自殺配信者吸血鬼さん

廻蛾

第1話 飛び降り

「カメラこれであってるかな…っとあかんあかん。もう配信始まってるんやった…。

はいほーい皆さん初めまして。私、吸血鬼のアリシアといいまーす。今日は初配信

ですがタイトルにもある通り、私これから自殺したいと思いまーす。」

 

有名なネット民がこの配信予告を見つけて、某掲示板にリンクを張ったのが始まりだったらしいが、私の配信予告は瞬く間に拡散され、当日には30万を超える視聴者が私の配信を見に来ていた。

 私の自殺配信予告は某SNSアプリの週間ランキングの上位に入るほど話題となった。そして私は、その期待に応えるため本気で自殺しようと思っている。

「まぁただ自殺するだけだとおもろないし、自殺する前におまいらの質問に答える時

間とっといて、まぁ2~30分ぐらいしたらこの世とおさらばしようかな~と」

 そう言って30秒も経たないうちに、沢山の質問と疑惑の声が書き込まれた。

(なんで自殺しようと思ったん?話聞こか?)(タイトル詐欺乙www)

(吸血鬼ってマ?)(πでっか)(←おいww)(とりまスペックよろ)(嘘松乙)

(なんでこんな配信が公式に認められとるんや)(ギャップ口調すこ)(わかる)

(こんなかわええ子が自殺考えるほど詰められるって何があったんや)

「まぁまぁそう焦んなおまいら。一個づつ答えてやるし、スペックも晒すから。」

 緊張をほぐすために一呼吸した後話し出す。コメントは止まらない。

「改めて、私の本名はアリシア・ガーネット。見ての通り日本人ではなくて、英国

のガーネット家っていうとこのお嬢様みたいな感じ。ちな16歳です。」

(16ってことは高校1,2年生か)(いじめが原因か?)(自殺しないで欲しい)

(丁度思春期やし親と喧嘩ってのもある希ガス)(閃いた)(←通報した)

(ちなそこどこなん?)(ガーネットで調べたら髪色と目の色ほぼまんまでビビる)

 私は質問に答える。

「自殺しようと思った理由はあれだ、何と言うか自分の身体が気持ち悪く思えてきた

のと、親からの身体的、精神的虐待もあるし、親族とかからの性的虐待、あと同級

生からのいじめもあるし、何より自分が吸血鬼っていうのが一番あるなぁ。」

(うわぁ…)(思ったよりえぐかった)(おう証拠みせろやwww)(←おまえ黙ってろ)

(物心つく前からされてそうな跡が見えるのがまた…)(傷跡が痛々しい…)

(前世で何したらそんな目に遭うんや…)(しれっと吸血鬼って言ってるけどマ?)

 私は引き続き答える。

「ちなここは調べたらわかると思うけど桁原ホテルっていうとこで、この配信の為に

貸し切ったの。そんでここはその屋上。あとおまいらが求めとった証拠は一応全部出せるで~。ほれ」

 私は画角外にあったボイスレコーダーとタブレットを取り出した。

「まず映像が配信で流せへんボイレコ流すで~」

 そう言って、レコーダーの再生ボタンを押した。


流れてきたのは、男数人の声と私の拒絶するような喘ぎ声。

所々に叩く音や息苦しそうに拒絶する私の声、男が私を侮辱する声が混じる。

肌と布が擦れる音、肌どうしがぶつかり合う音

ボイレコから聞こえるどれもが、私には気持ち悪く感じた。

この時の私は、カメラに向かってどんな表情をしていたのだろう。


(まずいですよ!!)(おっふぅ…)(うわぁ…)(すみませんでした)(無言こっわ)

 音声の再生が終わった後、私は畳みかけるようにカメラに向かって、タブレットの映像を流し始めた。


タブレットには、幼い頃の私と、私の両親が映った。

映像の中で、「あんたなんか産まなきゃよかった」「お前がいるせいで」などの暴言を吐かれ、顔を叩かれ頭と身体を殴られ腹を蹴られ、終いにはナイフで腕や脚を斬りつけられ、食器やカトラリーを投げられて、血塗れになった。

