第6話 精霊喰い

『他に精霊はいねえか?』


 水の精霊の魔力を存在ごと吸い取ったオレは、他の精霊を探して池の周りを飛び回った。しかし、見つからない。水の精霊は他にはいないらしい。


『待てよ……?』


 オレが欲しいのは魔力だ。ならべつに水の精霊に拘る必要はないんじゃないか?


『水の精霊は池にいた。じゃあ、他の精霊は?』


 オレの目線は街の更に先、砂漠へと向かっていた。


『てなわけで、砂漠にやってきたわけだが……。いるな』


 精霊ってのは浮いてるのが普通なのか、見つけやすかった。うじゃうじゃいるわけじゃないが、ポツポツとそれなりにいやがる。


『これは何の精霊だ?』


 オレの目の前には、丸く削り出された石のような精霊が浮いている。シンプルに石の精霊とかか?


『よお。今日はおたくに頼みがあってよ。魔力が欲しいんだが……』


 しかし、いくら話しかけても精霊に反応はなかった。


『またシカトか。精霊ってのは愛想ってやつがない。まぁなんだ。悪いが、あんたを貰うぜ?』


 オレは尻尾を精霊に突き刺すと、魔力を吸収していく。徐々に精霊の姿が薄くなっていき、最後には消えた。


『わりいな』


 そして、オレは次々と精霊を吸収していった。トカゲみたいなやつ、ツララみたいなやつ、とにかく色々だ。


 どの精霊も無反応だったな。もしかしたら、精霊は自我ってのがないのか?


 そのぐらい無反応だった。


 普通、自分が消えるんだから抵抗くらいすると思うんだが……。精霊は普通の生物じゃないってことかね?


 まぁ、吸収している側からすりゃ、抵抗がないのはありがたいが……。なんだか気持ち悪いな。


 そんな感じで精霊を吸収していたら、いつの間にか朝日が昇り始めていた。


『砂の海に浮かぶ朝日ってのも乙なものかね。さて、戻るか』


 オレはふよふよと飛びながらオアシスの街を目指すのだった。



 ◇



 ちょっとドキドキしたものを感じながら、オレは色町へと入っていく。


 娼館の中に入ると、ちょうど朝食の時間だったみたいだ。長いテーブルの前で床に座る女たちに交じってペトラが飯を食っていた。よく見たら、ペトラだけメニューが違う。なんだかパンを煮て作った粥みたいな飯だな。


 まぁ、ペトラは病人ってわけじゃないが、何日もまともに食えてなかったみたいだからな。粥から始めた方がいいのかもしれねえな。


『にしても……』


 やっぱ女ばかりだから無防備になるんだろうか。かなり際どい格好の女が多い。もうほとんど下着姿同然だ。中には仕事着なのか、スケスケでまったく隠れてない奴までいやがる。


『日本の女子校もかなり開放的だって聞いた覚えがあるな。男の目が無いとこんなものなのかもしれねえな……』

「あ、アラン!」


 黄昏ていると、ペトラがオレを見つけて指を差していた。


 飯を食ってた女たちが一斉にペトラの指差した方を見ている。中には拝んでる奴もいた。


 ペトラが勢いよく立ち上がると、よたよたと走ってオレを抱きしめる。痩せた肋骨の感触を感じる。


『どうしたんだ? さっさと飯食っちまえよ』

「朝、いなかった……」


 ペトラが涙声で答える。もしかして、朝起きた時にいなかったから捨てられたとでも思ったのだろうか?


『ちょっと街の中を散歩してただけだ。そんな心配してんじゃねえよ』

「うん……」

「ペトラ、精霊様帰ってきたの?」

「よかったね、ペトラ」

「ん……」


 泣きそうなペトラの頭を女たちがポンポン優しく叩く。そこには血のつながりはないだろうが、たしかな家族の絆のようなものを感じた。


『ほら、食える時に食っとけ。冷めちまうぞ』

「ん……」


 ペトラはオレを抱っこしたままテーブルに戻ると、オレを抱いたままスプーンでパン粥を食べ始めた。そこには、もう絶対にどっかに行かせないという強い意志を感じた。


『猫でも飯時には戻ってくるんだぜ? オレもちゃんとペトラんとこに戻ってくる』

「やくそく……?」

『ああ。約束してやる』

「ん……」


 ペトラの拘束が少しだけ緩んだ気がした。にしても、ペトラは本当にガリガリだな。


『もっと食え。女ってのは抱いた時に柔らかい方がいいぞ?』

「ふーん……」


 気のない返事をしながらも、ペトラの食べるスピードが上がった。


 この調子でもう少しふっくらしてほしいところだ。今のペトラは瘦せ過ぎだ。


『今日はこの後で服を買いに行くぞ』

「いらない……」

『さすがにそのボロのままじゃダメだろ?』

「これでいい」


 なぜかペトラは服を買うことに難色を示した。なんでだ? 女って服買うのが好きじゃないのか?


『なにが気に入らないんだ?』

「お金、もったいない……」

『金なら水を売ればいくらでも稼げるさ』

「ほんと?」

『本当だ。だから服を買いに行くぞ』

「うーん……」

「どうしたのペトラ?」


 ペトラが渋っていると、周りに女たちが集まっていた。


「アランが服買いに行くって言ってる……」

「アランって精霊様のことよね?」

「いいんじゃない? ここにはまともな子ども用の服って置いてないし」


 きっとエロいスケスケの服とかならいっぱいあるんだろうなぁ……。


『ほらみろ。じゃあ服を買いに行くぞ。これは決定だ』

「うーん……」


 オレはなおも渋るペトラを説得して街に繰り出すのだった。

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