第三十九章 ただの厨二病じゃ

「何言ってんだお前!?」

「言った通り一人でこいつを倒すってって事」

「お前元の怪王人かいおうじんでかなり苦戦しただろ!それでさらに敵は進化した状態。そんな状態じゃ一人だと絶対に負けるだろ!?」

「僕が逃げてからただ単に反復横跳びをずっとしていたと思うのか?」

「いや、ていうか反復横跳びなんてしてたのかよ……」

「僕は比奈斗ひなとがスカルキングを倒したときに思ったんだ。このままじゃほかの戦いでも必殺技なしじゃ主人公の僕よりも比奈斗が遥かに目立ってしまうってことに……!」

「お前何考えてるんだよ……」

「ということで僕はとてもカッコイイ必殺技を考えてきました。それともう一つ理由がある」

「なんなのよ、もう一つの理由って?」

「フフフフフフフ。そんなに知りたいか?」

「ああ、一体どういった理由なんだ?」


 期待の籠った皆の視線が僕に向く。僕は少し間を開けてから言う。

「無論、海苔塩味のポテチを開放するためさ!」

「「「「「は…………!?」」」」」


 僕は唖然とする皆を無視して怪王走人かいおうそうじんを突っ込んで剣を振りかぶる。しかし、背中から生えている腕によって受け止められる。

「!?」

 さらにもう一方の腕で僕のみぞおちに拳を突き刺す。僕は上空に投げ出された。

「くそぉ……」

「俺様の進化した姿を舐めるでない。この腕はお前たちなど軽く蹴散らせるほどの力を持っている。仲間に助けてもらわないのか?」

「うん。助けてもらうしかないね……」

「そうだろうな。お前ひとりの力ではな!」

 怪王走人が仲間の元へ行く。そこへ怪王走人向かったことを確認すると僕は言う。

「というとでも思った?」

「なんだと?」

 怪王走人が眉間にしわを寄せる。僕は段々と地面に近づいていく。そのタイミングで僕は地面に向かって手をかざした。



「ファイン!!」



 僕の剣からファインが放たれる。ファインによって落下の勢いを弱くしようということだ。案の定ファインによって落下の勢いは段々と失われてゆく。僕は無事地面に着地することができた。都市で助けられた時に考えた甲斐があった。僕は少し離れた場所にいる怪王走人に向かって剣を持って走り出す。


「何度も無駄なことを……」

 怪王走人が再び剣を掴もうと手を出すがそこには僕はいない。僕は剣を振りかぶると見せかけて背後に回り込んだのだ。隙だらけの背中に僕は久しぶりの特技を使う。



「タックリー!」



 僕は怪王走人の背中にタックリーをかます。怪王走人は急な攻撃によって怯んだ。最近使ってなかったから威力が落ちているかもしれないけどかなりの威力だ。さらに僕は剣で腕を一本切り落とす。怪王走人が叫び声をあげながら慌てて腕を僕の方へ振り回す。僕は急いで怪王走人から距離を取った。

 しかし、怪王走人の腕が再生する。怪王走人はニヤリと笑うとこちらへもの凄いスピードで走って来た。見るからにスピードはゴキちゃんよりも早い。そして僕の方へ口を開いて襲い掛かる。僕はすぐに横に避けて代わりに魔法を餌付けする。



「ファイン!」



 僕は輪投げをするような感覚で怪王走人の口の中にファインを放り込む。すると怪王走人はファインが口に入ると咳き込みながらこちらにファインをそのまま吐き出した。僕はファインが当たる直前まで待ってファインにもう一つのファインをぶつける。ファインはそのままもう一つのファインとぶつかって消滅した。

「ファインが駄目ならこれはどうかな?」


 怪王走人がファインより遥かに大きい火種を全ての手に作る。僕は即座に構える。怪王走人は僕の動きを見ると感心したかのように言った。

「お前の判断はなかなかいいぞ。しかし、これは先ほどこの館を破壊した魔法、ファイナァンだ。この六本の腕全てから放たれると……。どうなると思う?」


 その話を聞いた比奈斗の顔が段々と青ざめる。比奈斗が僕に向かって忠告する。

「本当にお前ひとりでいいんだろうな!?」

「うん!」

「……そうか」

 比奈斗は僕の返事を聞くと少し安心した顔をして僕達の戦いを見守った。



「それでは行くぞ!ファイナァン!ファイナァン!ファイナァン!ファイナァン!ファイナァン!ファイナァン!」



 怪王走人の手から六つの爆炎が放たれる。僕はその方向に向かって剣を突き刺す。

「剣などで防ぐつもりかぁ!?ファインはただの初級魔法、それの二段階上のファイナァンだ!お前はフォールまでしか使えないと想定するがフォールとファイナァンはまるで別物!ファイナァンはすべてを焼き尽くす爆炎だぞ?ただが剣で防げるわけがない!」

