第16話 学校をやめようかな(2)

 わたしの指示を受けて喜んで私の手から飛び出すピクシー。教室を飛び回って、金色に光る粉のようなものを振りまきはじめるが、剣士くんや家保くん以外には見えていないようだった。

「はあ、こんなにやる気がなくて生意気なガキに勉強を教えるのはめんどくさいな。夏休みが長いから教師になったけれど、残業も多いし失敗だったか……。塾からスカウトも来てるし、給料もいいし、転職しようかな」

 先生の突然の発言にみんなが驚いてしまう。

「先生、今の言葉、PTA会長のお母さんにいっちゃうよ!」

 愛ちゃんが喋ると、うぜえ、とか、生意気だ、というクラスメイトの本音が飛び出してきた。

「愛ちゃんて、神城さんの金魚のフンみたいにくっついてたくせに生意気なのよね」

 この言葉に愛ちゃんは泣き出してしまう。だが、誰も謝ろうともしない。こんなものだ。このクラスの結束なんて。

 本音の言い合いでクラスが学級崩壊してしまうと、ピクシーはにやにやと笑っていた。

 恐ろしい妖怪だ。

「とりあえず……どうしようか……」

 男子は教室を歩き回るし、女子はおしゃべりをしているし、先生は教師という仕事の文句ばかり言っている。

「こんな学校やめちまおうぜ」

 家保くんがわたしの席まで歩いてきて、不穏なことを言い始めた。

「転校初日に学校をやめるとは、実に妖怪らしいじゃないか、さすがだな」

 剣士くんもわたしの席にやってきた。

「だ、だめだよ。授業中に立ち上がったら。ちゃんと席について勉強をしないと……」

 わたしがふたりにそんなことを話していると、先生が、もう小学校の教師はうんざりだ! 今日こそ退職してやる! と叫んで教室から飛び出して行った。

 これには他の生徒たちも呆然としていた。

 先生がそのまま教室から立ち去ってしまい、しばらくすると慌てて教頭先生が教室に入ってきた。


「授業中に歩き回って、おしゃべりして、なにをしとるんだね! 君たち! みんな、早く山田先生に謝りに行きなさい!」

 だが、クラス全員で職員室に行くと先生はおらず、山田先生は帰ってしまったと校長先生が説明をはじめた。

「前代未聞だ! ああ、頭が痛い。とりあえず、今日のところはみなさん家に帰るように。今後のことについては先生たちで話し合います」

 そう言って、教頭先生は頭を抱えていた。


「ピクシー、やりすぎだよ」

 学校からの帰り道、わたしはピクシーにそう言ったが、まるで反省していない様子だった。

「だって、わたしは妖怪だもん。人間の学校なんて、しーらないっ!」

 そうやってやりとりをしていると、隣を歩いている剣士くんがにやにやと笑っていた。

「ピクシーは海外の妖怪でしかもなかなか上位の妖怪らしいぞ。家保のやつが言っていた。そんな妖怪を従えるなんて、いおり、すごいじゃないか」

「そ、そうでもないよ。あ、そうだ、家保くんにね、わたしの先祖に妖怪がいるらしいって言われたよ。そうでないと、妖怪って見えないんだね」

「ああ、俺みたいに誰でも見える妖力の強い妖怪もいるが、姿を消している奴もいる。いや、姿を消しているやつの方が多い。その方が悪さをしやすいからな」

 はぁ、わたしって、やっかいなことに巻き込まれたのかなぁ。でも、いままでのクラスは大嫌いだったし、先生のこともあまり好きじゃなかった。家保くんじゃないけれど、いじめられているし、いっそ学校をやめたいと思っていた。ただ、学校をやめると大人になってから苦労すると言われているから、イマイチ勇気が出なかったのだ。そんなことを考えていた。

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