第25話 偽物のスパダリ
分身が嬉しそうにアリスンの膝にのり、スリスリと甘えている。アリスンは蕩けそうな笑顔で分身をもふりだした。
「なんて可愛いの! 名前は? 名前はなんというのです?」
名前……考えてなかった。
「ずっと兄貴に奪われてたから、名前考えてませんでした。孤児院で付けてもらおうかな、と。あ、ちなみにその動物は、猫って言うんですよ。キャッツランドでは神の使いとして崇められている生き物です」
俺はアリスンにキャッツランドという国の成り立ちを話す。100年生きた猫が月の魔力により人間の女の子になり、好きな男と結ばれた。それがキャッツランドの初代国王と、王妃になった。
「キャッツランド王家は、100年生きた猫の子孫なんです。その関係で俺達も猫に変身できます。その子は、俺の猫変化時の姿そのものなんです」
アリスンはえっ! と驚いている。
「アレク殿下は、可愛い女の子だけでなく、可愛い猫にもなれるんですか!? 可愛いの塊じゃないですか!」
調子に乗って猫変化をしてみた。アリスンが歓声をあげる。
「きゃーーーー! 可愛い! アレク殿下、人の時も素敵なのに、どうしてこんなに愛らしいの!」
今、人の時も素敵って言いましたよね? 先日のTS変装時ではなく、男の俺ってことですよね? 分身にシャアシャア威嚇されながらもスリスリしてみる。
そんなときめきタイムを過ごしている時に馬車が停止した。
「着きましたよ。殿下、どちらが本物ですか?」
騎士団長は少し咎めるような視線を、二匹の猫に送った。
◇◆◇
「あーーっ! 偽物のスパダリだ!」
俺を見た少年達が、意味不明なことを言う。
「俺はスパダリじゃないし、偽物でもない! 単なる一般人ですッ!」
囃したてる少年の口を塞ぎ、ますます面白がられて他の少年達に騒がれると言う悪循環。
別の少年達がアリスンに駆け寄る。
「アリスン! このお兄ちゃん、二股してるよ! サファリとも仲いいもん」
「バカッ! 子供が二股とか変な言葉使うんじゃない!」
なぜか男の子達から嫌われてしまったようだ。何もしてないのに。
アリスンは子供達に囲まれて、庭に連れて行かれてしまう。
「あ! この人がスパダリ!?」
「スパダリだー!」
今度は女の子達がやってきて、俺のことをスパダリと呼ぶ。その中には先日話をしたリーザもいる。先日は一人孤独に蹲っていたけど、今日はお友達と一緒にいるようだ。とりあえずは良かった。
「俺はスパダリじゃないから。アレクです!」
そう言って、施設長のナタリーを探す。ナタリーは俺が乗ってきた馬車を見て唖然としていた。
「皇帝陛下の馬車のような豪奢な造りですね。やはりアレク様は、相当な名家のご令息なのでは?」
ナタリーは俺にそんなことを言う。まずい。
「そんな方に洗濯なんてさせて……ッ」
「い、いいんですって! 俺は次男坊ですし、そんな大した家じゃないですから!」
女の子達は馬車を見て「やっぱりスパダリじゃん」「王子様か公爵様じゃないのー?」と大騒ぎだ。
「二股の偽スパダリ、ドッチボールやろうぜ!」
男の子達が俺をドッチボールへ誘う。さてはスパダリに狙いを定めていじめる気だな。前世で暗殺ターゲットにしたサファリパパも、スパダリといえばスパダリだ。前世の俺はこういう心境だったのかもしれない。
「俺は二股のスパダリじゃない! けど受けて立とう!」
子供に負ける俺じゃない。全力でドッチボールへ参加してしまった。
そして俺は忘れていたよ、猫のことを。猫は勝手に施設へすすーっと入り、あらゆる場所にスリスリをして、自分の匂いをこすりつけていた。
「アレク様、この猫はアレク様の子供ですか?」
ナタリーがとんでもないことを言う。子供とか! 俺はまだ独身で隠し子なんていないのに!
「ち、違います! 俺は魔術師なんで、魔術で作った猫なんです」
ドッチボールで泥だらけになりながら、俺はナタリーに猫の説明をする。
「その子は餌も下の世話もいらないんで。俺の分身なんです。良かったらここに置いてやってください」
いらないと言われたら、どこかの養老院にでも置かせてもらおうかなと思ったけれど、ナタリーはものすごく嬉しそうに承諾してくれた。
ドッチボールに疲れた男の子達、スパダリに夢中の女の子達も猫に魅せられている。
「かわいー!」
「抱っこしたい!」
「一人占めすんなよー」
ナタリーが「乱暴はダメよ!」「順番にね!」と注意をしている。やっとアリスンも子供達から解放されたようだ。
アリスンは、女の子達がベンチに置いていった本を手に取ってぺらぺらとめくっていた。リーザが気に入っていたスパダリの本だ。
「あの、俺が二股とか誤解ですからね! サファリとはおしめしてる時からの付き合いなんで、単なる親戚というか、幼馴染みというか!」
必死に弁解していると、アリスンが俯きながら笑って、俺を奈落の底に突き落とす。
「……キャッツランド王国とカグヤ王国は
そうでした。アリスンは俺のことを友達としか思ってないのでした。全く嫉妬する気配もない。
「なりません!! 俺は、貴女のことが……ッ」
言いかけた時にまたもや邪魔が。もうお約束ってやつですよね。
「あーーッ! 偽スパダリがアリスンのこと口説いてる!」
「アリスン、ダメだよ! 偽スパダリは男の敵なんだよ!」
アリスンに惚れていると思わしき男子達が邪魔をしてくる。男の敵……胸にグサッとくる一言だ。
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