「……馬鹿だねぇ。君は」

「あ?なんだとぉ!?この俺様が馬鹿だと!?」

「そうなんだよ。この炎の剣はファインを永久に放てる品物さ。そんな無限にファイン撃てるほどの魔力を込められた剣にファイナァンを防げるに決まっているでょ?」


 タイミングを見極めると剣を振りかぶる。すると六つの爆炎は僕の剣に吸い込まれていった。僕の剣にメラメラと爆炎が纏う。これ一度やってみたかったんだ!前回木刀でやったら燃え尽きちゃったからね。僕は炎を纏った剣を眺める。剣は少し時間がたっても原形をとどめていた。

「食らいやがれ!僕のファイナァンブレードを!」

「なんだと……!?」

 怪王走人は動揺を隠しきれずに震えている。僕は怪王走人へ走り、剣を振る。すると剣に纏っていた爆炎は怪王走人へ向かった。


「「「「「「いけ――――!!」」」」」」

「グアァァァァ!!」


 怪王走人は呻き声をあげながら炎に巻かれる。僕は炎がなくなった自分の剣を見つめる。撃てるのは一回だけか……。流石に懲りずにもう一回ファイナァンを撃ってくるような馬鹿じゃないしな……。

 やがて怪王走人がいるところが爆発する。ファイナァンの爆発するのが遅れて発生したようだ。これはもう勝ったかもしれない!僕が期待を寄せていた途端――


「グハッ!?」


 僕は怪王走人の燃え盛る手刀が腹に刺さり吐血する。なんと怪王走人は燃えた状態で僕に走ってきたのだ。さらに怪王走人の手から僕に火が引火する。

「うわぁ――!?」


 僕は急いで地面を転がり消火しようとする。そこに炎が体から消えた怪王走人がやってくる。そして僕に拳を振り下ろした。

 僕は消火するのに夢中でそんなこと知らずに必死に転げまわった。

「なんだと!?」


 そのおかげで僕は怪王走人の拳をうまくよけれた。怪王走人はそんな僕を見て苛立ちながらさらに六つの拳が交互に振り下ろされる。

「照馬避けるんじゃ!」

 おじいちゃんの言葉を聞いて僕は必死に転げまわる。そのおかげで怪王走人の拳を全て避けることができた。ついでに体に纏わりついていた炎まで消火することができた。僕は安心しながら立ち上がる。


「ふう……」

「一体なんなんだこいつは……!?」

 怪王走人が後ずさりする。僕はそんな怪王走人の懐へ入り、拳を突き刺す。さっきやってくれたお返しだ。しかし怪王走人の巨体のおかげで微動だにしない。僕はそこから剣を取り出す。そしておなじみの連射をする。



「ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!ファイン!」



 怪王走人がたくさんの炎に包まれる。そこにさらに特技を使う。



「タックリー!」



 怪王走人の巨体が少し遠くに飛ばされる。しかし怪王走人は体を燃やしながらもこちらへ走ってくる。僕はさらに前方に魔法を放つ。



「フォール!!」



 怪王走人が僕が放ったフォールに当たりそうになり横に避ける。そのタイミングで僕は懐からHAGANENOKENを三本取り出す。そして怪王走人へ投擲とうてきする。

「ほっ!とぉ!たぁ!」


 HAGANENOKENに気付いた怪王走人は即座に避ける。しかし最後の一本が頭に刺さる。怪王走人はすぐに刺さった剣を抜くが僕はそこへ呪文を放つ。



「ファイン!」

「ファイナァン!」



 僕が放ったファインを怪王走人が同じサイズくらいのファイナァンで相殺する。おそらく怪王走人はファインを相殺するくらいならファイナァンを使っても問題ないと踏んだのだろう。怪王走人はどうだ!と言いたそうな顔をする。そこへ僕はさらに突撃する。



「タックリー!!」



 怪王走人が少し遠くに再び飛ばされ、倒れた。そこをチャンスだと思った僕は剣を持って入夏いるかの元へ行く。

「上空に思いっきりぶん投げて!」

「……わかったわ!」


 入夏は僕の体を掴むと思いっきり上空に投げた。僕はその状態で剣を構える

「僕は今回の修行で高速で体を動かす剣技を習得した。それを応用すれば……」

 剣が高速で回転していく。そう、これが僕の新しい作った必殺技だ!!

