3年B組、残り✕人
ただの有機物
#1 残り27人
気がつけば年が明け、もう中学校生活も今年で最後の年になった。クラスの人たちとも順調に打ち解け、平和な明るいクラスとなった28人の3年B組。
「うちの学校恒例の、修学旅行は京都に行きます」
先生がそう言うやいなや、生徒たちは一斉にざわつき始め、クラスが騒がしくなる。
そんなときもあったなと、今となってはもう過去のこと。京都に来て早3日、修学旅行はあっという間に過ぎ去っていった。定番の観光スポットを巡ったり、京都ならではの食べ物を食べたり、友達とおしゃべりしながら過ごしたりした日々は、かけがえのないもの。
「まだ帰りたくないなぁ」
「全然足りないよね」
「あと1年は帰りたくない」
生徒たちは次々にそう口にする。先生もそう思うところは少しはあった。
「でも帰らないとダメなのよ。確かに寂しいけどね」
一同は列に並んで京都駅に向かうバスを待つ。皆帰りに忘れ物、落とし物等がないか入念に確認している。
「はい、ちゃんと並んで。人数確認するわよ」
先生は前から順に体育座りをさせ、頭の数を数え始めるが、3人いないことに気づく。
(あれ、暁と堀井と前田まだ来てないの?待たせるのは良くないわね)
「すみません。B組はあと3人来てないので先に行ってください」
そう言ってA組もC組も先にバスに乗って駅に向かった。
*
「おい暁まだか?」
「ごめんごめん。もう荷物詰めれたから」
7階建ての旅館の5階で、エレベーターを待つ3人。どういうわけかなかなかエレベーターが来ない。
「遅すぎだろ。階段で降りようぜ」
と暁。
「そうだな」
「そうしよう」
堀井と前田も頷く。
「早くしねえと、もう完全に遅刻で待たせてる」
大荷物を持ったまま階段へ急ぐ3人。ここで"それ"は起きた。
「やべ、急げ急げ」
暁は前と後ろに背負ったバッグで距離感が上手く掴めていなかったのと、重心が安定していなかった。
「あっ…」
そして前にいた堀井にぶつかる。階段を降りようとしていた堀井は気づく間もなく数十段はある階段を真っ逆さまに落ちていった。
――ゴン、グシャッ
暁と前田は絶句した。不慮の事故とはいえ、人を殺してしまった。前田は暁の後ろにいたので、やったのは暁だった。
「嘘だろ…堀井!」
「え…やばいって」
堀井の顔面は砕けて顔とすら認識できないほど、下の踊り場は堀井の血でゆっくりと、茶色のカーペットが赤く染まってきている。
「先生に報告しないと…って、暁?」
暁は荷物を床に放り投げ、慌てる前田の腕をぐっと掴む。
「お前…先生に言うのか?」
「そりゃそうだろ!人が死んだんだぞ?!」
「……」
その時、暁は人間として壊れた。
――もし前田が先生に言ったら、俺は…
「な、暁!やめ…」
ドン
――ゴキッ、グシャッ
「……しないと」
暁は息がどんどん荒くなる。
「何としてでも隠蔽しないと」
"その為なら邪魔やつは殺せばいい"
*
(にしてもあの3人遅すぎるわ)
先生は5階へ様子を見に行くことにした。
「えー皆さんは他の人の迷惑にならないように、ここで待っていてください」
こうしてかけがえのない夏休みは、楽しい思い出がたくさんの夏休みは、血と闇に染まっていく。
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