第20話 捨てられなかったスパイ

 どうしてお前がスパイだとわかったと思う?


「さあな」


 お前の持ち物は変わってるもんばかりだよな。


 どうしてそんなボロボロのスーツを着ているんだ?


「成人式に必要で、結構高かったんだよ」


 なるほど、それで捨てるのがもったいなくて、還暦になった今でも着ているわけか。


 それじゃあ次だ。どうしてこんな昔のゲーム機を未だに持ち歩いている?


「子供の頃にお小遣いを何ヶ月も貯めて、ようやく買えたものだからだ」


 思い出の品というわけだな。

 ってこれ、電源を点けたらスマホと変わらないじゃないか。


「スパイ道具だよ。中身を改造してあるんだ」


 お前、最愛の人に先立たれたら、遺体を剥製にするタイプだろ。


 じゃあ次だ。ゲーム機はまだしも、スーツ姿にテニスラケットはないんじゃないか?


「小中高とテニスをやってたんだよ」


 また思い出の品か。

 おいおい、これも細工がしてあるじゃないか。網目が高温になるぞ。


「武器は使い慣れてるものの方がいいからな」


 お前の流儀というわけか。面白い。

 じゃあ次のこれはどう説明する?

 小学生が乗る自転車だが。


「当時にしては高い買い物だったっていうのと」


 またそれか。


「ギアチェンジがバイクのアクセルみたいでかっこいいからだ」


 感性も子供のままじゃないか。

 どうせこれも細工があるんだろ?

 って、ないじゃないか。


「あるわけないだろ。そんな古いもんどう改造しろって言うんだ」


 今までのと何が違うんだよ。


 まあいい。


 ここまでのものなら百歩譲ってちょっと変わってる人ぐらいで収められなくもないが……。


 さすがに64歳にもなってランドセルを背負ってるのは、スパイ以前に不審者として連行されるぞ。


「高いんだよ。ランドセルは」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る