06:文化祭の最後に
高校生活最後の文化祭最終日の夕方、私吉永奈緒と同級生の柳瀬高広は、校庭で行われているミスコンの風景を眺めていた。校庭に置かれたステージ上で、ミス南雲に選ばれた女子が笑顔でトロフィーを受け取っている。ちなみに、南雲学園というのが私達が通う高校の名前である。
「盛り上がったねえ……」
「そうだなあ。無事に終わりそうで良かった良かった」
何故私達がこんなに感慨深くなっているかというと、私達二人が文化祭の実行委員長と副委員長だからだ。
委員長の柳瀬は明るい茶髪で、髪を首の辺りまで伸ばしている。一見チャラそうだが成績もよく、委員会の仕事も真面目にこなしていた。
一方私は黒髪のおかっぱで眼鏡を掛けている。見切り発車で仕事をする事のある柳瀬を嗜めるストッパーのような役割を果たす事が多い。よく二人で喧嘩をしたものだが、実は私は柳瀬に惚れている。
「……それにしても、ひまりちゃん綺麗だねえ。……ミス南雲に選ばれるのも納得だよ」
私は、改めてステージを眺めて呟く。ひまりちゃんも同級生で、黒いロングヘアの美人だ。優しくてスポーツ万能で成績も悪くなくて、クラスのマドンナと言っていいだろう。
「そう言えば、知ってる?隣のクラスの実行委員の山本君、この後の『高校生の主張』で、ひまりちゃんに告白するみたいだよ」
私の言葉に、柳瀬は少し目を見開く。
「へえ……意外だな。あいつ、ヘタレだと思ってたのに」
『高校生の主張』とは、この文化祭の最後に行われるイベントで、生徒が大勢の観客の前で自分の思いを叫ぶというよくありがちなイベントだ。例年では、愛の告白が九割を占めている。
「……実は、何を隠そう、この私も『高校生の主張』に参加しようと思っているのだよ」
私が不敵な笑みを浮かべて言うと、柳瀬がこれ以上ないくらい目を見開いた。
「え……お前まさか、好きな奴に告白するのかよ」
「その通り。高校生活最後の文化祭だし、後悔しないようにしないとね」
喧嘩ばかりしていたし、柳瀬が私の事を好きになってくれるはずはないけど、せめて自分の気持ちを柳瀬に伝えてけじめをつけたい。
「あ、そろそろ『主張』の参加者はステージ裏に行かないと。じゃあね、柳瀬」
私は笑顔でステージ裏に行こうとしたが、柳瀬に背中を向けた途端、彼に左腕を掴まれた。
「え……?」
振り向くと、そこにはいつものヘラヘラした顔の柳瀬はいなかった。真剣な顔で、まっすぐに私を見ている。
「……行くなよ」
柳瀬が短くそう言ったが、私にはわけが分からない。
「え、なんで行っちゃいけないの?言ったでしょ。私、後悔したくないの」
「それでも、嫌だ。……お前が俺以外の男に告白するところなんて見たくない」
「え……」
校庭に、涼しい風が吹く。一泊置いた後、柳瀬は意を決したように言った。
「吉永奈緒、俺は……お前の事が、好きだ!」
まるで世界が変わったようだった。私はしばらく目を見開いたまま茫然としていたが、やがて口を開いた。
「……やっぱり、私『主張』に行かないと」
「え?」
「彼氏が出来たって、叫んでくる」
「ええっ!!」
「ちゃんと聞いてね、私の主張!」
そう言うと、私は笑顔でステージ裏に駆けて行った。
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