転生した元・男.....気がつくと、エルフ!?

黒川宮音

〜前日譚〜

第1話 彼女の素性

人生初の合コンに参加した帰り道、道の路肩でうずくまっている女性を見かけた。


年は、20代ぐらいだろう。


俺は不器用ながら声をかけた。


「あの....大丈夫ですか?こんなところで一晩を越すのは無理があると....」


泣いているようで、こちらの声は届いていない様子だ。


「もしよかったら、うちへ来ませんか?ここより温かいとは思いますが....」


はたから見ればアウトな発言にも聞こえるが、まあいい。


「いいんですかぁ....ヒック...?」


その女性は泣きながら返答した。


「鈴村さんというんですね、道の路肩で何があったんですか?」


「実は....」


家へ帰るまでの道のりで、彼女はことの経緯を話した。


彼女は今、記憶喪失らしい。


自分がどうして道の路肩にいたのか、覚えていないという。


「記憶喪失....実際あるもんなんですね」


「はい...思い出そうとすると頭が痛くなるんです」


俺は一軒家を借りている。


借りているという表現が正しいのかはわからないが、前の住人が一家夜逃げしたらしく。


俺はそのまま不動産屋のオーナーと家賃を払う契約をし、住まわせてもらっているのだ。


一軒家というのは実にありがたい。


「着きました、ここが我が家です」


「狭いかもしれませんが、外よりはくつろげると思いますよ」


玄関のドアを開け、彼女を招き入れた。


「外はすごく寒かったでしょう?今、お風呂の準備をしてくるのでゆっくりしていてください」


彼女をリビングへ案内し、その間お風呂の準備をする。


「お風呂が湧いたら、先に入ってもらって構いません」


「着替えは用意しておくので」


これまた、アウトそうな発言をしてしまった。


女性経験がない俺からすれば、何が正しいのかは全くわからない。


「........zzz」


彼女はリビングのソファーで寝ていた。


相当疲れていたのだろう。


「しかし、どうして道の路肩で泣いていたんだろうか」


彼女のどこか見覚えがある顔....


一体どこで....


「ニュースの途中ですが、速報です」


「今朝、〇〇市の一軒家で一家5人が遺体として発見されました」


それは、朝のニュースの途中で流れた速報


一家5人が殺害され、遺体として見つかったという事件


犯人は20代前半の女性とのことだったが、朝早くのニュースだったためはっきりと覚えていない部分が多い。


翌日の新聞には容疑者だという20代の女性の写真が載っており、いまだ発見に至っていないとされていた。


「そうだ!あの新聞の女性に何処か似ている...」


もし、彼女が一家5人を殺害した容疑者ならとんでもないことになるだろう。


俺にも危険が及ぶかもしれない。


しかし、未だ眠ったままの彼女をどうするべきか。


「........気付いたのね.....私の正体に」


「.......!!」


突然の出来事に俺は危うく発狂しそうになった。


「えっと...?お風呂湧いたけど、入る...?」


「へぇ....、そうやって気づいてないふりするんだ.」


怖い怖い..


彼女の言動一つ一つに恐怖を感じる。


「知ってるんでしょ?あの事件..」


「包丁って意外と刺しやすいんだよね..」


その言葉であるワードが脳裏に浮かんだ。

          

          ・

          ・

          ・


「現場に残されていたには被害者の血痕が付着しており、凶器だとされています」


次の瞬間、体に鋭い痛みが走った。


「私ね、人間すべてが憎いの...自分ももちろん」


自分の腕を確認すると、真っ赤な血液がポタポタと垂れていた。


どうやら、とっさに腕でかばったらしい。


しかし、傷口は浅いとは言えず放置すれば命が危ないだろう。


彼女の手には包丁が握られている。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺は君を助けようと...」


彼女は包丁に付着した俺の血液をペロッと舐めた。


(やばい...)


本能的に俺はそう感じた。


このままでは彼女に殺されてしまう。


「あなたは全然悪くない....いや、この世の人間は全員悪い人だ」


「一緒に死んでくれる?」


俺は恐怖と緊張で失禁しかけていた。


ようやく理解した。


眼の前にいるのは凶悪な殺人犯であり、躊躇なく人を殺せる人間だと。


「ゥァァァァァ!!!」


彼女は叫びながら、包丁を俺へ突き立てた。


鈍い音を立て、鋭い刃は服を貫き肌を貫通する。


「ゴフッ...」


俺は吐血していた。


服は自身の血で真っ赤に染まり、部屋の床も血で汚れていた。


「....オレ....ㇱ....ぬ....か....」


どうやら腹部から大量に出血しているらしく、意識が薄れていく。


彼女は俺のそばで倒れている。


喉元を包丁で切ったらしく、すでに息がなかった。


クソ....


ここで死ぬんだろう....


思い返せば、人並みのことしかしてこなかった人生だったな。


もし、来世があるのなら...


今度は......


そこで俺の意識はプツンと途切れた。


                    次話:「異世界転生してしまった」











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