077 tr22, point of no return/帰還不可点

※今回は残酷描写を強く含みます、苦手な方はご遠慮ください。











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【AD:2119年, 革命新暦:197年、冬】



「諸君、年が明けた。まずはおめでとう。

今日は新年会だ。

 今までこういった季節ごとのイベントを開催していなかったことを後悔していてね、あと3年で少しでも馴染んでもらいたくこうして新年会というものを開催した次第だ。

 数名欠席しているが、これは私からの指示なので問題ない。


 皆の前にはパンと赤ワインのほか、クローシュを被せた皿があるだろう、ひとりづつ特別料理のシチューを用意したので堪能してほしい。

 アルコールは初めてだったか、これも訓練の一環と思い試してみたまえ。

 パンと赤ワインはお替わり自由だが、メインディッシュに替えはない。

 事前に通達しておくが、すべて食べきってから席を発つのが新年会の礼儀だ。

 礼を失する行為は許さんぞ。


 メインディッシュはそれぞれ出した経緯があってね、後ろの番号からひとつづつ解説しよう。

 職員にクローシュを開けさせるから、続く私の説明を聞いたら食するように」


クローシュって、この丸い金属のことか。

身体の大きさに合わせてか人によって大きさも違うみたいだけど、中身が違うって事かな。

突然呼び出されてイベントだなんて言われたから、何かと思ったら食事会か。

でも大きな銃を抱えた警備が何人もいて、扉も厳重に閉じてあるのはなんでだろう。

すごく嫌な予感がする…


例によってケーにいちゃんとアベル様は欠席だけど、テーブルに番号順に並んで座り、03~08と09~14で左右に分かれる。

07と13は欠席してるから、左右でちょうど5名づつ着席する。



「それでは最初に、14のエリザヴェータ。オープンしてくれ。

 キミはまだ人心掌握が進んでいないようだ。

 一部の人間にかまけておらず、全体を見る目を養いたまえ。

 キミの皿は、07, 09, 10のグループの人間の右手、目玉添えだ」

み、右手?!

本当だ、人間の体の一部…

リザかわいそうに、両手で口を覆い、目を見開き、震えている。


「次、13メドベージェフは欠席。

 その次、12シスナータッチ。

 もう少し身体を動かせ。キミらの人生は長い。

 体重を増やしすぎて内臓疾患や関節不適合を起こすと良くないぞ。

 キミの皿は一番数の多かった10サルの両足だ」

シスはあまり表情が変わっていない。

多分出された分は食べきれそうだけど、山盛り置いてある。


「11シャスチ。

 キミは賢いが、職員を麻薬で誘惑するのはいただけない。

その職員は中毒症の所為で普段から怪しい言動だったが、先日の騒ぎの際は辺りが暗いからと短絡的に火をつけてしまってね。

おかげで施設まで一部損傷してしまった。

 キミの皿は元DDT職員ロミオの頭だ」

さすがにシャスも顔が引きつっている。

それよりユリアは大丈夫だろうか…隣を見ると、青い顔をして今にも叫びそうだ。

テーブルの下で、手を握る。


「10オズベヤーナ。

 キミは…まあ、言うことは無い。

 博士たちに引き続き協力してほしい。

 キミの皿は04と14の乳房だ」

凄く嬉しそうだな…女性に嫌われる理由がわかるわ。


「09ナージャシュディ。

 真面目に課題をこなしているが、実力が伸びていない。

 キミはあまり問題ないが、祝いの席だ、付き合いたまえ。

 キミの皿は07グループの子の足だ」

苦しげな、悲しげな表情…


「向かい側の席の解説に移ろうか。

 08グリゴリ。

 先日の通報、よくやった。褒めてやろう。SSSRの誇りだ。

 何の話だか分らないものもいるだろうから簡単に説明すると、年末に当施設から候補者の脱走と実験体の逃走、それに施設のボヤ騒ぎがあってね。

 一連の騒動にいち早く気が付き博士連中に事の次第を語り、迅速な解決に協力してくれたのだ。

 褒美として、キミの皿は望み通り14ダリヤの頭部だ。

 一部加工済みで原形のままとは言えないが、リクエスト通りグリルにしてあるぞ」

うげぇぇ、コイツマジかよ…信じられない。

この位置からだと良く見えないけど、見たくもない。

リザは気絶しそうな顔つきだけど、辛うじて目を逸らして商機を保ってるようだ。

ユリアもこっちを向いて、ギュッと手を握った。


「07アジンは欠席だ。

 次、06ドラクル。

 キミもグリゴリ同様、よく通報してくれた。

 しかも計画の内容まで聞かせてくれたおかげで、次の手を打ちやすかった。

 とはいえ一部逃走計画に加担したからな、褒美はグリゴリを優先した。

 従ってキミの皿は、14の頭部ではなく乳房と性器だ」

も、もうやめてくれ…

なんであいつらあんなに嬉しそうなんだ。


「05、フセラスフ。

 09ナージャシュディに構ってばかりで、自分の課題を忘れがちだな。

 少しはドラクルを見習いたまえ。

 キミの皿は、09グループの人間の左腕だ」

カッと目を見開いたまま、脂汗を流すフーちゃん。

ナージャ本人でないとはいえ、同グループの子の身体の一部。

嫌だよ…


「04ユリア。

 逃走に加担したな。

 犯人の計画立案に一役買ったことは調べがついている。

意図的ではないにせよ、な。

 また、以前から元DDT職員のロミオに内通し、外部情報を得ようとしていた事も判っている。

 キミの皿は、ロミオの性器と、04の残りだった2名の心臓だ。

 …ああ云い忘れていたが、彼はキミに振られた後は、主にその二人を相手に房中術を実践していたそうだ」

絶対わざと最後に云ったな、性格悪い。

ユリアは…見ていられない位憔悴しきっている、顔色も青色を通り越して白くなり、震えも止まらない。

目を逸らしたいのに、硬直して動けなくなっている。


「最後に03シティア。

実地訓練の扱いとして外の棟を調査していたのは良かったのだがね、結果として逃走劇に加担してしまった。

 せめてもの厚意として、キミの皿はドゥベーナタッチの頭と左手だ」

…やはりドベちゃん、ダメだったのか。

虚ろな眼窩の頭蓋骨からは、もはや感情を窺い知ることは叶わない。

そしてあの曲がってしまっていた指。

最期まで治してもらえなかったんだ。

もはや怒りや悔しさも沸かない、諦念と哀悼だけ。

自然と涙が出る。

なんだか、見ているもの、聞こえるもの、匂うもの、全てに現実感がない。

今はユリアと繋いだ手だけが、唯一の感覚だった。



ごめんねドベちゃん、僕が…いや俺が弱いばっかりに、最期まで報われなかった。

懲りずにまた失敗してしまった、何度後悔したら幸せになれるのだろう。

俺はただ、身近な人に笑顔で居て欲しかっただけなのに。

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