪。スポーツ少年のような快活な見た目とは裏腹に、少し気だるい雰囲気を持つ。

 

「ジェイドさん……ここは……」

「町の病院だよ。ちょっと待って、先生呼んで来るから!」

 

 急いで部屋から出ていくジェイドを目で追いながら、何気なく視線を動かすと――アムルと目が合った。

 まだ少し混乱しているようだが、ここは挨拶をしておくべきだろう。

 

「あ、起きたんだ。良かった」

「ッ!!?」

 

 アムルはベッドから落ちるんじゃないかってくらい飛び跳ね、シーツを寄せて俺から少し距離を取る。

 

「しゃ、しゃ……喋ったッ!?」


 まぁ。そりゃ驚くよね

 部屋の片隅で大柄な鎧が体育座りしているのだから……。

 でもちょっとだけ傷付く。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 ジェイドが医者を連れてきて、その間ジェイドと俺は外へ追い出された。

 

「……お前が誰なのか知らないけど、アムルちゃんを助けてくれてありがとうな。爺さんは残念だったけど……えーっと」

「俺は陽一だ。響陽一」

「ヒビキ=ヨーイチ? 変わった名前だな。オレはジェイド=カーティス。この町で冒険者をやっている、よろしくな」

「あぁよろしく」

 

 和やかなに握手を交わした所で、ジェイドは目を細めてこちらの身体……特に胸元の辺りを見ている。

 

「――で、お前の身体はどうなってんだ。昨夜火事が起こってるの宿舎から見えて飛び出して来たら、お前も窓から飛び出してくるし、中にアムルちゃん入ってるしで……とりあえず見つかったら騒ぎになるから隠れて貰ったけど」

「いや、本当にありがとう――」

 

 ガチャッ――。

 

「あ、ジェイドさんとお連れの方も。中に入って大丈夫ですよ」


 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「ちょっと血が足りないようだけど、目立った外傷もなく受け答えもハッキリしてるし……問題ないでしょ。ご両親が来るまでここで寝てても良いから」

「ありがとうございます先生」

 

 医者が部屋から出ていくと、すぐにジェイドはその場に屈む。

 

「アムルちゃん……爺さんのことなんだけど」

「うん。分かってる――」

「おじさん達来たら、会いに行ってあげて」

「うん」

「それと、コイツのことなんだけど」

「あっ。この人! ……どなたなんですか?」

「ヨーイチって言って――」

 

 そこからジェイドは事の顛末を話していく。

 俺が強盗に襲われたアムル達を助け出したことや美術館から脱出したことなどだ。

 

「それで頼みたいことがあって……この件はオレが助け出したことにしといて欲しい」

「え、なんで?」

「はぁ――素性も分からん、人間かも怪しいとなるとまず元魔王軍かどうか疑われる」

「魔王とかいるの!?」

「魔王知らないとか、お前どっから来たんだよ!」


 そうは言われても、俺はつい昨日まで美術館住まいで外の世界なんて知らないのだ。


「ともかく。オレもここまで人間と変わらず動く鎧なんて初めて見たし、アムルちゃん助けて貰った件もあるし……この事は黙っててやるから、お前も人間として振舞えよな。街中で無許可の魔法生物がいるなんて知れたら、すぐ兵士か冒険者が来てヘタしたら魔物として即処分されるぞ」


 ここは街の病院で2階だが、窓から下を見ると多くの人通りが見えた。

 身を隠すように、思わず少し小さくなってしまう。


「うへぇ……でもお前は俺を匿っていいのか?」

「ヘタしたらオレもアムルちゃんも疑われるだろ! ともかく。兵士が事情聴取に来るだろうから、それで口裏合わせて貰う、アムルちゃんもいいよな」

「うん」

「分かった」

「ともかくヨーイチは俺に昨日の晩、何があったか詳しく聞かせてくれ」

 

 とは言っても強盗が7、8人(とゴブリン4匹)居たこと。親分と呼ばれる男は俺がぶん殴って窓から外へ落したこと。元々盗み出した後は火を放つつもりで油を用意していたこと。そして――。

 

「奴らは盗む対象を決めていた風に見えた。あと俺の鎧がその対象になってたらしい」

「それって確か」

「初代勇者様が着ていたとされる鎧です。前の国王様にお爺ちゃんが度重なる功績の褒美として貰ったと聞きました」

「国宝級の代物だし、あの美術館の目玉だし狙われてても不思議はないけど……あ、この事も外で言うんじゃねーぞ。あくまで勇者の鎧にそっくりなレプリカ……」

 

 そこでジェイドは手を叩き、得意げに話を繋げた。

 

「そうだ。お前は勇者の大ファンで田舎から出てきた冒険者ってことにしよう。勇者にあやかったレプリカ装備なんて観光地じゃよくあるしな」

「あるんだ……」

「お前、どっかのギルドに登録してるのか?」

 

 首を横に振る。

 

「じゃあそれもすぐやるしかないか……」

「あの、ジェイドさん」

「それは――で、こうして――」

 

(これは)

 

 唐突に2人の会話が聞こえ辛くなり、何か言おうにも身体の動きも鈍り……そのことを告げることも出来ず。

 

「あっ」

 

 その言葉だけ残し、俺の意識は途切れたのだった。

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