死に体
双葉紫明
第1話 騒ぐ
胸が騒ぐ。
彼女は傷ついた事を知らせて来た。それでいい。もう、彼女の事は書かない。
この一年間、長かった。なるようになった。僕は心臓がこんなに重たくて、身体がふわふわな事を知った。塵つぶみたいに霧散しそうな僕の手足に脳の信号は届かない。否、脳が「ナニモデキナイ」という信号を、止めても止めても出して来る。それでもギリギリなんとか動いて、ひとりで焦っている。全部捨てた。
闇が騒ぐ。
頭の中。彼女がおんなじ気持ちに一瞬でもなったならば、書いて良かった。良い思い出まで後悔になる。期待は絶望になる。そうとしかならない。もう彼女を想わない。だってもたないだろ?こんな気持ち。僕はこの一年間ずっとその中に居た。それを度々書いたけど、伝わらなかった。やっと伝わった。どっちも死んじゃダメなんだ。このままでは僕は死ぬ。それよりは、いがみ合って生きよう。全部諦めた。
騒げ。狂え。沈め。逃げろ。僕は逃げる。逃げも隠れもするんだ。
騒げ。怒れ。泣け。追うな。追うだけ無駄だよ。なんも無いんだ。
内臓が暴れ、四肢はだらん。吐き気、眠い。それでも心臓が僕を地面に突き刺す。嫌なにおいが指先に纏わりついて離れない。それがまた悪心を連れてくる。味わえ。
これから書くのは明るくて美しい物語。僕も彼女も居ない、まるきり夢みたいなお伽噺。それしか書かない。もう、吐き出そうにも胃液も出やしない。頭に靄がかかっちまって、いい夢見るには丁度いい。
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