今でも夢に出る光景を映像化して流しているような感じだ、と言っても私は2年程前から眠れてないが、たまにこれが脳内再生されてしまい、吐きそうになる。

ただ、どの場面でも一番印象に残っているのが、私の肌。

傷ついて数分したら、どう見ても異常な速度で治ってしまう。

虐待を受けているのもそうだが、この映像の中で私が一番嫌な場面は、自分の身体に起きてしまうこの現象だ。


「どう?私が自殺する理由はわかった?」

("orz)(わかりたくなかった…)(わかったけど最後に吸血鬼の証拠プリーズ)

(ぎゃあああぁぁ)(なんでこの子がこんな目に遭わなあかんのや…)

 コメントを見て、私は思い出したかのように言った。

「そういや私が吸血鬼だって証拠見せてなかったから、最後に見せるね。」

 私は腕を組んでうずくまった後、少し身体を震わせた。


着ている白い服の背面部に、真っ赤な血が滲む。

その数秒後に服を突き破って私の背中から生えてきたのは、大きな蝙蝠の羽。

背中から生えてきたそれは、大量の血液でまみれていた。

同時に貼ってあったガーゼや湿布が剥がれ落ち、今もなお残っている傷跡や打撲痕が露わになる。

痛みに耐えながら顔を挙げると、私の犬歯は長く、細く伸びていた。


「これでいいやろ?」

(マジじゃん)(正直信じてなかったからまじでビビってる)(これはこれで)

(かわいい)(ふつくしぃ…)(わぁお)

「なんか恥ずかしいな、これ。」

 そう言った後に視聴者と数分ぐらい雑談した。

 元の身体に戻って色々なことを話してる間に、約束の時間が来た。

 私は置いたカメラを持ち上げて立ち上がった後、視聴者さんたちに告げた。

「それじゃあ私はここから飛び降りるから、私が死ぬ最後まで見てもらえたらいいなと思う。そういうのが無理だよ~って方は今すぐブラウザバックすること!」

 私はその30秒後、カメラを持って言った。

「それじゃあさようなら。また来世があるといいな。」

 この世からの別れを告げた後、10階以上あるホテルの屋上から身を投げた。


カメラを放さないようにしっかり握って目を閉じる

痛みにそなえて空中で意識を研ぎ澄ます

そして彼女は思った

「わたし、いまとてもしあわせだ。

 でも、なんでこんなにさみしいんだろう。

 けどそれいじょうに、かみさまがくれたこのせかいと、

 けがれたわたしのからだがだいきらいだから、くいはないよ。」



頭蓋骨が割れて脳がぐちゃぐちゃになっていく。

粉々になっていく背骨と、潰れて中身が飛び出る内臓。

腕と脚は折れて砕けて、細胞と筋が嫌な音を立てて機能しなくなっていく。

1秒でも多く死に様を見せる為、持っていたカメラは最後まで手放さなかった。

ただ地面に叩きつけられて1秒経つか経たないかぐらいで、私は意識を手放した。





どのぐらい経ったのだろうか

死んだ筈の私の意識ははっきりしている

そして私の手はまだカメラを握っていた上、それには傷一つ付いていなかった

なんでだろう、私はまだ生きている

ふと目線を下に向けると、私は視聴者とおぞましい物を見た


流れ出た血液と砕けて肌を突き破って出てきた骨、それと破れた肌が元あった位置に戻っていく。

感覚でわかるが、潰れた臓器は元どおりに治って、ぐちゃぐちゃになった脳は蛆虫のように脳内を這って再生して、頭蓋骨は脳漿が戻った後、それに蓋をしていく。

そして最初からなかったかのように、自分の傷跡は消え、地面に付いた肉と、血と、体液は、跡形もなく無くなっていた。

私は配信を強制終了させた後、自分の身体と不幸を笑った。

心の底から、自分をあざ笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る