第十七章 KAIZIN

「これが私達が乗る船よ!」

「よくできたもんだなぁ」

「すげー!」


 僕達の前には全長十メートルくらいある巨大な木造の船だった。

「でも前の方はまだできてねーぞ?」

「まだ製作途中でね。あと二日ほどしたらできるわよ」

「こんな立派な船を作るやつがいるとは……ぜひ紹介してくれ!」


 比奈斗が目を輝かせて言う。すると入夏は少し悩んでから「来て」と船の後ろへ連れて行かれた。

 後ろに行くと一匹のシャチ?が指導していた。

「紹介するわ。こちらが私の自慢のペット。シャチ蔵よ」

「こんにちはー。皆さんの役に立てるように頑張りまーす!」

「どんな奴かと思ったらこんなゆるキャラみたいなシャチかよ?大丈夫か?こんな奴に任せて?」


 比奈斗が言った途端、周りが煙に囲まれた。

「なんだこの煙!?」

「どうなっても知らないわよ」


――霧が晴れると。シャチ蔵がいた所には筋肉モリモリのマッチョなシャチが立っていた。そして比奈斗に歩み寄る。


「お前やる気かオラオラ。ヤンのか?オラオラ」

「なんだこの見た目だけ強くなったシャチは……」

「見た目だけじゃねぇか!意味ないな!」

「シャチ蔵は怒りが一定に達するとあの状態になる特殊なモンスター、シャマットよ。」

「へーそれで見た目だけなの?」

「言動の割には攻撃力があるわ。やられたらあんな感じになる」

 入夏が指をさした方向にはボロボロになった比奈斗と元に戻ったシャチ蔵がいた。

「普段は家来の鮫子ざめこ沙羅子ざらしに世話や監視を任せてるんだけどね。お父さんから話を聞いたら手伝いたいって言い張って今は船を作る指導をしているの」

「へー」

「吞気に話してないで……助けて……くれ……」

「自業自得よ」

「皆さんの為に頑張らせてもらいまーす!」

僕達は船乗り場を後にした。



 僕達が街に戻ると街が騒がしかった。入夏が街の人に聞く。

「何があったの?」

「館に出発して数か月帰らなかった蛙王あおう そうが帰ってくるらしいぞ!」

「まじか!?」

「本当にそうなの!?」

「ああ間違えねぇそいつが今この街に帰ってくるところだ。」

「ありがとう!」

「蛙王 颯って誰?」

「お前知らねえのかよ!?」

 比奈斗が言う。どうやら有名人らしい。

「強大な魔法とジャンプ力を持つ怖いもの知らずの冒険家だ」

「それが例の館に行って帰ってこなかったって話よ」

「へー」

「まぁ見たらわかるかもしれねぇ。行くぞ!」

「あんたは行きたいだけでしょ……」

 

 港に行くと一層の船が近づいている。

「人混みが凄くて中には入れねぇ」

「私に任せなさい」

「は?」

「こんなの顔パスで行けるわよ」


 入夏が人混みに入ると周りの人はどんどん道を開けていく。僕達は後ろから付いて行く。僕たちは真ん中に行くことができた。

「すげー」

「あの館について帰ったら話してもらうことにしていたの」

 そんなことを話していると船が着いた。中からは革のジャケットに黒いキャップを被った黒髪の男が降りてきた。見た限り20歳くらいに見える。男が入夏を見ると察したようで入夏に付いていった。



 入夏が男を城の部屋に案内すると質問を始めた。

「早速だけど始めてもいい?」

「ああ……」


 男が返事をすると入夏が質問を始めた。

「先に聞いておくけど蛙王 颯で間違いないわよね?」

「ああそうだ」

「あの館で一体何があったか教えてくれないかしら?」

「そういえば仲間はどうしたんだろうな?」

「仲間?」

「あの男は大体冒険には仲間を数人連れて行くはずなんだが……」

「へぇー」

「あの館の化け物はいかれてやがる……」

「化け物?」

「ああ。あそこには喋る怪物、KAIZINがいるんだ……!」

「「「KAIZIN!?」」」


 僕達は一斉に叫んだ。KAIZINはゲームに登場する怪物のはずだ。本当に実在していたとは……

「特徴などを少し教えてくれない?」

「白と薄茶色のローブをまとっていて肌が緑色、あと青い目が一つ顔についている……あと大きな口を持っていて……」

「仲間はどこに行ったのかしら?」

「奴らに噛み殺されてり、捕まえられて行方不明になったり、胴体や頭部を引き千切られたりといろいろだ……」

「なんかやばそうじゃないか?」

「聞くからにやばいね……」

「奴らは……生物なら何でも食ってしまう……捕まったらどう食われるかは分からん……」

「館の中はどうなってたの?」

「少し穴が開いていて海が見えたり、崖や普通の家具があった……」

「ありがとう。あなたは少し休みなさい」

「ありがとうございま――」

――蛙王 颯は机に倒れた。疲れが一気に出てきたのだろう。入夏は蛙王 颯をベットに寝かせて僕たちは部屋を出た。



「聞いた限り行かない方がいいんじゃ……」

「私達も準備するわよ」

「全く聞いてねぇ」

 どうやら入夏は行く気満々のようだ。

「今ふと思ったけどよ、お前特技とか何使えるんだ?」

「そんなに気になるなら見せてやるわ」

 入夏は水晶玉で計ったステータスを僕達に見せてきた。


Lv.18

HP 852

MP 205

攻撃力 128

防御力 54

素早さ 24

魔力 190

才能 水系魔法(大)

特技 わーぷ瞬間移動ウォーバー水噴射


「攻撃力が三桁だと…!?」

「相変わらず攻撃力だけ高いんだな」


 僕達のレベルは僕は10で比奈斗が15だ。素早さ以外は全て劣っている。僕が落ち込んでいると入夏が励ますように話題を変えた。

「とりあえずあの館に行くための準備をしましょう!」

 僕達は道具屋へ向かった。


 道具屋には他と違った品物などがいろいろあった。人参プラモデルや100円高いただの薬草そして、

「これは…」

「まさか…」

「「ポテチだ!!」」

 なんといろんな街を見ても見つからなかったポテチが定価より少し高い値段で売られていたのだ。

「やっとポテチを食べれる時が来たのか…」

「どこかの有名人のカップ麺くらい手に入らなかったぞ…?」

「どれだけ欲しかったのよ…」

 僕達(入夏を除く)は即会計を済ませて、店の外で食べていた。

「この食感。口に広がる塩。僕達はこの日の為に頑張って来たんだ!」

「うすしお味しか売ってなかったけれど久しぶり食うポテチはうめぇな」

「ここに来ていてよかった〜」

「ポテチ一個でどうなってるのよ…」


 ここ数日食べることができなかったポテチを食べて僕達に再びやる気が戻ってきたのであった。

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