「何者なんだ……!?コイツは……!?」

 怪王走人は問いかけにおじいちゃんが平然とした顔で口を開く。

「この小僧は、ただの……」

 僕は剣を回転させながら怪王走人へと急降下する。

「食らうがいいさ!僕の最強の必殺技をな!」

「なんだと……?」

 僕が狙う場所はもちろん怪王走人の胸。僕の考察が正しければあそこにあるのは……!


 僕が技名を言いながらさらに怪王走人へと接近する。そのタイミングでおじいちゃんが言う。

「ただの……。ただの厨二病じゃ!!」

「「「「「いっけぇ――――!!!」」」」」



「心臓刺し!!」



 僕の剣先が怪王走人の胸を突き刺す。さらに回転する力によって胸元が抉られていく。あまりの勢いに怪王走人の断末魔が水平線の彼方へと響き渡る。


「グアァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――――――!!!」


 怪王走人はそのまま力をなくしたかのようにぐったりと倒れる。皆は歓喜しながら僕の方へとやって来る。

「本当に一人でやったじゃないか!?」

「照馬君!君に頼んでよかったぞ!」

「照馬!傷は大丈夫なの?」

 入夏が心配そうに僕に聞く。そういえば怪王走人の手刀が腹部に刺さった。腹を見ると思ったより傷が深かった。

「これくらい大丈夫だよ。それよりも比奈斗の心配でもしないの?」

「……!あんな奴よりも今はボスを倒したあなたの心配の方が優先でしょ!?」

 入夏はリンゴの様に顔を真っ赤に染めながら言う。そこへ僕達の話を聞いた比奈斗がやってくる。

「あんなやつとはなんだよ?」

「こんなすぐに逃げる無用なんか気にしなくていいってことよ」

 比奈斗が訪れるとすぐに平然とした顔になる。ポーカーフェイスが上手い奴だ。

 そんな会話をしていた時――!


「フフフフフ……」

「!?」


 倒したと思われた怪王走人が起き上がる。僕は再び剣を構える。

「こんなところで終わると思うかぁ?俺様にはまだ余力がある……。お前一人でも道ずれに――」



「ウォプティ!」



 僕に怪王走人が近づいた途端に怪王走人の頭部が何者かに狙撃される。魔法が放たれた方向を見ると見覚えのある革ジャケットの男が立っていた。僕はすぐにその男に駆け付ける。

そうさん!」

「忘れられちゃ困るな」

「颯、いったい今までどこに居たんだ?」

「地下の時だな。怪王人が逃げた途端に階段へ向かった」

「行動が速い奴だ……」

 比奈斗が颯さんの話を聞いてつぶやく。颯さんは怪王走人の死体をじっと見つめる。

「照馬、もし復活されたら厄介だ。エアコンプで粉砕してくれ」

「わかった」

 僕は怪王走人の死体へ手を向けて思いっきり握りつぶす。



「エアコンプ!!」



 怪王走人の死体がドス黒い鮮血を巻き散らしながら粉砕される。

「これでいったんは一安心だな」

「おーい!!」

 遠くにから声が聞こえる。ドライスと彦一ひこいちだ。

「ドライスじゃないか!?KAIZIN達は?」

「戦っていたら急に黒い砂になって消滅したんだ。ということは……まさか……!」

 ドライスが話しながら粉砕された怪王走人の死体を見る。


「これで解放できるんじゃないか!?」

「海苔塩味のポテチを……!?」

 彦一の言葉に僕は喜びながらドライスに案内してもらう。

「そういえばダファキン達は?」

「地下から出た時にモーターボードに乗って帰っていきましたけど……」

「なんだよ!」

「ここよ」

 入夏が言う。そこには果てしなく続く階段があった。続いて颯が言う。


「ここに海苔塩味のポテチが生産されている。発送する機械を停止されば後は海苔塩味のポテチはハッピーエンドだ」

「マジで!?」

 僕は急いで階段を降りるのであった。

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