第11話 探偵の助手?

あたりを見回していると、「お帰りなさ~い」と奥から女性らしき人がやってきた。

らしき、と表現したのは声は女性らしい可愛い声なのだが、山葵山さんより背が高いのだ。鯨谷さんと同じくらい。


「やぁ、幸子くん。お礼の品は用意してもらえたかい?」

幸子と呼ばれたその人は、は~いと言いながら冷蔵庫の中から大きな発泡スチロールの箱を持ってくる。

じゃ~んと言いながら開けられたその箱には、冷凍パックにされたおそらく肉であろうものが入っていた。


「幸子くん、これは何かな?」

「何って、お肉ですよ!啓介君に手伝ってもらうから、あらかじめ用意してくれって言ってたじゃないですか?」

「そ、そうだっけ?神戸牛って書いてあるから、もちろんこれは最高級のお肉なんだろうね?」

山葵山はチラりとこちらを確認して、そう尋ねる。


「違いますよ~。啓介君は肉の味なんてこれっぽっちも分からないだろうから、ネットでいっちばん安いのを買って、なんとか牛って箱に書いとけば高級和牛と勘違いするだろうからって言ったの山葵山さんじゃないですか?」

「..........。」

何も言い返せない山葵山は、希美たちの目を気にしながら代わりのものを考える。

別に私たちはお礼なんていらないのに、これが大人なのかと希美は思った。

琴音と聡美はお礼のことなんか忘れて、玉三郎と戯れている。


「た、確か以前調査に協力してくれた人へのお礼が残ってなかったっけ?」

「あ~、残ってますよ!山葵山さんが、調査に協力してくれるのは大抵暇そうなおばちゃんだから、有名店っぽい名前を書いとけば安物のお菓子でも喜ぶだろうって言って買ったクッキーが残ってますよ!」

「幸子くん、君は包み隠すことをおぼえて欲しいな。」


山葵山はそう言うと、まるで今までの会話がなかったように希美に語りかける。

「希美ちゃん、おいしいクッキーがあるみたいだから、お礼にあげるよ!」

希美は何も言わずに山葵山を見つめる。

山葵山はすぐに目をそらし、小さな声で申し訳ないとつぶやいた。


「山葵山さん、何か勘違いしているようなので申し上げます。私たちはお礼が欲しいから手伝ったわけではないので、安物のお肉も安物のクッキーもいりません。」

えええっ!と山葵山は大げさに驚いた反応を示す。

「お礼はいらないですけど、私幸子さんとお友達になりたいです。」


ソファで紅茶を片手に安物のクッキーを食べてる幸子は、名前を呼ばれてこちらを振り返る。

希美は幸子のもとへ行くと、目を輝かせながら問いかける。


「幸子さん、どうしたら幸子さんみたいにスタイル良くなれますか?」

幸子は少し困惑しながら、親指と人差し指を顎に添えて考える。

確かに幸子はモデルのような体系をしている。

身長も170cmを超えて、すらっとしながらもふくよかさを感じさせる。


「うーん、どうしたらって。よく分からないなぁ。」

幸子は手のひらを上にして降参のポーズをしている。

希美が下を向き落ち込んでいると、でもね、と幸子は続ける。


「希美ちゃんとは会ったばかりだからよく知らないけど、話し方聞いてるとすごくしっかりしてる感じがするのね。でも逆に色々気にしすぎて心が窮屈になってると大きくなれない気がするよ!」

幸子は親指を立てながらウィンクをする。


気にしすぎ?しっかりしてちゃダメなの?

希美は幸子の言ってることが理解できないでいた。

希美は幸子にこれ以上聞いても分からないと考えた。


「よく分からないから、幸子さんともっとお話ししたいです!お友達になってくれませんか?」

幸子は改めてそう言われると、少し照れながら頷いた。

そして、親指と人差し指を開いてこう言い放つ。

「希美ちゃん、お友達になるのに許可なんていらないでしょ?」

希美はその言葉とほぼ同時に、幸子の差し出された右手にハイタッチをする。


「なに~、なにか良いことでもあったの?」

玉三郎に逃げられた琴音が、パチンという音に釣られて来た。

「幸子さんとお友達になったのよ。私同級生以外で初めて友達できた。」

「良いなぁ。私も幸子さん欲しい~。」

琴音は友達というものを何か勘違いしている気がする。


希美達は連絡先の交換を終えると、その輪に入れてない一人の探偵を発見する。

その探偵は安物のクッキーを食べながら、チラチラとこちらの様子を窺っている。

片手には携帯電話(スマートフォンではない)を上げたり下げたりしている。


希美はそっと近づくと、スマートホン片手に語りかける。

「山葵山さんは、スマートホン持ってないんですか?」

すると山葵山はまるで話しかけられることを想定していたかのように、迅速かつ流暢に返答する。


「僕は電子機器は苦手でね。でもこの携帯は赤外線の機能がついてるから、連絡先の交換は簡単にできるよ。」

「赤外線の機能って何ですか?」

希美は初めて聞いた言葉を、そのままオウム返しする。


山葵山は想定していなかった言葉なのか言葉を失う。

「.....、いや君たちもさっき携帯を近づけて連絡先の交換をしてたじゃないか!?」

「あれはアプリの機能で、近くでスマホを振ると交換できるやつでやってたんですよ。それが赤外線なんですか?」

「きっとそうだよ。赤外線はすごい便利なんだから、今でも使われてるはずだ。ちょっとやってみてよ。」


そう言うと、携帯を差し出してきた。

希美はしかたなく、アプリを立ち上げ差し出された携帯電話の近くで上下させる。

山葵山は一生懸命自分の携帯電話を振り続けるが、何も反応しない。

息を荒げながら必死に携帯電話を振っているのを見て、可哀そうになる。


希美は何度も上下させられている携帯電話を救助すると、慣れた手つきで操作する。

そしてそのまま携帯電話を、疲れ果てて崩れ落ちてる探偵に笑顔で手渡す。

「私の家の電話番号登録しといたんで、『大きな』執事に用があったらそこに電話してくださいね。私も暇だったらお手伝いしますよ。」


手渡された携帯電話を見つめる、憔悴した探偵はその場に倒れこむ。

相当疲れたのか言葉も絶え絶えに、感謝の意を伝えている。

しばらくすると、立ち上がって水を飲んで希美に問いかける。


「そういえば啓介君はどこに行っちゃったんだろうね。大丈夫かな?」

希美は確かに、と時計を確認する。

時刻は午後の6時をまわったところだ。

時間を確認すると、希美は軽く頷いて『大きな』執事の居場所を確信する。


「大丈夫です。もうすぐ夕飯の時間なので家に戻ってると思います。」

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