第五章 生徒会長の決断 128話

「あなたは勉強も剣術も負けたという事なのですね」


 目の前にいるのは2つ下の弟、アルフレッド。ここは生徒会室。そして私は生徒会長。王族として弟も、1年生の代表として生徒会に入る。トップの成績で拍をつけるはずだったのに。しかし、そんな優秀な生徒、貴族にいたかしら。


「で、あなたに勝った優秀な生徒は誰と誰? 学力は貴族でしょうが、剣術は騎士爵の方?」


 優秀な生徒はぜひ生徒会に引き込まなくては。かっこよければ私の従者にしてもいいかも。うちの弟、王族として厳しく鍛え上げているし、そこに勝つとはよほどの実力。逃がす手はないわ。


「……。一人です」

「一人⁉」


 そんな優秀な上級貴族、報告に上がっていないわ。 法衣? 騎士? だれ?


「あら、そんな人材がいたら最初に報告が入るわ。それなのに未だに報告が来ないのはなぜかしら?」


「それは……。相手が……」

「相手のせいにしないの。 名前は? 爵位は?」


 弟は、嫌な顔をしながら、しぶしぶ答えた。

 

「レイシア。レイシア・ターナー。子爵だ」


「れいしあ? 女性っぽい名前ね」

「……女子だ」

「まあ、女子に負けたの? あなたが?」

「くっ……」


 女子か。私に報告がこなかったのはそのせいか。文武両道の女子? 


「テストはともかく、戦闘で女子に負けたのですか? どのように負けたの?」


 弟は顔を伏せるとダダッと走り去った。よほど屈辱だったのだろう。

 なんとも興味深い。私はそのレイシアの担任を呼び出すことにした。



 担任がいない?


「はい。彼女はすべてのテストで満点以上の点数を取ったため座学は免除されました。そのため所属クラスがなく、担任もつけられていません」


「何よそれ。本物の天才っていうやつなのですか? そんな子がノーマークなんて。何でもいいです。レイシア・ターナーについて情報を集めなさい!」


 私はまだ見ぬレイシア・ターナーという少女に、こころを引かれていたのかもしれない。



「1年生の生徒の間では、『得体のしれない存在』として扱われているみたいです。上位貴族の者からはもはや存在が消されていますね。かかわりが一切ないです。その他の生徒たちからは、様々な名で呼ばれているようです」


「様々な名?どういうこと?」


「一部女生徒からは『黒魔女』。男子生徒からは『マジシャン』など……」


 なにそれ? あだ名にしても分からない?魔女? マジシャン? ひどくない?

 入ってくる情報だけでは分からない。何者なの? レイシア・ターナー。

 私は直接彼女の授業風景を見に行くことにした。



 一角ウサギの解体。私は以前見たことがある。王族としては、生臭い現場に出会っても平常心でいられるように、血が流れる現場は見せられるの。まあ、新入生には刺激が強いかしら。あら、平気な顔でウサギをさばいている生徒がいるわ。


「彼女がレイシアです」


 一緒に壁で見ている先生が私に教えた。ふ〜ん。解体もできるのね。これは早く生徒会に取り込まなくては。子爵なら身分的にも大丈夫。


 そう思った時、惨劇が起こった。


 逃げ出したウサギにパニックになる生徒達。ウサギと言えどケモノ、本気で向かって来られたら怖いでしょうに。先生は言った。


「これが、いつもの展開ですよ。最初に、恐怖を教え込むんです。冒険者の育成は恐怖を知ることから始まるのです」


 なるほど。危機管理能力を教えるのね。それにしてもこの騒ぎ。新入生とはいえあまりにも……。

 あ、檻に入れられた。屈辱と思わないのかしら。


 やる気のある生徒達が中央に集まる。その中にレイシアもいた。そうよ。そのくらいできるわよね。


 一人躍り出るレイシア。ウサギを惨殺している。吹き出す血が私に…………、ギャ―――!


 頭から足までウサギの血にまみれた私は、意識を失っていた。



 翌日、1年生のビジネス作法の授業を覗いた私は、彼女、レイシアが、


「ヘッへ、旦那〜、それ以上は負けれませんでさぁ。銀貨5枚。これでいかがでしょう」

と言っているのを見て、


  こいつはヤバい

  こいつはいらない


と、本気で思った。

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